絶対評価と相対評価はどちらがよいか?
人事評価の評価方法として大きく大別しますと「絶対評価」と「相対評価」があります
が、果たしてどちらが良いのでしょうか?
もちろん、自社内の様々な事情や人材育成の現状や方針などによって異なりますので、
断定することはできませんが・・・。
絶対評価と相対評価の違いや長所・短所をご紹介する前に、ある企業の社長から受けた
ご相談内容とその改善策についてご紹介したいと思います。
以下のような二つのご相談がありました。
①現在当社の人事制度は、絶対評価をベースに評価を実施しているが、評価者(上司)
の評価にバラツキが生じており、部門間での評価に相当な格差が生じている。
社内で評価者訓練なども実施してきたがほとんど改善されない。このままだと、社員
のモチベーションもどんどん低下してしまう。
②絶対評価といっても、例えば、技術部門の一般層の評価を例にとると、入社1年目の
社員もいるし10年選手もいる。「技術(一般層)」としての評価シートで評価を行
っているが、そこで求めているレベルは、入社1年目の社員と10年目の社員ではハ
ードル(難易度)が明らかに違う。
また、担当している業務をベースに評価を行うと、入社1年目(経験の少ない社員)
の社員は4や5といった高評価はほとんど困難であり、モチベーションに問題が生じ
ている。
とのこと。大変厄介な問題です。
そこで、いろいろと会社の実情を確認させて頂いた上で、弊社がご提案した改善の方向
性を紹介しますと・・・
■まず①のご相談に対して、
◎評価のバラツキには、避けることが難しいものと未然に防げるものがある。
避けることが難しいバラツキとは、評価者の業務経験・価値観・気質・性格などから
くるバラツキ。未然に防げるバラツキとは、評価制度の目的・仕組み・ルール、評価
の判断基準についての理解、評価すべき対象の事実や結果に対する見方など。
まずは、未然に防げるバラツキ是正のための取り組みをしっかりと行って頂くこと。
これらを行うことは避けることが難しいバラツキの是正にもつながる。
◎正しい(より効果的な)評価者訓練を実施すること。
ちなみに、この会社の評価者訓練は、一部の上位管理者を対象に評価制度の内容をレ
クチャーするといったものでした。これでは、本来の評価者訓練とは程遠いものにな
ってしまい効果性に疑問が生じます。
ご提案した評価者訓練の内容・進め方のポイントは、
・評価者訓練受講者を4~5人程度のグループに分け、各グループ単位で
被評価者を選び、実際に評価する。
・グループ内での各人の評価のバラツキの原因を探り、より適切な評価の
視点・方法の共有化を図る。
・その後、被評価者の重点課題を探り出し改善方向性について討議を行う。
但し、このような評価者訓練はとても大切ですが、一度実施してそれですべてが解決す
るわけではありません。
定期的な評価者訓練の実施が必要です。更に、日々の部下の業務サポートや部門管理を
通じて評価者としての課題の抽出と改善なども必要です。
ちなみに、このような取り組みは、管理者のマネジメント能力向上にも大いに寄与しま
す。
また、実際の評価の場面では、部門間の評価調整(全社調整)を行うことが必要となり
ます。これは、最終的には相対的な評価を行うということではなく、より正しい評価の
ために、多面的な情報の共有とバラツキの是正といった意識で取り組むことが大切です。
また各社員は、例え同部門・同職種であっても、それぞれが異なる業務を担当したり、
そのアウトプット(成果)、行動、必要な能力も異なる場合もあります。
部門別・職種別の評価シートがあるにしても、これらの成果、行動、能力を同一の評価
基準で評価することは決して簡単ではありません。
ですから、どのような業務を、どのような環境下で、どのような評価を下したか、とい
った現場レベルでの事例を収集し共有化することが大切です。要するに、評価ノウハウ
の蓄積です。
このような取り組みは、より正しい評価と評価者間のバラツキ是正、更には、評価者の
マネジメント能力向上に大きく寄与します。
■次に②のご相談に対して、
これにはいくつかの対処方法がありますが、二つの取り組みについてご紹介します。
◎現状の5段階評価を7段階評価にする。一般層を資格等級区分ごとに分け、1等級社
員は1~5段階、2等級社員は2~6段階、3等級社員は3~7段階をもって、5段
階評価とする。
≪ 評価段階 → 1 2 3 4 5 6 7 ≫
1等級 1 2 3 4 5
2等級 1 2 3 4 5
3等級 1 2 3 4 5
このような方法ですと、同じ一般層に属する社員の経験やスキル等に応じて、そのハ
ードル(難易度)をより公平にすることが可能となります。
◎資格等級と評価結果の二つの基準で昇給額を決定する。
例えば、1・2・3等級者がそれぞれ3号俸分の昇給を実現するためには、
・1等級者の評価得点は、50点~69点であること。
・2等級者の評価得点は、55点~74点であること。
・3等級者の評価得点は、60点~79点であること。
このように3号俸分の昇給額を獲得するために、等級別にハードル(評価点)を変え
ることで(すなわち、同じ評価得点でも等級により昇給号俸に差をつける)、より公
平感を持たせようとするものです。
これは基本的には、等級によって担当業務のレベルや責任が違うためです。
※この会社は職能資格制度を導入しており、社員の能力の発展段階を7つの区分に分
け、それぞれの区分(等級)で会社として期待する能力要件を明示されています。
