対話が不可欠になってしまったマネジメント環境の劇的な変化とは
マネジメントの観点での職場環境の変化
失われた30年の間に、日本の職場環境はすっかり変化してしまいました。ところが、チームマネジメントのありかたはその変化に対応することができず、制度疲労を起こしたままになっています。もう少し言い換えると、バブル崩壊後に完全にゲームのルールが変わっていたのに、だれも新しい解を見つけられず、気がつくと30年が失われていたと言えるでしょう。
今回のコラムでは、リーダーを取り巻くマネジメント環境の変化について、あらためて確認します。一言でいうと、マネジメントの難易度は劇的に高くなっている、でも向かうべき道筋はちゃんとありますよ、という話です。
空間と時間を共有していたバブル崩壊以前の職場
昭和から平成にかけて、日本の職場のコミュニケーションを担保していたのは、「長時間」「同じ職場で一緒にいる」ことでした。つまり、時間と空間を共有することでお互いに対する安心感や信頼感を醸成していたわけです。
私自身が社会人になったのは1990年でした。まだバブルの余韻冷めやらず、元号は平成でしたが昭和の働き方が色濃い時代です。職場の仲間の多くは、遅くまで残業しながら「仕事っていうのはなあ」と先輩から話を聞かされたり、仕事とは関係のない無駄話もしながらお互いの理解を深めていました。
空間を共有し、時間をジャブジャブ使いながら、お互いの信頼を形成しつつ仕事を進めていたのです。
当時のマネジャークラスは比較的余裕がありました。朝から新聞を広げて読んでいたり、他のマネジャーと雑談していたり、あるいは終業時刻になると部下を誘って飲みに行ったり。チームのメンバーからいつでも相談を受けられる余裕がありました。
プレイングマネジャーの出現
ところがバブル崩壊後、マネジャーは気がつくと「プレイングマネジャー」という新しい仕事にシフトしていました。バブル崩壊後の人員削減の流れの中で、自ら担当者としての仕事もこなしていかなくてはいけなくなったのです。
また、管理職層の下に位置づけられていた係長や班長といったポジションを取り払い、意思決定の迅速化という美名のもとに「組織のフラット化」を進めた組織もありました。
その結果、リーダーが直接関わらなければならないメンバーの数は増えました。
プレイングマネジャー化と組織のフラット化。そうなると、リーダーがメンバー一人ひとりとじっくり会話を交わすことさえ難しくなったのです。
良くも悪くも(私は悪いとしか思えませんが)、リーダーも含めて、個が自らのスキルを磨き、なんとか生き残らなくてはいけない時代が来てしまいました。
働き方改革によって激減した時間の共有、そして空間さえ・・・
そして、そこに拍車をかけるように、働き方改革がやってきました。意味もない残業はする必要はありませんが、総労働時間が圧縮されることで、仕事を進めるためだけでなく、相互に理解し合うために共有していた「時間」の多くの部分を失うことになりました。
さらに、コロナ禍でリモートワークをはじめ直接会う機会そのものが制限され、「空間」の共有さえできない時代に私たちは足を踏み入れてしまいました。コロナ禍が一旦の終息を迎えても、もとのように全員が職場に出勤するというスタイルに戻ったわけではありません。
いま、私たちは、業務時間内しかコミュニケーションを取ることができません。さらに、その業務時間内さえ、物理的に離れているなかで、お互いに対話できる時間をどれだけ取れるというのでしょうか。
もうひとつの本質的な環境変化
こうした職場の環境変化によって、お互いに対話することは極めて難しくなっています。実は、この対話の欠如が、企業の競争力に深刻な打撃を与えています。それを理解するには、もうひとつの変化を挙げておかなくてはいけません。
近年のRPAやロボット化、さらに生成AIなどのテクノロジーの進化により、定型的業務は次から次へと人間の手を離れつつあります。つまり、「このとおりにやればいいから」という仕事は消滅していくプロセスに入っています。
言い換えると、「決まった答えがあって、それをいかにこなし、あるいは突き詰めるのか」というゲームのルールが陳腐化してしまっているということです。
その一方で、私たちの周囲には、解かなくてはいけない難問がたくさん存在しています。「資源価格が上昇する中で、自社はどんな戦略を取るべきなのか」「既存の商品を魅力的にするために、どのように価値を捉え直せばいいのか」といったことは、AIは助けになったとしても、論理的帰結としてただひとつの答えが出るわけではありません。
対話で付加価値を生みだす時代へ
つまり、定型的業務から解放されつつある人類は、「答えのない答え」を模索することで付加価値を生み出す時代に放り込まれています。そして、残念なことに、リーダーがその答えを知っているわけではありません。リーダー自身も経験したことがないんですから。
リーダーの仕事は、チームの方向性を示しつつ、メンバーから答えを引き出し、メンバー同士の率直な意見交換を経てチームの納得感を醸成し、責任を持って決断するという仕事に変化しました。
これからの企業の競争力は、組織を構成している人と人との対話の中からいかに付加価値を引き出すことができるかにかかっています。
対話が欠如し、「言われたことをちゃんとやってくれればいいから」という組織は、否応なく滅びていきます。
これらの環境変化の結果、対話が企業の競争力を決定づける重要な要素になりました。しかし、それに気づかず、「対話なんて、それぞれのチームでうまくやってくれたまえ」という認識の経営者やリーダーが一定数存在することは、嘆かわしい限りです。
付加価値が生まれる対話を組織に埋め込んでいくことは、そう簡単な話ではないのです。簡単ではないのですが、ここに経営資源を投下することは、企業が成長していくために不可欠な経営戦略と言っても過言ではありません。
では、付加価値が生まれる対話を作るためにはどうすればいいのでしょうか?次回のコラムをお楽しみに。
※このコラムは、株式会社オフィス・アニバーサリのnoteより転載したものです。
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メンバーとの対話の質を転換する経験を通じてリーダーの成長を促すプロフェッショナル。リーダーを核に主体的で自発的な風土に組織を変革しています。
企業の価値を生み出している源泉は、そこで働く人たちであり、そこで交わされる対話の質です。リーダーのありかたにまで踏み込み、長期にわたる経験学習を促すことで、これからのVUCAの時代にふさわしいマネジメントスタイルへの転換を実現しています。
北方 伸樹(キタガタ ノブキ) 株式会社オフィス・アニバーサリー 代表取締役社長
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