【対談】北極冒険家 荻田泰永さん(1)

カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行を実施し、2000年から2019年までの20年間に18回、北極圏各地をおよそ10,000km以上踏破している世界有数の北極冒険家 荻田泰永さんは2016年には世界初踏破となるカナダとグリーンランドの最北の村をつなぐ1000kmの単独徒歩行に、2018年には日本人初となる南極点無補給単独徒歩到達に成功し「2017植村直己冒険賞」を受賞されています。その荻田さんが約1ヶ月かけ、アウトドア初心者で海外にいったこともない人もいる若者12名を引き連れて北極圏ルート600kmの踏破に挑み、成功させました。この経緯は、著書『君はなぜ北極を歩かないのか』(産業編集センター)で書籍化されました。
アウェイである海外の、なんといっても自然の厳しさの中で自分自身に向き合い、成長していくということはどのようなことなのか。北極冒険家であり、主な著書に『北極男 増補版』(山と渓谷社)、『考える脚』(KADOKAWA)、『君はなぜ北極を歩かないのか』(産業編集センター)などがあり、さらには「冒険研究所書店」も経営されている荻田泰永さんの人材育成論に迫ります!
【略歴】
荻田 泰永(おぎた やすなが)さん
1977年神奈川県生まれ。北極冒険家。2000年に冒険家・大場満郎氏が主宰した「北磁極を目指す冒険ウォーク」に参加。以来、カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行に挑戦。2019年までの20年間に18回の北極行を行った日本唯一の「北極冒険家」。2016年、カナダとグリーンランドの最北の村をつなぐ1000kmの単独徒歩行(世界初踏破)。2018年、南極点無補給単独徒歩到達に成功(日本人初)。同年「2017植村直己冒険賞」を受賞。2019年には、若者たち12人との北極行「北極圏を目指す冒険ウォーク2019」を実現。2012年からは小学生の夏休み冒険旅「100milesAdventure」を毎年行っている。2021年神奈川県大和市に「冒険研究所書店」開業。主な著書に『北極男 増補版』(山と渓谷社)、『考える脚』(KADOKAWA)(第9回「梅棹忠夫・山と探検文学賞」受賞)、井上奈奈との共著絵本『PIHOTEK 北極を風と歩く』(講談社)(第28回「日本絵本賞」大賞受賞)などがある。
※全6回シリーズです。
第1回 究極の越境学習~若者12名が北極圏で得た学びとは~ ←今回はここです。
第2回 関わり方の本質~厳しいことを伝え、同時に主体性をもたせるコミュニケーションとは~
第3回 計画とは「こうであるはずだ」の集合体~当初の計画を手放す勇気~
第4回 待つことと応答すること~意味はあとからついてくる~
第5回 机上の理論と路上の実践~冒険と読書の関係~
第6回 対談を終えて(グローバル人材戦略研究所の視点)
【第1回 究極の越境学習~若者12名が北極圏で得た学びとは~】
北極での人材育成~現代における冒険の3G「Gold(交易)」「Gospel(布教)」そして「Growth(成長)」~
小平:荻田さんはカナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険行を実施し、2016年には世界初踏破となるカナダとグリーンランドの最北の村をつなぐ1000kmの単独徒歩行に、2018年には日本人初となる南極点無補給単独徒歩到達に成功されています。
現在のグローバル化の起源は15世紀半の大航海時代にはじまり、当時のモチベーションは「Gold(交易)」「Gospel(布教)」「Glory(名誉)」の3Gだったといわれています。荻田さんも折々言及されているイギリスのスコット隊とノルウェーのアムンセン隊による南極点到達レース(1911年。到達を果たしたアムンセン隊は無事帰還、アムンセン隊に1カ月遅れたスコット隊は帰路、全員死亡)などはまさに「Glory(名誉)」を巡るすさまじい競争だったと思います。
大航海時代から500年以上、そしてスコット隊とアムンセン隊のレースから100年以上たつ2019年、荻田さんはアウトドア経験もない大学生、若手社会人など多様な背景をもつ男女12名の若者を連れて30日かけカナダ北極圏600kmの踏破に成功されました。
私自身、グローバル人材育成の専門家として海外赴任者などビジネスパーソン以外にも大学生を対象とした経団連グローバル人材育成スカラーシップの運営支援などを行っていますが、特にコロナ禍以降日本人の内向き志向が顕著になっていることに危機感をもっています。ネットで調べた検索結果を読んで分かった気になっていないか、実際に現地に足を運ばずにリモートでのコミュニケーションで満足していないか、先ずは行動してみるという実体験が圧倒的に足りていないのではないか、と。単に頭で考えるだけでなく、実際に行動する、そこから何かを感じるという事が欠落してしまっているという問題意識です。その観点からすると、荻田さんが若者とともに行ったカナダ北極圏600km踏破は、かつての冒険者たちが海外に求めた「Glory(名誉)」が、現代において「Growth(成長、人材育成)」にアップデートされているように感じました。
