人時生産性・労働分配率の捉え方と人事施策への展開
人時生産性・労働分配率の捉え方と人事施策への展開
人的資本の状態を可視化・モニタリングするうえで押さえておくべき指標、および指標数値の適切化に向けた人事施策案を紹介する
人的資本経営を加速させる人事KPI
企業経営における人的資本経営の重要性が高まっている中、その推進のためには人事KPIの設計が必須と言える。
人事KGI(Key Goal Indicator: 重要目標達成指標)を、有効な人事 KPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)へと落とし込み、指標を数値化することで、人的資本の状態を可視化・モニタリングし、対内外への公開を通じたフィードバックを受けることによって、有効な施策を検討できるからである。
また、経営の問題・課題を分析・判定する基準や指標を明示することで、人事施策が経営においてどこまで有効に機能しているのか明確にすることもできる。
今回は人事KPIの中でも、管理会計の分野ですでに多くの蓄積がある指標について紹介していく。
具体的には、「人時生産性」および「労働分配率」の定義や考え方、施策への展開案を整理していきたい。
人時生産性の見方・考え方
「人時生産性」とは、社員1人当たり・1時間当たりに働く際の労働生産性を表す指標である。
「労働生産性」は、投入した労働資源に対してどれだけの成果をあげたのか、すなわち、成果産出量(アウトプット)÷労働投入量(インプット)で算出される。ここでは、労働投入量を全社員における総労働時間、成果産出量を付加価値として考えることで、自社の人時生産性を計算することができる。
「付加価値」とは企業が新たに生み出した価値を表す指標であり、売上高から外部調達費用である変動費を差し引くことで算出される(変動費は他社が生み出した価値であるため、自社が保有する経営資源から自社固有の付加価値が生み出される、という考え方)。なお、付加価値の算出方法は上記のような控除法と加算法の2通りがあるため、政府からの統計情報などで業界別データを参考にする際は、どちらの計算式を用いているか確認する必要がある。
改めて、人時生産性は次の式によって算出される。
人時生産性=付加価値÷(社員数×労働時間)
付加価値=売上高ー外部調達費(材料費・運送費など) ※控除法の考え方
例えば、フルタイムの従業員が8時間勤務、パートタイム従業員が4時間であったとしても、人時生産性を算出することで、これら労働時間の差異も考慮することができる。また、当期中に大幅な社員数の増減があった場合には、期末(期初)人数ではなく、期中平均人数((期末+期初)÷2)を用いることで、より実態に即した数値を得ることができる。
人時生産性は、その数値が高いほど効率的に付加価値を生んでいることになり、重要な人事KPI(指標)の一つである。ただし、生産性はもちろん高いことに越したことはないものの、社員に過剰な負担をかけている可能性もある(必要な人員を十分投入できていないことを意味する)。そのため、労働時間や健康といった他の指標(KPI)からも併せて確認することが望ましい。
人時生産性を改善するための人事施策
人時生産性は付加価値÷総労働時間の計算式で求められることから、人時生産性を向上させるためには、次の2つがポイントとなる。
(1)分子:付加価値(=売上高ー外部調達費)を増加させる
(2)分母:総労働時間(=社員数×労働時間)を減少させる
(1)について、事業創造への貢献や既存事業における業務の高度化を通じた売上高の増加。そして、コストや工数削減といった業務効率化を図ることで(外部調達費を減少させ)、付加価値の増加に寄与することができる。重要なことは、こうした取組みに対して適切な人事評価を行い、処遇への反映を行うことで、付加価値向上に対するインセンティブを強化することである。また、将来の収益化が見込める事業に対して、重点的な人材配置や専門人材のキャリア採用強化も、併せて検討いただきたい。
(2)について、社員数については更に、「量」と「質」にポイントを分解できる。
量の問題として、数として多すぎる可能性がある。この場合の対策の一つは、直接雇用に限らない労働力の確保である。外部委託などによって閑散期に応じた労働力の召集をすることで、社員が増えすぎないようにコントロールする。もしくは、システム化を進めることによる省人化も有効である。
