MBOに代わる新目標設定手法「OKR基礎講座」その1
OKRに関する情報は巷にあふれていますが、誤解されて受け取られていることも少なくありません。本コラムでは、日本においていち早くOKRの必要性を唱え、多くの企業でOKR導入支援を行ってきた、株式会社アジャイルHR代表の松丘啓司がOKRの基本的な考え方について分かりやすく解説します。
■第1回目のコラムは、OKRとは何か?、また多くの企業が取り入れているMBOの何が問題なのかを解説します。
1.OKRは特殊な手法ではない
OKRと呼ばれる目標管理の方法が話題になっています。いつもの一過性の流行かと捉えられがちですが、OKRはけっして新しい概念ではありません。もともとは40年以上も前に当時のインテルが用いていた、歴史のある組織マネジメントの方法なのです。それを初期の頃のグーグルが取り入れて、既に20年以上、組織マネジメントに活用しています。
若いITベンチャーでOKRを採用する会社が多いことから、IT系の手法と思われることもありますが、OKRは業種や企業規模にかかわらず、すべての企業に適用可能です。なぜなら、OKRは特殊な手法ではなく、企業が効果的な目標管理を行うための「考え方」のパッケージだからです。つまり、OKRと呼ぶかどうかは別にして、それらの考え方はあらゆる企業における目標管理に当てはまるのです。
OKRはしばしばMBOと呼ばれる目標管理の方法と対比されます。MBOとは組織の目標を上から配分して個人目標にまで落とし込むような管理方法です。その個人目標の達成率が人事評価に用いられることによって、MBOは評価制度と密接に結びついています。
MBOは日本企業(特に大企業)に深く浸透していますが、そのような上意下達の管理型のマネジメントが、今の時代に合わなくなってきていると感じている人々も少なくありません。これまでのやり方のどこをどのように変えていけばよいかを検討する際に、OKRの考え方を活かすことができます。
OKRは人事評価ではなく、目標管理にフォーカスした組織マネジメントの方法です。その大きなねらいは、一見すると矛盾するような以下の2点を両立することにあるといえるでしょう。
・会社全体が目指す方向に全員のベクトルを合わせること
・1人ひとりが主体的に目標を定め、自律的にチャレンジすること
これらのねらいを実現したいと願うあらゆる企業にとってOKRの考え方は有益です。以下では、より具体的にOKRのコンセプトについて解説していきますが、その前に従来のMBOの問題点を整理しておきます。OKRはMBOの問題点を解決するための対応策でもあるからです。
2.MBOの問題点
MBOと呼ばれる従来の目標管理制度においては、全社の目標⇒部門の目標⇒部署の目標⇒個人の目標へと割り振って、個人目標の達成度によって人事評価を行うことが一般的に行われてきました。それによって目標達成に向けて個人を動機付けることで、結果的に全社目標の達成が担保されると考えられていました。
この方式はビジネスモデルが安定しており毎年、確実に売上・利益を拡大していくことが求められる場合には、管理しやすいマネジメント方法です。しかし、環境変化が不透明であったり、新規のイノベーションが多数必要とされたりする状況では、うまくフィットしません。
うまくフィットしないだけでなく、MBOは以下のような組織的、風土的な問題点を強化してしまうことから、イノベーションの阻害要因ともなってしまいます。
受け身・待ちの姿勢の助長
目標が上から与えられるため、一人ひとりが自ら考えて行動する、個人の自律性や主体性が希薄化する。
チャレンジ精神の阻害
目標が達成できないリスクを避けるため、未経験の挑戦よりも安全策を選択しがちになる。
組織のサイロ化、個人の孤立
自身や自部門の目標達成が優先し、他者や他部門への関心が低下する結果、仕事におけるコラボレーションが不足する。
部分最適化
全社目標といっても事業部門の目標を足し合わせたものになりやすく、部門横断的なイノベーションが起こりにくい。
働きがいの減退
目標達成に対する強制的な動機付けによって、「やらされ感」が高まり、「やりたい」という個人の内発的なモチベーションが抑制される。
イノベーションを生み出す組織風土を創るには、上記と真逆の行動様式が必要とされます。OKRを日常的な組織マネジメントに組み込むことよって、MBOに慣れ切った従業員の行動変革を促進する効果が期待されるのです。
次回はOKRに関する、具体的な解説をお届けします。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
- リーダーシップ
- マネジメント
日本において、1on1とOKRを含む、パフォーマンスマネジメントの重要性をいち早く唱え、多くの企業の経営者と共にマネジメント改革に携わる。
東京大学法学部卒業後、アクセンチュアにて、人と組織の変革を担当するチェンジマネジメントグループの立ち上げに参画。同社のヒューマンパフォーマンスサービスライン統括パートナー、エグゼクティブコミッティメンバーを歴任後、アジャイルHRを設立。
松丘啓司(マツオカケイジ) 株式会社アジャイルHR 代表取締役社長
対応エリア | 全国 |
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所在地 | 港区 |