人事評価は絶対評価と相対評価のどちらにすべきか
人事評価の基準は、大きく絶対評価と相対評価の2つに分けられます。
絶対評価とは、他の社員と比較せず、あくまで被評価者の働きぶりのみを振り返って評価する方法で、相対評価とは他の社員と比較して被評価者の評価を決める方法です。
どちらで評価するかは企業によって様々です。最初から相対評価で、例えば5段階の一番上のS評価に該当する社員が全体の5%、A評価に該当する社員が20%、などと割合を決めておく企業もある一方で、直属の上長が行う1次評価は絶対評価で行った後、2次評価や3次評価の段階で部門間の甘辛を含めて相対評価で調整する企業もあります。
私は1次評価から最終評価まで一貫して絶対評価の方が良いと考えています。つまり、必ずしも評価結果が釣鐘型の分布を描く必要はなく、例えば5段階のうち上から2番目の評価を取った社員の人数が一番多くなっても構わないということです。
その理由は、相対評価よりも絶対評価の方が、各社員のモチベーション向上のためには適していると思うからです。
有名なモチベーション理論の1つである動機付け・衛生理論によると、仕事に関する人間の欲求には2つの種類があります。1つは、仕事の不満を予防する働きを持つ要因である「衛生要因」。もう1つは、より高い業績へと人々を動機付ける要因である「動機付け要因」です。賃金は「衛生要因」に該当します。
つまり、いくら賃金を高めても、単に仕事への不満を予防する効果しかなく、モチベーションを高めるためには「動機付け要因」を充実しなければならないということです。
「動機付け要因」の1つに、「達成を認められること」があります。そして、各社員が達成したことを認め、モチベーションを向上させることこそが人事評価の重要な目的なのです。
相対評価の場合は、仮に全社員が一丸となって頑張り、成果を挙げた場合、「あなたも頑張ったけど他の人も全員頑張ったんだから」という理屈で個々の社員は真ん中の評価点しかつかなくなってしまう可能性があります。これでは皆で頑張ろうというモチベーションは生まれません。むしろ、他の社員の失敗を望んだり、足を引っ張ったりする空気が蔓延しやすくなります。
ですから、全員が頑張って成果を挙げた場合は全員を認め、良い評価点をつけられる絶対評価の方が、各社員のモチベーションは向上できるのです。
それにも関わらず、相対評価にする企業が相当数存在している主な理由は、次の2つの誤解によるものだと私は考えています。
1つめは、高い評価の人と低い評価の人を必ず一定割合で存在させなければ賞与額や昇給額が大きくなり、人件費負担が過大になってしまうという誤解です。
本来、人件費については人事評価制度ではなく、賃金制度でコントロールすべきものです。賃金制度の中に総額人件費をコントロールする仕組みを用意しておけば、たとえ絶対評価の結果、高い評価の人が多くなったとしても、経営的に妥当な人件費負担に抑えることは可能なのです。ところが、人事評価制度と賃金制度の境界が不明確だと、人事評価を行う際に人件費負担も考慮しなければならず、相対評価にするしかなくなってしまうのです。
2つめは、高い評価の人と低い評価の人を必ず一定割合で存在させなければ真ん中の評価ばかりでメリハリがつかず、頑張った人が報われないという誤解です。
きちんと評価した結果として、真ん中に寄るのであれば何の問題もなく、無理に上下にばらつかせる必要はありません。問題となるのは、評価者のスキルが足りずに適正な評価ができない結果、真ん中に寄るケースです。これについては、評価者訓練を地道に行って評価者のスキルを上げていくしかありません。ところが、相対評価にすると、簡単にメリハリをつけることができ、あたかも適正に評価できているかのように見えるのです。
以上のように、各社員のモチベーション向上という視点で考えると、相対評価を採用すべき合理的な理由はありません。
総額人件費をコントロールする仕組みを用意して、人件費負担を適正に抑えられるようにすること。そして、評価者訓練を地道に行って評価者のスキルを上げ、絶対評価できちんと評価できるようにすること。
この2つに留意して、1次評価から最終評価まで絶対評価にし、達成したことはきちんと認めるようにすることが、各社員のモチベーション向上、ひいては企業の成長・発展につながっていくのだと思います。
株式会社トリプルウィンコンサルティング
代表取締役 樋野 昌法(中小企業診断士・社会保険労務士)
- 経営戦略・経営管理
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「人事評価問題」「未払い残業問題」「パワハラ問題」「労働組合問題」を専門とする中小企業診断士・社会保険労務士です。
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