「目標」で部下のやる気を高められる?目標設定の3つの使い分け
ビジネスでの「目標」は、ともすれば「ノルマ」になってしまい、部下にとっては気が重いものです。でも、「目標の3つの使い分け」を知れば、目標設定で部下のやる気を高めることができます。
●目標設定が下手な管理職
ビジネスの世界では当たり前の目標設定。人事評価においても、期初に定めた目標を期末に振り返る「目標による管理 (MBO)」を実施されている方も多いでしょう。
ところが。筆者は研修講師としてさまざまな企業で管理職の方を指導することが多いのですが、上手な目標設定をできる管理職は少数派だと感じています。多くの人は、単に上から与えられた目標数値を部下に示して、「今季の目標はこれだから、気合いを入れて取り組んで」で終わり。はたまた、管理部門など数値化しにくい職種では、「効率的に仕事をするようにして下さい」。いや、ちょっと待って。「効率的」って言われてもあまりにもバクゼンとしているんですけど…。結果として部下の行動は変わりませんし、ましてややる気が高まることはありません。
でも、実際のところは、目標設定は部下のやる気を高める重要なツールになることが、米メリーランド大学のエドウィン・ロック博士らによる「目標設定理論」によって検証されています。ここでは、日本の管理職に気をつけていただきたい目標設定における「3つの使い分け」を紹介します。
●ストレッチ目標で部下のやる気を高める
第一の使い分けは、「ストレッチ目標 vs. 必達目標」です。営業部門で売上目標を設定することを考えてみましょう。「今季のあなたの目標は売上3,000万円」のようにひとつの数字だけの目標ではなく、「必達目標として2,500万円。これはあなたの実力ならば必ず実現できるはず。でも、ストレッチ目標の3,500万円まで行けるポテンシャルはあると私は信じている」、のような説明になります。
部下にしてみると、「たしかに必達目標はクリアできそう。そこから後は積み上げでストレッチ目標にチャレンジという感じだな」と、安心感を持って取り組めるでしょう。
なお、上述のロック博士の目標設定理論においては、上司からの一方的な通知ではなく、部下も目標の設定過程に参加したほうが受け入れられやすくなると指摘されています。したがって、実務上は部下との対話をしながら、落とし所に部下を誘導していくことになります。
●状態目標で管理部門でもやる気アップ
ただ、ここまでの説明を聞いて、「いや、ウチの部署は数値目標になじまないんだけど」と悩む管理職の方もいるはずです。人事総務や企画など、仕事の成果が数値化されにくい職種です。その場合のお勧めは、「状態目標」です。すなわち、「○月□日までに▽▽の企画を立案し、部署内の合意がとれている」、「◎月◇日までに社内アンケートを完了させ、職場環境の不満要因3つを特定している」などの表現になります。
なお、このときのコツは「状態」の説明を具体的に、誰が読んでも「その状態になっているか、なっていないか」が判別可能な表現にすることです。逆に、「仕事を効率化している」、「人事制度を適正に運営している」のような曖昧な表現だと、期末になって評価をするときに「効率化しました」という部下と、「効率的じゃなかったよ」という上司の間で齟齬が生じます。そうすると、評価の納得度の低下、ひいては部下のやる気減少になってしまいます。
その意味では、たとえ管理部門でも、なんとか工夫をして数値目標化するというアプローチも考えるのがお勧めです。たとえば、筆者はあるとき「声をよくしよう」という目標を立てました。講師という仕事柄、人前で話すことが多いためです。ただ、悩みました。この目標を達成できたかを、どのようにチェックすべきか、と。そこで多少ムリヤリですが、数値化です。「△月○日までに、3人の人に『いい声』と言われる」という目標を立てることで、自分のやる気を高めたのです。
●期限が決まっているからやる気が上がる
では最後、3つの目の使い分けの説明をしましょう。それが、「期日目標 vs. 期間目標」です。実は前述の状態目標の説明の際にもありましたが、「◎月◇日までに」のように達成すべき期限が決まっているものが期日目標です。
でも、部下-とくに経験の浅い部下-のやる気を高めるためにはそれだけでは十分ではありません。そこで取り組むべきが「期間目標」、すなわち、期日目標を達成するために毎日、毎週、どのような行動をとるかの記述です。
たとえば、先ほどの筆者の目標、「声をよくする」を取り上げましょう。単に期日目標を設定しただけでは、その日までに声がよくなり、人にほめられるわけはありません。期間目標として、「毎日ボイストレーニングのルーチンを実施する」、「1ヶ月に1度はボイストレーナーに相談する」と言うのを設定することで、日々の行動を変え、最終的な期日目標に到達することができたのです。この観点では、期日目標を「目的」として、期間目標を「手段」とする、目的-手段の関係を明確に確立した、と言ってもいいかもしれません。上述の通り、経験が浅い部下の場合は、ここまで手伝ってあげることでやる気が高まるのです。
ということで、改めて3つの使い分けを整理しましょう。
- ストレッチ目標 vs. 必達目標
- 数値目標 vs. 状態目標
- 期日目標 vs. 期間目標
おそらくは、「言われてみれば、たしかに」というものばかりと想像します。ただ、ビジネスの現場でできていない人が多いのも事実ですので、ぜひ取り入れることをお勧めします。
- リーダーシップ
- マネジメント
- チームビルディング
- コミュニケーション
- ロジカルシンキング・課題解決
グロービス経営大学院の立ち上げを担った人材育成のプロ
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
木田 知廣(キダ トモヒロ) シンメトリー・ジャパン代表
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