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『日本の人事部』HRクラブ 開催レポート

【第5回テーマ】

コクヨグループのダイバーシティー戦略
~ワークライフバランス実現に向けた「働き方見直し」の取組み事例~

2010年11月26日に、『日本の人事部』HRクラブ第5回が開催されました。

今回のゲストは、コクヨ株式会社 人材開発部 ダイバーシティー推進リーダーの赤木 由紀氏。第1部では、コクヨグループがなぜダイバーシティーに取り組むことになったのか、また、何を目指しているのかについて紹介する講演を実施。第2部は赤木氏がファシリテーターとなり、参加者同士による企業事例の共有や、ディスカッションが行われました。今回も大変な盛り上がりとなった、『日本の人事部』HRクラブ。当日の様子を、レポート形式でご紹介いたします。

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【第5回 開催概要】

■テーマ
コクヨグループのダイバーシティー戦略 
~ワークライフバランス実現に向けた「働き方見直し」の取組み事例~

■開催日時
2010年11月26日(金)18:30~20:30

■ゲストスピーカー
コクヨ株式会社 人材開発部 ダイバーシティー推進リーダー 赤木 由紀氏

プロフィール:2007年コクヨ株式会社入社。コクヨグループでのダイバーシティー推進担当。「多様の価値観・能力を持った社員がどのような環境下でも働き続けられる多環境作り」を目指して日々取り組んでいる。

なぜ、ダイバーシティーを推進することになったのか

まず、第1部の赤木氏の講演では、「コクヨグループのダイバーシティー戦略」と題し、なぜ同グループがダイバーシティーに取り組むようになったのか、また、何を目指しているのか、その取り組みについてお話しいただきました。

興味深かったのが、同グループがワークライフバランスに取り組み始めた理由。グループに在籍する社員が性別・年齢別に何人いるのか、その分布をグラフにしたとき、以下に挙げる、四つの課題が見つかったからです。一つ目は、30代半ばから40代半ばのいわゆる「団塊ジュニア世代」の男性社員がとても多いということ。この層は、これから15年後くらいには、両親の介護を行わなければならないかもしれません。仕事と介護を両立できなければ、退職という手段を選択する可能性もあります。

photo二つ目は、2000年以降に入社した世代の現状。総合職として採用し、男女がほぼ同数という世代なのですが、年齢的に女性は出産ラッシュとなっていて、出産・育児をしながら働き続けることができるのかという問題が浮上しました。実際、それよりも上の世代では、両立が無理で、多くの人が辞めていったという事実もありました。

三つ目は、社員を採用して一人前にするには、採用費・教育研修費などで大きな投資が伴うので、社員が辞めていくのを何とか止めなければならないこと。
そして四つ目は、少子化によって労働人口が減少し続けていく中で、人材の確保が大きな課題となっていること。優秀な人材の確保が難しい状況で、逆に社員が辞めていくというリスクもある――。これらは企業にとって大きな問題であり、それを解決するために、「ワークライフバランス」を、生き残りをかけた成長戦略として位置づけたそうです。

同グループでは、まず「女性活躍推進」を目標としました。しかし、女性にフォーカスを当てたことに対して、社内から「本質的な問題は長時間労働であり、男性社員の働き方が何より重要」との声があったそうです。また、ワークライフバランスの推進のために、専門家を講師に迎えてセミナーを開催したところ、「ワークライフバランスという言葉の意味はわかったが、自分のこととして考えることはできない」などの声も聞かれたとのこと。「女性活躍推進」ではなく、もっと広い範囲を捉えた「ダイバーシティー」という言葉こそ、ワークライフバランスの推進においては必要不可欠――。それが明確になり、さらに本格的にダイバーシティーへ取り組んでいくことになっていったそうです。

ワークライフバランスの実現に向けて

グループを大きく発展させていくためには、社員一人ひとりが、その能力を最大限に発揮できる環境が不可欠だとして、同グループは2007年8月、黒田章裕代表取締役が推進委員長を務める、「ダイバーシティー推進室」を設置。専任は赤木氏一人ですが、グループ各社の人事担当者が参加。メンバーが意識を共有できるよう、四つのポイントを掲げました。それは、「ダイバーシティーに取り組む意義の共有」「制度の構築・浸透」「多様な社員の活躍支援」「ワークライフバランス」。どんな人が、どんな状態でも、いきいきと活躍でき、いい仕事をするための施策を展開していったのです。

