「海外事業成功の秘訣」は日本人と違う価値観の人を受入れること
INSIGHT ACADEMY 講師インタビュー 千葉 祐大氏
〔千葉 祐大〕ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大手家庭⽤品メーカーに約12年間在籍し、⼈事部⾨・化粧品部⾨でキャリアを積む。同社で長年⼈材の採⽤や教育制度づくりに携わり、2002年からはグローバルマーケティング担当責任者として、中華圏の現地スタッフをマネジメントした経験を持つ。2006年に⼈材系コンサルタントとして独⽴。並⾏して⼤学・専⾨学校で⾮常勤講師の仕事を始め、数多くの外国⼈留学⽣を指導。その数は、これまで59ヶ国、延べ6000⼈以上におよぶ。
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海外赴任での体験が異文化コミュニケーションを考えるきっかけに
―― はじめに、千葉さんのこれまでのキャリアについて教えていただけますか?
大学卒業後、大手家庭用品メーカーに入社し国内で仕事をしていたのですが、突然32歳の時に海外赴任を命じられました。渡航先は香港。当時の私にグローバルの素養はなく、英語もあまり上手くは話せない。事前の研修もほとんどなく、「とりあえず行けばわかるさ」という雰囲気の中で赴任しました。
配属されたのは、副部長待遇ながら前任者のいないポジション。本社の意向が現地スタッフに行き届いていない状態を改善することが私のミッションでした。しかし、現地スタッフからすれば 、自分たちより2倍くらい給料が高い上司が突然やって来て、次から次へと偉そうなことを言うので面白いわけがありません。彼らからしたら、私は完全に「いらない存在」だったんですね。そこで、何とか私を日本に追い返そうと全員が結束し、さまざまな妨害行為が始まりました。私の指示を無視したり、私だけに情報を伝えない、なんてことは日常茶飯事で、まともにマネジメントできない状況がずっと続きました。その後、幸か不幸か現地でSARSが流行し、1年足らずで帰国することになったのですが、結局、何の成功体験も得られないまま、私の初めての海外赴任生活は終わりました。このときの強烈な失敗経験が、異文化コミュニケーションについて深く考えるきっかけになりました。
帰国後数年間は、グローバル対応の仕事を国内でしていたのですが、その後、一念発起し会社を退職して、外国人雇用に関するコンサルティング活動を始めました。ちょうどその頃、国内で働く外国人が増加し、世の中で異文化コンサルティングや異文化コミュニケーションのニーズが膨らんでいたからです。また、並行して大学や専門学校の非常勤講師として、留学生に授業をするようになりました。その後10数年間で指導した人数は、59か国・地域、延べ6000人以上にのぼります。
―― 現在インサイトアカデミーで講師としてご活躍されていますが、インサイトアカデミーに参加されようと思ったのには、どのような思いがあるのでしょうか?
世の中のニーズを的確に捉えた、私にぴったりのビジネスモデルだと感じたからです。
現在、異文化対応に悩む企業や個人の方がとても増えています。いまや誰もが日本にいながらにして外国人と働く可能性がある時代になりました。けっして特別な人だけがその状況に置かれるわけではありません。
このことをふまえると、私が持っている経験則やノウハウを生かせる場が、以前より格段に広がっていると感じます。
その要諦を一人でも多くの方に伝えるにはどうしたらいいか考えたとき、グローバル関連の情報を効果的に発信できる体制が整ったインサイトアカデミーに参画するのが最も適切だと判断しました。
マネジメントを効果的にするには、相手の国の特性や社会環境を知ること
―― インサイトアカデミーではどのような講座を担当されていますか? また、それぞれどんな方にどのような視点で観ていただきたいですか?
