自社におけるプレゼンティーイズムとは何なのか?
健康経営に関連するご相談でいいますと、やはり「プレゼンティーイズム」に関してのお悩みが多いようです。
「どのツールを使えばいいか」
「何をKPIにするのが適切か」
「測ってはいるけれど、活用できていない」
「どうすれば数値が改善するのか」
「実績値や目標値を社外公開すべか」
これらのお悩みは、プレゼンティーイズムを概念的にとらえるだけでなく「自社におけるプレゼンティーイズムとは何なのか」ということを具体的に検証していくと、解決していくと思います。
アメリカにおける先行研究によれば、健康に関連する企業の総コストのうち、医療費や薬剤費(直接費用)は24%を占めるに過ぎず、生産性の損失(間接費用)が約75%を占めるといいます。その中でも最大のコストは「プレゼンティーイズム」です。
産業医科大学産業保健経営研究室が主要な研究フィールドとしているコラボヘルス研究会において、日本人12,350人を対象とした調査でも、健康問題による損失割合はプレゼンティーイズムが64%を占めていました。(医療費や薬剤費が25%、アブセンティーイズムが11%)
改めて、プレゼンティーイズムとは「何らかの健康問題を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態」を指します。
企業は社員が出勤している限り、多くはその労働時間に対して対価を支払います。社員が健康問題や心身の不調により、対価に見合う労働を提供できていないとしたら、その「ギャップ」がプレゼンティーイズムとなるわけです。企業にとっては「見えない損失」「水面下の損失」です。
何らかの健康問題を抱えながらも、休むほどではない!と一生懸命に出社し、なんとか仕事に取り組むものの、思うように成果が出せない社員の方もつらいですし、対価に見合う働きを受け取れない企業側もつらいのです。
ところで、当社では、「WFun」というプレゼンティーイズム測定ツールを、開発者である産業医科大学の藤野先生から委託を受け、企業に提供しています。
昨年10月に上梓された「健康経営を科学する!実践を成果につなげるためのエビデンス」(大修館書店)という本の中で、このWFunを活用した事例が紹介されていました。
ある食品製造業(従業員数約1000名)での事例で、WFun中等度以上のスコア39名に産業医がインタビューした結果「介入が必要」と判断したケースが9例あったそうです。
- 発注ミスが多く、そのミスを責められることが多かった社員は、肥満による「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」が判明した。(病気の影響で、昼間、眠気が強かったのでしょう)
- 上司の言葉によるパワーハラスメントが原因で、イライラして寝付けず、作業能率が落ちていた。ハラスメント調査に繋がった。
- 入社時の教育が充分でなく、作業が滞り、同僚との関係性が悪化していた。教育制度の確認と見直しに繋がった。
- 仕事量が多い管理職で、同僚から期待され過ぎ、責任の大きさに対して自信を持てなくなっていた。椎間板ヘルニアによる中途覚醒が頻繁にあった。管理職へのメンタルヘルスケアの必要性が再認識された。
- 繰り返し作業により、首・肩・腰と全身に筋骨格系の痛みがあり、寒い季節にはそれが一層強くなっていた。作業環境の見直しに繋がった。
- 重いものを持ち上げる作業で、急性腰痛を3回経験していた。腰痛が再発することに不安を感じていた。心理的なサポートや作業環境の見直しに繋がった。
- 身長が低いため、つま先立ちでの作業をしており、腰痛に悩まされていた。加齢による体力低下と椎間板ヘルニアで休職することになった。
- 幼少期より原因不明の頭痛に悩まされていた。適宜仕事を中断して薬を服用していた。同僚からは、機嫌が悪いと思われていた。休息時間の確保等の業務上の配慮に繋がった。
- 既往歴に「突発性難聴」があったのに、誰もそれを知らなかったので、騒音職場に配属され、同僚との意思疎通に支障があった。配置転換の必要があった。
いかがでしょうか。
皆様の会社の中にも、上記のように苦しんでいる社員がいるとして、ストレスチェックや健康診断等、既存のサーベイだけで、彼らをきちんと見つけることができると、確信できるでしょうか?
ちなみに、どのような不調がプレゼンティーイズムへの影響が大きいかという研究はいくつかありますが、弊社の調査では、「メンタル面の不調」⇒「睡眠不足」⇒「身体の動きや移動に関する支障」の順番で影響が大きかったです。
「健康経営を科学する!実践を成果につなげるためのエビデンス」の本の中でも、ストレスチェックの高ストレス群と、非高ストレス群の間で、健康問題に関連した損失額を比較した調査が掲載されていますが、「1人あたり、年間130万円以上の差がある」という結果でした。
プレゼンティーイズムや生産性というと「それが正確に測れるのか」「測って意味があるのか」などと、難しく考えがちな人が多いのですが「今、どこかが痛くてつらい人」「今、気持ちが苦しい人」「眠れていない人」などを見つけ、個別に介入して症状を改善することで、プレゼンティーイズムは確実に改善するのです。
冒頭に申し上げた「概念的に考えるのではなく、自社におけるプレゼンティーイズムとは何なのか、ということを具体的に検証していく」とは、
★自社において助けを必要としている人を適切な方法で抽出し、
★個別にケアするとともに、
★どうしてそれが起きたのかを検証し、
★組織的に職場環境を改善していくこと
です。
また、社員にそのような手をさしのべる企業に対し、社員のエンゲージメント(愛着心・忠誠心)が向上するのは自然なことでしょう。不調がなくなり仕事に集中できれば、仕事への満足度やワーク・エンゲージメントも上がるでしょう。
エンゲージメントという言葉は、組織活性化の重要なキーワードですが、最近では「個人と組織が対等の関係で、互いの成長に貢献し合う関係」のことを指すとされています。真の企業価値とは、企業と社員が互いの成長に貢献し合い、結果として社会に貢献している状態を指すのではないでしょうか。
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社員の健康は生産性向上に繋がるという考え方が、多くの企業に浸透してきました。
SOMPOヘルスサポートのコンサルタントとして、従業員の健康と働きがいについて真剣に考えるお客さまのお役に立てればと思います。
桜又 彩子(サクラマタ アヤコ) SOMPOヘルスサポート株式会社 シニアゼネラルコンサルタント
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