同グループでは、最終ゴールであるダイバーシティーを、「多様な能力を持った社員がその能力を十分に発揮し、活き活きと働ける環境づくり」と定義しています。そのゴールを実現するための施策がワークライフバランスで、「ライフで豊かな人生を送り、自分のインプットを増やすことで、一人ひとりが生産性高く、メリハリある働き(アウトプット)を行う」と定義しています。

限られた時間のなかで、結果を出すためには、会社と家を往復しているだけではだめで、ライフをしっかりと楽しむ必要もある――。そう考えた同グループは、ワークライフバランス実現の一環として「働き方見直しプロジェクト」として期間限定・部門限定の試験的なプロジェクトがスタート。インプットにより知見を高め、生産性の高い働きや、付加価値のある製品やサービスをアウトプットする。メリハリのある働き方の実現が、豊かな人生に繋がることをビジョンとして示したのです。

それでは、ワークライフバランスを実現するために、同グループではどんな取り組みを行ってきたのでしょうか。具体例として、「朝メール」についてご説明いただきました。

  1. 仕事を始める前に、1日の仕事の予定を15分単位で入力。
  2. その予定の中で、優先順位が高いものを上位から三つピックアップする。
  3. 仕事が終わったら、実際に個々の仕事にどれくらいの時間がかかったのかを記録。
  4. なぜ時間がオーバーしてしまったのか、上位から三つピックアップし、上司に報告。

これらの内容を、メールで上司、同僚と共有するそうです。最初は、自分が見積った時間と実際の時間が乖離することも多かったとのこと。しかし、それを修正していくことで、段取り力をつけることができます。また、情報の共有により、「その人しかわからない」という仕事がなくなり「見える化」を実現。社員同士の助け合いやコミュニケーションに発展したり、上司と部下が目線を共有できたりするというメリットもあります。これを、6ヵ月間PDCAで回していくことで、職場ではコミュニケーションが活発になり、個々の段取り力は大幅にアップしていったそうです。

外出が多く、上記のような朝メールを実施することが難しいのが、営業部門。そこで、翌1週間分の予定を金曜までに入力し、月曜にメンバー全員が集まって全員のスケジュールを確認することにしました。当初は、否定的な意見が多かったのですが、実行していくことで、営業マンの意識が改革されていったそうです。予定をしっかり立てていると、営業先への訪問数やアプローチ数は多くなります。また、営業の合間のすき間時間が多いことがわかれば、それを利用して飛び込み営業を行うようになり、新規訪問件数が増えます。営業においてプラスになることは多く、同時にメリハリのある働き方も実現することができたそうです。

ワークライフバランスを実現する、さまざまな取り組み

photo このほかにも同グループでは、他社と共同で、子育て中のパパが数十名集まる交流会を実施。同じ悩みや課題を持つ人たちが、「育児」「父親」という共通の視点からワークライフバランスの重要性を認識しあうことで、仕事の仕方を見直し、「早く帰ろう」という考えのきっかけになっているそうです。

ほかにも、女性活躍を支援するためのワークショップを実施。ライフとキャリアに関する、長期的なビジョンを話し合うのですが、女性だけで実施することもあって、打ち解けるのは早く、効果的なワークとなっているそうです。その効果は大きく、これをきっかけに、キャリアアップを前向きに捉える女性が増えているとのこと。

1部の講演の最後は、赤木氏に経営戦略としてのワークライフバランスの効果について、まとめていただきました。それは、全社員にとって働きやすい環境作りを行うことであり、限られた時間の中で社員一人ひとりの能力・価値観を最大限に発揮し企業への発展につなげていくということ。その効果は、大きく3点あり、「従業員の生産性向上」「ライフ時間の充実~モチベーション向上」「優秀な社員確保・流失防止」とのことでした。

企業規模別にダイバーシティーを考える

第2部では、第1部で共有したダイバーシティー、ワークライフバランスに関する考えをもとに、会社規模別に四つのチームに分かれ、ディスカッションを実施。最初のテーマは「ダイバーシティーを自社でどのように展開していこうと考えていますか。もしくは展開していますか」。約15分間のディスカッションを行い、各チームの代表者が話し合った内容を発表していきました。(以下、発表の内容から一部抜粋)

Aチーム(従業員数:10~300名) 「ほとんどの企業でダイバーシティーに関する施策は整備されておらず、現在どう整えていこうかを考えている状況」

Bチーム(従業員数:300~1,000名) 「既にダイバーシティーに具体的に取り組んでいる。各社とも色々な取り組みを行っているが、『社員の退社を促すために職場の電気を消す』という企業が3社あった」

Cチーム(従業員数:1,000~3,000名) 「女性活用に取り組む企業が4社。具体的に動いているが、活動していくなかでは悩みも多い」

Dチーム(従業員数:1,000~10,000名) 「既に施策を進めているのが2社。これから注力するのが2社。特に注力しているのは女性、外国籍、障がい者など、企業によってさまざま」