私が担当している講座は3つあります。
1つ目は「外国⼈材をマネジメントするための異⽂化理解の基本」です。
この講座は、初めて外国人材に関わる方や、異文化の相手とこれから深く関わる方にぜひ観ていただきたいです。異文化の相手は日本人と何が違い、彼らを理解することでどのような効果があるのか、詳しく学べます。これを観れば、外国人の同僚や部下をマネジメントするためのベースを築くことができるはずです。
具体的に、講座の中で解説している話を一つ紹介しましょう。
日本人は世界一時間に厳しい国民性を持つと言われます。そのため、日本人の常識で判断すると、遅刻を繰り返す人は「本当にルーズだな」とか「本当にだらしないな」と見えてしまいます。ただその背景には、持って生まれた相手の社会環境が影響していることを認識しないといけません。 時間の厳格さに対する意識というのは、生まれ育った社会環境の確実性が高いかどうかで決まります。日本というのは確実性が高い社会で、すべてのことがきっちり進むので、そこで暮らす住民は、時間通りに動こうという意識が知らず知らずのうちに芽生えます。
一方、日本では考えられないような渋滞が起こるとか、政府の方針が突然変わるといった不確実性の高い社会環境で生きていると、自分だけ時間やルールを守っていてもしょうがないという観念にどうしてもなりがちです。
このように目に見える事象の背景に何があるのかを知らなければ、異文化の相手を効果的にマネジメントすることはできないのです。
2つ目は「外国⼈部下に対する指導とコミュニケーション法」をテーマにした講座です。
この講座は、外国人部下をマネジメントする立場にある日本人管理職の方に観ていただきたいと考えています。外国人部下の特性や考え方、行動の違いをより具体的に例示し、今まで日本人同士でやっていたやり方をどのように変えるか解説しています。もっとも、やり方を大きく変える必要はなく、全体の8割は今まで通りでかまいません。
ただ、外国人部下は日本人と考え方が違う点があるので、残り2割はマネジメントをカスタマイズする必要があります。この講座では、旧来のマネジメント方法のどこをどうカスタマイズすればいいか、体系的に学ぶことができます。
3つ目は、「外国⼈雇⽤と受⼊れ態勢づくりのポイント」をテーマにした講座です。
この講座は、どちらかといえばこれから外国人雇用を始めたいと考えている会社の経営層の方に観ていただきたいです。本講座では、外国人を採用する場合の留意点について詳しく解説しています。受講すると、在留資格の種類や制度、面接における評価ポイント、日本語能力の見極め方などを具体的に学ぶことができます。
さらに、受入れ態勢づくりのポイントというテーマで、受入れる側の日本人のマインドや組織の作り方について解説しています。外国人の方に活躍してもらったり、外国籍の方を戦力化するという観点に立った時に、会社としてどんな事前準備をして、どのように人や組織を変えた方がいいか言及しています。
相手との違いを「知ること」と「知ろうとすること」が基本
―― インサイトアカデミーで定義しているグローバル人材育成要件(※)のうち、千葉さんの講座は、外国籍の方と円滑に仕事を進めるための「異文化マネジメント力」のスキルアップにあたると思います。千葉さんの言葉で言うと、「異文化マネジメント力」とは何でしょうか?
まずは相手との違いを「知ること」と「知ろうとすること」。これが基本です。
相手との違いをしっかり理解した上で、これまで日本人同士でやっていたやり方を適宜カスタマイズしていく能力。これを「異文化マネジメント力」だと捉えています。
―― そうした「異文化マネジメント力」がないと、グローバルビジネスを推進する上で どのような影響があると思いますか?
仕事の中で、「誤解」と「行き違い」が頻繁に起こると思います。伝わったと思っていたけれど実は伝わっていなかった、ということが日常的に起こりますから、業務が非効率になり、仕事のやり直しが続くことになるでしょう。
そうすると、いつまでたっても相手に対する違和感や苦手意識が抜けないので、上司と部下、あるいは同僚同士でもコミュニケーションが深まらない可能性があります。総じて、仕事をしていくうえでマイナスなことばかりです。
―― 外国籍の方からすると、日本のビジネスパーソンはどのように見られることが多いのでしょうか?
「何を考えているかわからない」「何を言いたいのかわからない」という意見がすごく多いです。
私の所属する会社では普段、いろいろな会社と協力してアンケートを取っているのですが、「日本人と働いていて、一番わからないことは何ですか?」という問いに対し、「あいまい言葉」や「本音と建て前の使い分け」がわからない、と答える人がけっこういます。
日本人は和の精神を持っていて、相手との衝突を極力避けようとします。意見がぶつからないように、曖昧に言って表現を和らげたり、自分の考えを曲げて同調したりすることが多いですよね。
また、ストレートに言わない「気づきを促すコミュニケーション方法」をとることが多いので、それが誤解を招いてしまうこともあります。こうした独特のコミュニケーション方法が、「日本人はよくわからない」という意見につながっているんだと思います。
―― 日本のビジネスパーソンが、そのように見られる背景には何があると思いますか?