荻田さん:Glory(名声)が「Growth(成長、人材育成)」にアップデートされている、とは面白い考えですね。的確だと思います。日本人の内向き志向に危機感を感じるのは私も同感です。みなさん日常の中に安住して、自分のいる社会から飛び出さない。日常というものは人生のフェーズによって変化していきます。小学生なら小学生の日常、高校生なら高校生の日常、社会人なら社会人の日常。社会人になっても立場によって日常は変わっていきます。それにも関わらずそこすら出て行かず今に固執しすぎてしまっています。変化しないことは安心につながるかもしれませんが、周囲の変化が激しい現代においてはそれが逆に大きなリスクになるということを理解すべきです。20歳そこそこだったかつての私にも、あるきっかけで大先輩の冒険家に北極圏に連れてきてもらったという原体験があります。それから20年以上経って私自身も経験を積むことができたので今度は自分の番だと思い、若者たちを日本社会という日常から連れ出しました。北極行という自分の想像を超える体験をしてもらい、世界を広げるきっかけをつくることにしたのです。
小平:普段とは異なる環境や状況に身を置き、新しい価値観や考え方に触れることで、新たな気づきや学びを得る体験、慣れ親しんだ日常から離れ、アウェイの環境に身を置き、自分でなんとかしていくーーーいわゆる「越境体験」は修羅場体験とあわせ経営者や次世代リーダー育成においても共通して求められる要素です。その代表格は海外法人での経験などですが、若者12名にとっては究極の越境体験となったようですね。この冒険についてはご著書『君はなぜ北極を歩かないのか』(産業編集センター)で読ませていただきましたが、そもそも募集の仕方が特徴的でしたね。
荻田さん:正確には募集はしていませんでした。当時、私は講演会の場などで自分の翌年の計画として若者たちと北極での徒歩冒険を行うと告知するのみでした。そもそも募集もされていない中で、まず自分から手を挙げられるか、主体的に一歩踏み出してこれるか。それが選抜でした。また、何かの参加基準を設けたとすると、その基準をクリアした型に収まった均質なメンバーが揃いかねないという懸念もありました。若者たちが日本社会から飛び出してこれまでとは違う世界、社会の外側を体験することによりそれまで自分がいた社会に対して新しい視座が生まれる、これこそが私のしたいことだったのです。
冒険とは場所でなく姿勢~日常を飛び出し、自分の想像を超える体験し、世界を広げる~
小平:若者12名をつれた北極行だけでなく、日本国内で小学生と160kmを踏破する活動にも取り組まれてるそうですね。
荻田さん:日本全国から集まった小学6年生たちと10日以上かけて100マイル(160km)を踏破するひと夏の冒険で「100milesAdventure」というものです。若者12名と北極行を行うよりも前の2012年から毎年行っています。「歩く」「生活する」「進む」という普遍的な行為こそがアクティビティとなるように、予定調和的な体験プログラムは極力排除し、それぞれの子供たちに合った成功体験を得て、再び自分の生きる世界に帰っていってもらいたいという考えから行っています。
小平:こちらも人材育成の観点で非常に興味深い試みだと感じていますが、大学生以上の若者を対象とした北極行と小学6年生を対象とした国内の「100milesAdventure」の違いというのはあるのでしょうか。
荻田さん:北極か日本かという場所、若者か小学生かという対象など表面的な違いはあれど、やっていることの本質やメンタリティ、根本的なところは同じです。実際、2019年の北極行に参加した若者がその年の「100milesAdventure」に手伝いに来てくれたときこう言ってくれました。「荻田さん、子どもたちの歩いている姿を見たり一緒に歩いていたりしているこの感じ、見覚えがあります」と。それは根本が同じだからなのです。北極行でも「100milesAdventure」でも、その本質は「日常を飛び出し、自分の想像を超える体験し、世界を広げる」ということです。つまり冒険とは場所の話ではなく、どのようなスタンスで取り組むかという姿勢の話なのです。
【第1回のポイント】
・大航海時代のグローバル展開の3G(「Gold(交易)」「Gospel(布教)」「Glory(名誉)」)のうち、「Glory(名誉)」は現代において次世代リーダー育成において求められる「越境体験・修羅場体験」の場、「Growth(成長の場)」にアップデートされている。
・選抜には何よりもまず自分から手を挙げられるか、主体的に一歩踏み出してこれるかが大切。募集要項ではなく、告知を見た時点で一歩踏み出せるか。
・冒険とは「日常を飛び出し、自分の想像を超える体験をし、世界を広げる」という姿勢のこと。
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次世代リーダー育成をはじめ世界で通用する人づくり、組織づくりをテーマに活動。グローバル経営、外国籍社員の活用/ダイバーシティマネジメント等。
「企業と人材」「賃金事情」「人事実務」「労政時報」「人事マネジメント」「グローバル経営」寄稿、「外国人社員の証言 日本の会社40の弱点」(文藝春秋)。政府会議有識者、大学講師、防災士、富士スピードウェイ走行ライセンス所持、グリーフケア勉強中
小平達也(コダイラタツヤ) 株式会社グローバル人材戦略研究所

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