タスク・イニシエーション
タスク・イニシエーションとは?
イニシエーションとは「加入儀礼」「通過儀礼」の意。人材開発の分野では、企業社会という新しい環境に足を踏み入れた新入社員が、組織に適応するためにくぐらなければならない試練や課題のプロセスを指します。とりわけ職場の仕事上の課題面での加入儀礼として、一定の成果を上げてみせることではじめて周囲に認められる経験を「タスク・イニシエーション」と呼びます。また仕事面での貢献とは別に、組織の人間関係になじむプロセス、すなわち職場という集団への加入儀礼を「グループ・イニシエーション」といいます。
新人は“実力の発揮”より“信頼の蓄積”を
与えられた仕事を全うして初めて組織の一員
学校を卒業して就職し、会社で勤め始めた新人がどのようにして組織に適応し、企業人として一人前になっていくのか――。そのプロセスに関する研究は、経営学における組織行動論の大きなテーマのひとつです。入社したての新卒ビジネスパーソンの場合、誰もが多かれ少なかれ自分には可能性があると期待し、早くそれを実現したい、周囲から認めてもらいたいと望んでいるでしょう。しかし実際には、すぐに自分の実力を発揮できたり、可能性を誇示できる重要な仕事を任されたりすることはほとんどありません。
昇進・昇格など、将来の見通しについても想像以上に厳しいという現実がしだいに明らかになり、その結果、当初の期待と組織の現実とのギャップに本人が強いショックを受けてしまうことがよくあります。いわゆる「リアリティー・ショック」という状態で、深刻化すると離職にまでいたる可能性が少なくありません。言いかえれば、新人にとってこの理想と現実とのギャップを乗り越える過程こそが、会社になじみ、組織に適応するということなのです。
では、新人が会社になじむためには、どうすればいいのか。神戸大学大学院の金井壽宏教授は、そのヒントとして米国の産業心理学者D・フェルドマンが提唱した“二つのイニシエーション”の言説を引用し、「新人の間に一定のパフォーマンスを上げてみせるか、または組織への忠誠心や協調性を発揮してみせて、はじめて組織の中で一人前として認められ、自分なりの主張や提案ができるようになる」(『踊る大捜査線に学ぶ組織論入門』より)と述べています。前者の「一定のパフォーマンスをあげてみせる」が本稿で解説する「タスク・イニシエーション」(職場の仕事上の課題面での加入儀礼)、後者の「組織への忠誠心や協調性を発揮してみせる」が「グループ・イニシエーション」(職場集団への加入儀礼)にあたります。
例えば志望と異なる部署に配属され、コピーや電話取りなどの雑用ばかりやらされている新人が、「こんな仕事をするために入社したわけじゃない」という思いを募らせたとしても不思議はありません。近年の就職難を勝ち抜いてきた人材ならなおさらでしょう。しかし実際にはどんな仕事であれ、与えられた職務に全力で取り組み、求められる成果を上げて、組織に仕事で貢献できるようになること、すなわちタスク・イニシエーションをきちんとくぐりぬけることが、組織の一員として認められる一番の近道なのです。上司や先輩世代のビジネスパーソンなら、それは経験則として理解できる真理でしょう。
社会心理学者のE.P.ホランダーによって提唱された「信頼蓄積理論」も、革新的な提案が周囲の人々に受容されるためには、従来の集団の規範に従って業績を上げ、信頼を蓄積していくことが必要と述べています。タスク・イニシエーションとは、まさにこの「信頼を蓄積する」プロセスにほかなりません。もちろん新人を受け入れる組織の側にも、タスク・イニシエーションの重要性をきちんと説明し、それを乗り越えようとする本人の努力を積極的に支援する姿勢が求められます。
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