マネージャーとメンバーの最高の関係性
1. はじめに
TIS株式会社の中田誠です。弊社が提供する 「人的資本経営実践サービス」 の企画推進のオーナーを務めております。
本コラムでは、「個人と組織のより良い関係」 を軸に、人的資本経営の理想のあり方について全5回に渡ってお伝えします。個人的見解に基づく内容も多くなりますが、最後までお読みいただけますと幸いです。
~ 個人と組織のより良い関係 (全5回) ~
第1回 : 企業にとって従業員は費用?資産?資本?(2024年7月16日公開)
第2回 : 経営戦略と人材戦略とキャリア戦略の連動(2024年8月6日公開)
第3回 : マネージャーとメンバーの最高の関係性
第4回 : 個人の多様な体験がイノベーションを創出する
第5回 : 人的資本経営の未来予想図
2. 複雑性を増すマネージャーの役割
第1回と第2回では、「人的資本経営」 を中心とした経営的な側面でのあるべき姿や理想形をお伝えしてきました。また、第2回では 「キャリア戦略」 の重要性について述べさせていただきました。今回は、いよいよ当コラムのタイトル 「個人と組織のより良い関係」 の核心に迫りたいと思います。
今に始まったわけではありませんが、特にここ2~3年で 「管理職(マネージャー層)が常に忙しい」 「管理職は大変」 「管理職が疲弊している」 という話を、直接的にも間接的にも見聞きする機会が多くなりました。
(※ 以下、「管理職」 は 「マネージャー」 という表記に統一して記します。)
それらの原因のひとつに、マネージャーの役割の複雑性が増したことがあるでしょう。
2010年代後半より、政府の様々な法改正や施策 (いわゆる 「働き方改革」) によって、私たちを取り巻く働く環境はより良くなってきております。そして、2020年以降のコロナ禍の環境下で、リモートワークが一気に普及しました。
これらの環境の変化に共通することは、「従業員ひとりひとりの働き方の選択肢の増加」 でしょう。2010年代前半までは 「同じ場所で同じ時間帯に一緒に働く」 職場環境が当たり前でしたが、現在は働く場所も働く時間の選択肢(多様性)も増し、企業の人事制度の支えもあって、従業員ひとりひとりに 「働く時間」 と 「働く場所」 の選択権がある程度は与えられるようになりました。
上記以外にも 「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」、「自律したキャリア形成」 などの働く環境だけではなく、従業員ひとりひとりの価値観や思い等を尊重した取り組みが、多くの企業で推進されることになりました。
ひとりひとりの働き方の選択肢(多様性)が増したことで、上司の立場であるマネージャー層にとっては、業績目標達成に向けての業務だけでも多忙である状況において、メンバーひとりひとりの働き方や価値観を尊重したマネジメントが求められることになり、プレイングマネージャーとして 「忙しい」 「大変」 「疲弊」 といった状況を招いております。
3. マネージャーとメンバーの最高の関係性
多忙を極めるマネージャーの役割分担や業務プロセスの改善等は急務ですが、改善策は別の機会に述べさせていただくとして、本コラムではマネージャーとメンバーの望ましい関係性を提示し、マネージャーが忙しい状況でも各メンバーとの関係性を少しずつでもより良くしていける方法をお伝えいたします。
こちらの図は、私が掲げている 「マネージャーとメンバーの最高の関係性」 です。左側がマネージャーやリーダーのアクション、右側がメンバーのアクションとなります。
この中で最も重要なアクションは、マネージャーからメンバーへの 「期待」 です。
- 3年後には、○○○の領域で□□□のポジションで活躍し、組織に貢献して欲しい
- ぜひ△△△を極めて、組織でナンバーワンの有識者となって欲しい
といった、中長期的なビジョンをメンバーに提示し、メンバーの目指す方向性についてお互いの思いを伝えあって合意する。
ここまでが実施できれば、マネージャーとメンバーの最高の関係性の50%は出来上がったと言っても過言ではありません。
※ 当然ながら、この期待は事業戦略や人材戦略と連動している必要があり、メンバーには期待背景として、企業や事業の中長期的な方向性(パーパス、ミッション、ビジョン、バリューなど)を伝えることも必要です。
「身近にロールモデルがいない」 「この組織で自分が何をやっていきたいかよくわからない」 「毎日同じような仕事の連続で、私は組織に貢献できているのだろうか?」 といったキャリアの悩みを持つメンバーには、このようにマネージャーからの期待の受け取りによって、仕事への貢献意欲(ワークエンゲージメント)が高まる可能性が高いです。
そして、その期待に対してメンバーは自らの行動目標を考え(思考)、マネージャーとの対話によって合意するプロセスを繰り返すことで、主体的な行動ができるようになっていきます。
「何かあった時に親身にサポートしてくれるマネージャー (支援)」、「何かを達成した時や何かを行動した時に褒めてくれるマネージャー(承認)」 は素晴らしいマネージャーです。私は、それらに加えて 「いつも自分に期待をかけてくれるマネージャー」 が持続的な個人の成長に不可欠な存在だと考えています。