続いて、二つ目のテーマは、「ワークライフバランスを推進するにあたり、何に留意すればいいと思いますか」。ここでも、約15分間のディスカッションを行い、各チームの代表者が話し合った内容を発表していきました。(以下、発表の内容から一部抜粋)

photo Aチーム(従業員数:10~300名) 「ワークライフバランスといっても、どんなバランスをとるかは個人によって異なる。5~10年後の理想をイメージし、実現するための施策を会社が支援するべき」

Bチーム(従業員数:300~1,000名) 「残業の削減は重要課題。実現のためには、職務範囲を曖昧にせず整理したり、ワークライフバランスという施策をキャッチコピーなどで、社員に効果的に伝えたりすることが考えられる。経営陣を巻き込むことも必要だろう」

Cチーム(従業員数:1,000~3,000名) 「どうしても手段になりがちなので、ワークライフバランスの意義を社員にしっかりと伝え、全社的に理解を促進する必要がある」

Dチーム(従業員数:1,000~10,000名) 「各社に共通するワードは『残業管理』。この仕事は私にしかできない、というような考えから生じる、サービス残業をどう乗り越えていくかを考えていかなければならない」

さまざまな「現場の生の声」が聞かれた、今回のディスカッション。初めて企業規模ごとに分かれて行いましたが、同じような悩みや課題を抱えるご担当者同士ということもあり、これまで以上に熱いディスカッションが展開されました。

社内でワークライフバランスを推進するポイントとは

最後に、赤木氏から、「社内でワークライフバランスを推進するポイント」について、ご説明いただきました。

まず、「経営者・管理職の理解が重要である」ということ。経営者・管理職という層に対し、「なぜワークライフバランスを実現しないといけないのか」を具体的なデータなどを示し、それが実現しなかった場合のリスクなどについて、しっかりと理解してもらわなければなりません。

二つ目は、「本当の課題は現場にある」ということ。アンケートやヒアリングなどによって、社員の「生の声」を聞くことで、解決すべき方向性が見えてきます。また、現場に入り込むことで、人の心を動かすことができるのです。

三つ目は、「プロジェクトチームを作り、人を巻き込む体制」。担当者が一人で抱え込むことなく、色々な人を巻き込むことで、協働できる体制にしておくのです。

四つ目は、「前向きに、何があってもあきらめない」こと。進めていく上では、いろんな壁にぶち当たります。しかし、そもそも前例のないことをやっているのだから、うまくいかなかったら、軌道修正すればよいのです。課題が見えるまで掘り下げていくことで、どうしたらいいかも見えてきます。

五つ目は、「社外の人脈や情報が大切」だということ。社外のネットワークを作り、日ごろから情報収集をしておけば、いざというとき、色々な人に助けてもらうことができるからです。

今回も熱い講演・ディスカッションが展開された、HRクラブ。2時間という時間は、あっという間に過ぎてしまいました。しかし、「もっと赤木さんにお話をうかがいたい」「もっと質問がしたい」という声は多く、今回も、居酒屋にて懇親会を開催。引き続き、ダイバーシティー、ワークライフバランスに関する熱いディスカッションが、夜遅くまで続きました。

【参加者の声】

参加者アンケートから抜粋

≪赤木氏の講演の感想≫

  • 大変勉強になりました。ありがとうございます。現在ではまだ先進的な取り組みのように感じられますが、これが当たり前であるような会社が増えればいいと思います。
  • 赤木さんの取り組みに「魂」を感じました。また是非機会を作っていただき、いろいろな話をうかがえればと思います。
  • 赤木さんのとても強い意志やエネルギーを感じました。「改革」のためには、経営者や管理者の意思はもちろんですが、バイタリティーのある人財が必要ではないかと思いました。自分自身がそうなれるよう、努力したいと思います。
  • 事例を具体的にわかりやすくご説明いただき、大変勉強になりました。ありがとうございました。

≪ディスカッションの感想≫

  • 社員数でグループ分けのディスカッションは、共通の課題があり、取り組みの「手段」についての意見交換は効果的でした。それぞれが正直に話すことができたと思います。ダイバーシティーに具体的に取り組んでいる会社は、まだまだ少ないと感じました。
  • 各社の悩み、事例が共有できて非常によかったと思います。
  • 活発な意見交換ができました。他社ではどのような取り組みをされているのか、とても勉強になりました。
  • 時間的な制約はありますが、もっと意見交換ができればよかったと思います。