基幹人事システムの壁を越え重要業務のシステム化に成功するには
何故、基幹人事システムがあるのに、重要業務がサポートできていないのか?
大企業において、基幹人事システムを導入しているにも関わらず、重要な業務については、実は思ったようなシステム化ができてない、という声をよく聞きます。
例えば、、、
- グループ共通の基幹人事システムがあるにもかかわらず、 事業部間、グループ会社間の異動発令業務に関わる工数が膨大になっている。
- 適正配置のための異動シミュレーションや、スキル管理・キャリア育成管理を行いたいが、システムから出力した結果をExcel加工する作業が多く、システムを有効活用できているとは言い難い。
- 関連システムからデータを集めるのに精一杯で、 自社に必要な人的資本の状況を把握できていない。
導入されているシステムでは、そうした業務をカバーするような機能が提供されていたり、アドオン開発を実施したりしているにも関わらず、こうした声が上がっています。
このように、システムが重要な業務支援に対応できない結果、担当者がExcel作成作業等に追われて、「考える」「行動する」時間が作れず、結果的には、今強く求められている人材データの高度な活用が進まない、という問題に突き当たっています。
なぜ、大きなコストをかけて導入したシステムがあるのに、このような状況に陥ってしまうのでしょうか?
多くの基幹人事システムが突き当たる「壁」の正体は?
多くの基幹人事システムが突き当たる「壁」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
<1>実現したい業務要件と導入しているシステム構造に大きなギャップがある。
特に大企業の場合、EPRシステムを基幹とし、かつ、外資系パッケージを選択しているケースが多く見受けられます。
例えば「組織」の考え方をみた場合、日本は"配属先"という組織の一員であることを意識しますが、海外では誰が上司かというレポートラインを意識した構造になっています。異動配置検討を行う際の組織図の表現や、異動業務に対するデータの持ち方そのものに違いが出るケースが少なくありません。何よりERP基幹システムの場合、会計や財務、生産といった企業活動に直結する要件が優先され、人事業務支援ツールとしての小回りが利いた、自由な機能拡張は制限されることが多いのが現実です。
<2>人事業務特有の権限を思うように制御しきれない。
これらも組織に対する考え方と関連しますが、日本企業ならではの「きめ細かい」権限制御が実現できないケースが見受けられます。異動業務や評価においてはかなり細かい権限制御や、ワークフロールートを要望する企業が少なくありません。ガバナンスさえ効いていれば、すべてのデータをオープンにしてよい、と振り切れる企業はまだまだ少数派でしょう。
<3>変化に強い、柔軟性のあるレポート機能が不足している。
外資系パッケージに関わらず、変化に強い柔軟性のあるレポート機能が不足しているシステムが多いということです。 いわゆる人事業務における「給与管理」や「社会保険業務」といった領域では、法定調書や届け出・計算書といった固定レポートでほとんどのニーズをカバーすることができます。
一方で、 「人材データ活用」という幅広い視点で、情報を自由に扱うには、レポート機能の柔軟性が求められます。"多彩なレポートが標準テンプレートとして提供されています" と謳われていても、現場や業務で現実的に利用していくためには、細かい要望が出てくるものです。それらを無視しては意味のないレポートになってしまうケースが少なくありません。
<4>部門・現場視点の「データ収集」・「情報開示」ツールが不足している。
多くのシステムで、"社内コミュニケーションの円滑化"や"ラインマネジメントを支援することを目的とした、顔写真や個人プロフィール公開"、というタレントマネジメント機能が提供されています。しかし、部門・現場視点の「データ収集」・「情報開示」という観点でみると、実は不十分であることが多い、というのが実情です。部門や現場でリアルに運用していくためには、個人にフォーカスしたベストプラクティスの考え方だけでは対応しきれません。また、昨今はアドオン開発ができないシステムが多く、結局、手作業に頼らざるを得ないという結果に陥ります。
重要業務のシステム化に成功するために、システムに求めるべきポイントは?