次に、忙しいマネージャーが効率的に 「メンバーとの最高の関係性」 を構築していくための重要なアクションをお伝えします。
4. フィードバックと内省
「人材育成はじっくりと時間をかけて実施していく取り組みである」 とは理解しつつも、多忙なマネージャーにとっては、限られた時間でいかにメンバーの成長に寄与できるかの効率性やタイムパフォーマンスも大切です。
メンバーの育成の質的側面において最も重要なアクションは、マネージャーからの 「フィードバック」 であり、メンバー自身の 「内省」 と考えています。
新しい役割や新しい目標を次々とこなしていく 「圧倒的なインプット」 や 「圧倒的なアウトプット」 も個人の成長にとって重要です。ただ、どのような状況においても節目節目で立ち止まってKPT法(※1)などを用いて「フィードバック」と「内省」を行い、達成感や成長実感を共有した上で、次に何を目指すかを合意するプロセスを経ることが重要です。そのプロセスが、圧倒的なインプットやアウトプット量を確実に次に活かすことができるでしょう。
(※1) 「Keep (できたこと/継続すること)」 「Problem (改善するべき問題点)」 「Try (挑戦したいこと/次に取り組むこと)」 で振り返りを行う手法。
「フィードバック」 と 「内省」 で重要なことは、メンバー個人の振り返りだけではなく、メンバーの取り組みに関わったマネージャーやチームや組織としての振り返りも同時に行う点にあります。
KPT法を用いる場合は 「メンバー自身のKPT」 と 「マネージャーやチームのKPT」 をそれぞれ整理し、メンバーひとりでは解決が難しいことに対してマネージャーやチームメンバーがどのように協力していくかを会話する。このような取り組みが自然に継続できると、マネージャーとメンバーの最高の関係性が100%出来上がったと言えるでしょう。
5. まとめ
現在は、企業規模や業種に関わらず、どの企業のマネージャー層も事業や組織の業績目標達成に向けて多忙を極めています。また、企業が持続的に成長をするには継続的な人材投資と人材育成が不可欠であり、中長期的な取り組みとしてメンバーの成長にしっかりと時間をかける必要があります。
このように、限られた時間でメンバーの成長に寄与するには、今回お伝えした 「マネージャーとメンバーの最高の関係性」 を築くことが、最も効率的でタイムパフォーマンスが良い取り組みであると信じ、少しずつでもこの関係性に沿った行動を起こしてみてはいかがでしょうか。
最後に、最高の関係性を築くために必要となる、マネージャーの具体的な行動例をお伝えします。
- まずは、所属する企業や組織、事業の中長期的な方向性を理解してみる。(中期経営計画やミッション、ビジョン、バリューを、自身の言葉でメンバーに伝えられるまで読み込む)
- 組織や事業の中長期的な方向性を踏まえ、仮説でも抽象的でも良いので、3~5年後に各メンバーになって欲しい姿や期待する役割を考え、言語化してみる。
- 言語化したメンバーへの期待役割を直接本人に伝えてみる。メンバーが100%納得できる期待役割はそう簡単に見つからないことを前提に、60~70%ほどの納得感ができるまで期待役割について対話をし、言語化した「期待」の見直しを一緒に行って合意してみる。
- マネージャー自身の期待値も、自身の上司に確認してみる。
- 組織内やチーム内で、可能な限り各メンバーの期待役割(合意済の目指す姿)を相互共有し、3~5年後の組織やチームのありたい姿を語り合ってみる。
- 3カ月に1回以上は、期待値や期待役割について各メンバーと個別に対話する場を設け、必要に応じて期待値の見直しを一緒に行ってみる。
- 個人やチームや組織の節目節目で、振り返り会(フィードバックと内省)を実施してみる。個々のメンバーの振り返りだけではなく、マネージャー自身の振り返りやチームや組織運営の振り返りも一緒に行ってみる。
日々の業務が忙し過ぎて、このような取り組みを行う時間も気持ちの余裕もないという方がいらっしゃれば、改善や解決に向けてどのように取り組んでいくことが望ましいかを、ぜひ一度お話させてください。
次回(第4回)のコラムでは、これまでの内容とは変わって、「イノベーション創出」 をテーマとした人的資本経営の理想のあり方をお伝えしたいと思います。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
- リーダーシップ
- 情報システム・IT関連
事業戦略と人材戦略とキャリア戦略の連動によって従業員の持続的な成長を支える経営をITの側面からサポート
人的資本経営の実践を検討中の企業様向けに、TISインテックグループの取り組みから得たナレッジをもとに人的資本経営のマネジメントサイクルをサポートいたします。
中田 誠(ナカタマコト) エンタープライズサービス事業部 エンタープライズDXサービス企画部 エキスパート
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