日本という国は島国で、ほぼ単一民族で、1つの言語しか用いません。そして最近まで移民を積極的に受け入れてこなかったので、日本人の性質というのはとても同質性が高いんですね。
価値観の近い人同士が集まって、日本という国を形成しているとも言い換えられます。
そのため、日本人同士だったら通じるけど、同じやり方を外国人にやっても伝わりにくいコミュニケーション方法をいくつかとっているんです。
伝える努力やスキルがなくても相手の意思を察し合うことで通じてしまう社会のことを「ハイコンテクスト社会」というのですが、「日本は世界一のハイコンテクスト社会だ」と異文化マネジメントの世界的な権威であるエリン・メイヤーさんが言っています。それくらい、日本は世界的にみて独特なコミュニケーション方法をとる国なんです。
―― 「異文化マネジメント力」はどうすれば身につくのでしょうか? また、「異文化マネジメント力」向上のために学習すべきポイントや、理解しておくべきポイントは何でしょうか?
価値観や考え方の違う人と意見をぶつけ合う機会を増やしてみることをお勧めします。
相手はできれば外国人がいいですが、周りに外国人がいなければ、自分とまったくバックボーンの違う日本人でもかまいません。そうした相手と、いろんなテーマについて意見を戦わせてみるのが第一歩ではないでしょうか。
そしてその際は、相手を言い負かそうとするのではなく、ルールを決めて「自分の考えを相手に正しく伝えること」「相手の意見をきちんと聴くこと」に主眼を置くのがポイントです。
これによって、意見が違う相手との向き合い方が次第に身についてくると思います。
またその際は、まずはインサイトアカデミーの講座でベースを築いた上で実践したほうが、より効率的かつ効果的にゴールまで到達できることは、あらためて強調しておきます。
―― 最後に、このインタビューをご覧になっている方に一言お願いします。
これまでのような日本人だけの環境では、今後、社内でイノベーションを起こすことはなかなか難しいと思います。
価値観の近い人同士が集まって何か新しいことを考えようとしても限界があるからです。今までにない画期的なアイデアは、価値観や意見の違う人が議論することで生み出されるものです。
そういった意味でも価値観の違う人を受入れて、意見を戦わせる機会をつくることは、会社にとって非常に重要です。
これから会社を活性化させ、成長させていくためにも、日本人とまったく違う価値観を持った外国人を積極的に社内に受入れていくべきだと思います。
【出演動画】
外国人材をマネジメントするための異文化理解の基本
講師自身の海外赴任時代の現地スタッフのマネジメント経験を踏まえ、異文化マネジメントや国籍ごとの外国人特性について、ケーススタディを交えながらわかりやすく解説しています。
外国人部下に対する指導とコミュニケーション法
外国人マネジメントで起こりがちな課題について、それがなぜ起こるのか、どう対応すればいいのかをわかりやすく解説。実践的で具体的なアドバイスがふんだんに盛り込まれています。
外国人雇用と受入れ態勢づくりのポイント
外国人雇用の実務に必要となる基礎知識や、日本人雇用とは異なる採用の留意点と手続き方法、望ましい受入れ態勢づくりについて、ポイントを押さえてわかりやすく解説します。
※インサイドアカデミー グローバル人材育成要件
インサイドアカデミーでは、約5,000名の専門家の「活きた知見」を集約し、グローバル人材の育成要件を研究、以下の6つの要件を定義しています。
- グローバルマインド
- 異文化マネジメント力
- 経営知識
- 海外ビジネス環境理解
- 実務言語力
- 実戦適用力(実戦の数)
- 経営戦略・経営管理
- グローバル
- マネジメント
- コーチング・ファシリテーション
- ロジカルシンキング・課題解決
オンラインだからできる、グローバル人材育成
海外で収益を生み出す人材を育てるべく、世界でビジネス経験豊富なプロフェッショナル集団の実戦的ノウハウをeラーニングでご提供します。「国別に」カスタマイズされた研修等、100以上の講座から育成ニーズに沿ったプログラムを設計することが可能です。
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