もし、基幹人事システムでの重要業務のサポートで壁に突き当たり、壁を超える道筋が見えないとしたら、
- 基幹人事システムはマスタデータ管理に特化させて、柔軟な業務支援やデータ活用を担えるシステムと連携する
- マスタデータ管理から、柔軟な業務支援やデータ活用までをカバーできるシステムに置き換える
そのどちらかを真剣に考える必要があります。
人的資本経営の実現が叫ばれるなか、人事担当者が、Excelや不完全なワークフローの仕組みと格闘し、貴重な工数を取られている場合ではないからです。
真に活用できるシステムを選ぶためには、以下のポイントを押さえる必要があります。
1、柔軟で拡張性の高いデータベース基盤であること
多くのシステムが「どんな情報でも管理できます」と謳っていますが、実は格納できるデータに制約があるケースが多く、結局、活用に耐えうるレベルの情報の一元化を実現することができません。そして目的によっては、人事情報以外にも管理すべき情報が出てくることがありますので、従業員番号に紐づかない情報も管理できる、柔軟なデータベースであればベストです。
2、周辺システムとの高度なデータ連携に対応できること
「高度」というのは、大前提として、人手を介さず自動連携ができる、ということです。そして、経営数値データ等を管理しているシステムと単純に連携できるだけでなく、連携時に受け取り側にとって適切な形へ変換できること、というのも重要なポイントです。複数システムから情報を収集して統合データベースを作る場合、連携時にデータ構造を適切に変換することができなければ、活用時に大きな障害となります。
3、定量データを時系列に抽出する機能があること
ヘッドカウント、労働時間、人件費といった数値データを、基準日指定で抽出・集計する機能が必要です。このあたりの機能が弱いと、対象データを、都度全件出力して、ピボットテーブルを駆使して資料を作成する、という作業から脱却することができません。また、システム外で加工したデータを、レポートのアウトプットに合わせた形でインポートする、というのは本末転倒です。大した効率化にもなりませんし、新たな付加価値も生み出すことができません。あくまでも、レポート出力が最後の1プロセスとなるようなシステム設計ができることが必須です。
4、部門や従業員からの柔軟かつセキュアなデータ収集機能があること
例えば、後継者候補の育成状況を、上司が定期的に更新したい、といった要件があった場合には、上司であるユーザーに、最新情報の参照と更新のためのUIを提供する必要があります。しかも秘匿性の高い情報ですから、適切な権限制御ができるしくみの上に構築する必要があります。
また、特に多くの部下を持っている上司であれば、部下全員の育成状況を一人一人確認し、更新できる機能だけではなく、EXCELに一括ダウンロードして修正したファイルをそのままシステムにアップロードする機能も用意するといった配慮も、現実的な運用には必要となってきます。
5、格納データを自在に出力できるレポート機能があること
「自在」というのは、、、
フォーマットを自由に作れること
出力するデータを複数テーブルから選択できること
出力可能なレポートや参照範囲を、権限で制御できること
などを指します。
柔軟なレポート機能と適切な開示のしくみは、今後ますます重要になってくる人的資本経営の支援において、とても重要なポイントとなります。
6、独自要件に対応するカスタマイズができ、必要に応じてアドオン開発もできること
個社毎にバリエーションが出やすい領域において、設定の変更による柔軟な対応ができる設計になっていることが大前提です。また、個社独自性が強く、戦略性が高い領域については、製品本体とスムーズに連携するかたちでアドオン開発に対応できるかどうかも重要なポイントになってきます。
特に、大企業、ホールディング会社の傘下に多くの事業会社があるような場合、一般的なベストプラクティスに基づいた機能が提供されているだけではカバーしきれない領域が思った以上にあります。投資効果を考える必要はありますが、カスタマイズ・アドオンの可能性が閉ざされていると、結果的に工数削減はできず、戦略人事に踏み込んでいけなくなります。
今こそ真剣に、重要な人事業務の効率化を図り、考え行動する時間とそのためのツールを手にすることが重要になってきています。
今システムがあるにも関わらず、膨大な手作業に追われているとしたら、必ず問題があるはずです。その問題を確実に解決していくために、冷静にシステム選びをしていただきたいと思います。そのために、このコラムが少しでも参考になれば幸いです。
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大島 由起子(オオシマ ユキコ) インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長
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