(1~3等級を一般層、4・5等級を管理者層、6・7等級を上席管理者層)
これら二つの対応は、わりと多くの企業で取り入れている方法ですが、他にもいくつか
の対応方法があります。
また、ご相談企業の改善の方向性として、この二つの方法が最良な方法なのかどうかは、
もう少し会社の社内外の環境や経営(人材)課題、組織風土、人材の意識レベルなどを
きちんと把握しないと何とも言えない部分はありますが、いずれにしても当該企業の実
情に応じて最良の方法を見出すことが大切です。
ちなみに、ご相談企業の社長は、「・・・このような問題があり、運用も難しい、時間
も取れない。いっそのこと、相対評価に変えようとも考えている」とのこと。
しかしこれには、弊社は反対しました。一般的にどちらが望ましいか断定的な事は言え
ませんが、この会社の場合、3年前に人事制度の抜本的な見直しをされていたのです。
会社の戦略や人材課題をそれなりに反映した制度を策定され、絶対評価方式の元に賃金
制度や昇格制度も運用されていました。
また、ご相談のような課題はあるものの、3年前に策定された制度は定着しつつある状
況です。
また何よりも、人材育成の基本として「自社内のみで通用する人材を育成するのではな
く、広く社会に通用する人材を育成することで、社員の本当の意味での自己実現を図っ
てほしい」とのこと。
このような状況を踏まえると、絶対評価方式が好ましいことは明白です。
後は、正しい評価者訓練、日々の運用の仕組みの整備、評価事例の共有化、更には他の
諸制度との連動などを通じて、人事制度をもっともっと価値あるものにしていけばよい
のです。
絶対評価と相対評価はどちらが良いのか?
絶対評価とは、人材レベルに応じてその基準が変わることなく、明確に決まっている評
価です。
すなわち、ある社員を評価するにあたって、他の社員の成績に影響することなく、当該
社員の成績そのもので評価しようとするものです。
評価要素群としては、達成度評価とその他(能力・行動・情意評価など)に分けられま
す。
◎達成度評価
~代表的なものとして、売上、利益、コストダウンなどがあり、その評価は、金額・
比率・件数などで表します。
◎その他
~代表的なものとして、計画・企画・分析・指導力などの能力評価、業務処理・実行
・リーダシップなどの行動評価、規律・協調・意欲などの情意評価があります。
ちなみに、能力評価と行動評価はほとんど同義とみなして捉えた方が現実的でしょ
う。
相対評価とは、文字通り相対的な評価であり、評価結果が当該組織のどのあたりの位置
にあるかで評価しようとするものです。
例えば、5段階評価の場合、全体の10%が5の評価、15%が4の評価、40%が3
の評価・・・などと、ある一定の割合で分布を描くような評価の方法です。
それでは、この二つの評価方式にはどのような長所・短所があるのでしょうか。
様々な長所・短所がありますが、ここではひとつふたつ程度に絞って整理しますと、
◎絶対評価の長所
~会社の経営戦略・目的の実現に向けて、期待する人材レベルを明確にすることがで
きるので、社員にとって自己成長目標が明確になり、またモチベーションアップや
組織の活性化につながる。
◎絶対評価の短所
~評価が難しい。評価者の価値観やレベルに応じてバラツキ(特に、能力・行動・情
意評価)が生じてしまい、社員のモチベーションダウンの危惧がある。
◎相対評価の長所
~人件費総額管理が容易である。ある種の納得感が得られやすい。
◎相対評価の短所
~本来の成果を上げなくても相対的に高い評価を得ることができてしまう。また、本
来の成果を上げても相対的に低い評価しか得られない。現状に安住しスキルアップ
意欲の減退やモチベーションダウンを招いてしまう。
などが上げられます。
もちろん、これ以外にも様々な長所・短所がありますが、大切なことは、どちらを選択
するにしても「運用」がとても大切になります。
中長期と短期の両方の視点で人材育成の方針や進め方を明示し、その上で社員の責任担
当業務のきめ細かいサポートを「運用」を通じて実行することが大切です。
ちなみに、弊社がサポートさせて頂いている企業様に対しては、特別な事情がある場合
を除いて「絶対評価」方式をお勧めしています。
何故かというと、繰り返しになりますが、会社の戦略や人材課題を反映させることがで
き、会社の求める人材像を明確に示すことができるからです。
もちろん、いくつかの短所がありますが、これらは運用や体制の仕組みの中で解決すべ
きものであり、また、社内管理水準の向上などにもつながるからです。
そして何よりも大切な視点は、人事評価制度は単なる評価のための制度ではないという
ことです。人材育成と会社の付加価値向上に向けた制度なのです・・・・・。
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人事制度に「人材育成の仕組みと儲かる仕組み」を組み込むノウハウで人材育成と付加価値アップを同時に実現。
経営戦略・人事処遇制度・組織活性化・業務改善改革・営業生産性向上などの仕組み作りと実践支援をさせて頂いております。近年では、「人材育成と売上アップ」を同時に実現する当社独自の人事ノウハウでコンサルティング活動を展開しております。
山藤 茂(サントウ シゲル) 経営支援部 取締役
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