質の観点では、社員一人ひとりの活躍度・貢献度をより高めることがポイントとなる。いくら素質・能力が優秀であっても、自身のキャリアビジョンに沿わなかったり不得手な業務である場合、これらを向上させることは困難である。そのため、人事やマネジメント層が部下一人ひとりの特性を把握し、適材適所の配置をすることが肝要である。
労働分配率の見方・考え方
労働分配率とは、付加価値に占める総額人件費の割合であり、次の式によって算出される。
労働分配率=総人件費÷付加価値
※総人件費=役員報酬+従業員給与・賞与+福利厚生費(法定福利費や退職金支払額など、給与以外で人件費とみなされるものの総額)
労働分配率は、一般的に大規模設備を要する業種で低くなり、労働集約型の業種において高くなる傾向がある。また、ベンチマーク企業があった場合も、公開されている財務諸表の勘定科目から付加価値額を算出することは困難である。そのため、統計データと比べて単純に高低を判断するのではなく、事業特性や自社の過去の労働分配率の時系列データから「適正範囲」を設定することが望ましい。
「適正範囲」と記載したのは、労働分配率が高いからと言って人件費の削減ばかりを実施していると、それが付加価値の減少を招き、更なる労働分配率の上昇を引き起こしてしまう懸念があるためだ。労働分配率が低いほど、付加価値を人件費以外のコストや投資に配分できていると言えるが、こうした理由から「労働分配率は低いほど良い」とは限らない。次に示すように、総人件費と付加価値の2点からバランスよく施策を検討することが肝要である。
労働分配率を改善するための人事施策
労働分配率は総人件費÷付加価値の計算式で求められることから、労働分配率を低下させる場合の施策を検討する際には以下2点がポイントとなる。
(1)分子:総額人件費(=社員数×人件費)を減少させる
(2)分母:付加価値(=売上高ー外部調達費)を増加させる (1)の人件費削減において、まずイメージされるのが給与の削減である。毎年の昇格率や昇給率が高く、社員のパフォーマンス発揮に関係なく処遇を向上させている場合は、評価制度や賃金制度の見直しを勧める。また、人件費は年間の給与だけでなく、退職金や福利厚生費も含むため、総合的な報酬の観点から確認頂きたい。
また、給与においては、次の項目にも考慮する必要がある。
(1)外部公平性:同業界・他社と比較して、納得感のある「水準」か
(2)内部公平性:仕事や能力のレベル、貢献度に応じて社内で納得感ある「格差」が生じているか
外部水準よりも自社の賃金水準が低かった場合でも、社内での納得感が担保されていれば(エンゲージメントサーベイや離職率などで問題がなければ)、人件費の改善・対応が不要な可能性もある。人件費は数値として分かりやすい一方で、「納得感」という人間の感情が大きく影響していることにも留意いただきたい。
(2)の付加価値向上については、前述した通りのためここでは割愛するが、人事施策だけでなく、ビジネスモデルそのものの転換など含め、経営全般としての施策も検討する必要がある。
※本コラムは赤羽根が、タナベコンサルティングの経営者・人事部門のためのHR情報サイトにて連載している記事を転載したものです。
【コンサルタント紹介】
株式会社タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部 コンサルタント
赤羽根 祥弘
大手予備校にて新規事業開発や校舎マネジャーを経験後、人事系コンサルティング会社にて研修企画・組織開発・教育体系策定などのプロジェクトマネジャーを務め、売上成績トップとなる。当社へ入社後は、人事制度構築や教育のプロジェクトに携わり、「職場で実践されること」に焦点をあてたコンサルティングを提供している。
主な実績
・人事制度構築コンサルティング
・ジュニアボード(次世代経営人材育成)
・昇格アセスメント
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創業60年以上 約200業種 15,000社のコンサルティング実績
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タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部(タナベコンサルティング コンサルティングジギョウブ) コンサルタント
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