日本と海外の金融教育・金融リテラシーの現状
私たちが金融教育に力を入れていることは、弊社企業ページ等でも記載していますがが、その理由は「資産形成に必要な知識・情報を得ていただくため」だけではありません。
生活者個人にフォーカスしたミクロ的な視点はもちろん大事なのですが、「諸外国と比べても日本人の金融リテラシーは相対的に低く、十分な金融教育が行き届いていない」というマクロ的な実情もあり、そうした社会課題の解決のために取り組んでいるという側面があります。
そこで今回は、日本と海外の金融教育および金融リテラシーはどのような違いがあるのか?について、ザっとまとめておきたいと思います。
1.日本における金融教育
まずは、日本の金融教育と日本人の金融リテラシーに関する現状を確認しておきます。
日本では、ほとんどの国民が「金融教育を受けていない」と認識
金融広報中央委員会が2022年に実施した「金融リテラシー調査」によると、『金融教育を受ける機会はありましたか』という設問で、「受ける機会があり、自分は受けた」と回答した人の割合は、僅か7.1%でした。
これは、92.9%の人が金融教育を受けていないということです。
もう1つ、日本証券業協会が2021年に実施した「証券投資に関する全国調査」では、「証券投資に関する教育を受けたことがある」と明確に回答した人の割合は6.4%でした。
こちらは93.6%の人が金融教育を受けていないという結果です。
上記を見る限り、ほとんどの人が「金融教育を受けていない」と認識していることが分かります。
企業や学校における金融教育の変遷と実態
実際に企業や学校においてどのような金融教育が行われてきたか、見ておきましょう。
企業では、2001年に確定拠出年金法制定されて企業型DC(日本版401k)がスタートし、加入者への「加入時投資教育」が努力義務と規定されました。
これに伴い、大手企業を中心に導入企業では一定の金融教育が実施されたものの、「継続的な投資教育」は配慮義務にとどまったためか十分に実施されておらず、2011年・2018年などの法改正によってこちらも努力義務化。金融教育の機会を提供する企業が増えつつあります。
しかし、企業によってかなりバラつきはあることに加え、中小企業では企業型DCの導入事業者がいまだに10%に満たない上に、金融教育はほとんど実施されていません。
学校ではどうかというと、社会科で「金融とは」「株式とは」といったマクロ的な観点から基礎知識を限定的に教え、家庭科で「家計の考え方」「クレジットカードとは」などの消費者側(ミクロ的)の観点から指導が行われました。
ところが金融経済教育として十分な内容とは言えなかったことから学習指導要領が改訂され、2021年から中学校で、2022年から高等学校で、「資産形成」の分野を中心に本格的な金融経済教育がスタートしました。
上記をまとめると、「企業による金融教育」はまだまだ普及初期段階で、「学校による金融教育」もいよいろ本格的に始まったばかりと言えます。
2.海外における金融教育
では、諸外国はどうでしょうか?
米英を例に見ておきたいと思います。
米国における金融教育の変遷と実態
1974年に個人型DCに相当するIRAがスタート、1981年に企業型DCに相当する401kがスタートし、1992年に両制度の加入者に関する労働省規則が制定された頃から加入者への金融教育が本格化しました。
米国では、DC(確定拠出年金制度)を通じて「労働者に対する金融教育」が普及したと言われています。
その後、2000年代に金融教育に関する法整備が進みます。
学校教育についても2001年に新たな教育改革法が制定され、金融経済教育が学校教育の特別奨励分野の一つに指定。
2003年には「金融リテラシー教育改善法 (Financial Literacy and Education Improvement Act(FLEI法))」の制定により、金融経済教育の質・米国民の金融リテラシーの向上を任務とする「金融リテラシー教育機関(FLEC)」が設置されました。
「金融経済教育による国民の金融リテラシー向上」が国家戦略の一つに位置付けられ、学校とそれ以外の機関による金融教育が本格化したようです。
実際、2016年の段階で、幼稚園~高等学校までの教育スタンダードに「パーソナルファイナンス」を含む州が45まで増加しています。(米国では学校における金融教育について州政府・地域の裁量に委ねられています)
英国における金融教育の変遷と実態
2006年に5か年計画の「金融能力(Financial Capability) に係る国家戦略」が初めて公表されました。
2010年にはCFEB (消費者向けの金融教育の国家機関) が設立され、2011年にMASに。 MASは2015年に10か年計画の新たな金融能力国家戦略を公表しました。
これにより、金融能力エビデンス・ハブ (The Financial Capability Evidence Hub) や、 What Works Fundなどが設立され、国民に対する金融教育などが積極推進されているようです。
そして、2020年頃からは国家戦略として国民の「ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」向上を目指しています。
金融能力エビデンス・ハブで、国内の子供や若年層を対象にした金融リテラシー調査を基に「ファイナンシャル・ウェルビーイングのための英国国家戦略2020~2030年」を出版。
新型コロナウイルスの影響もふまえ、各重要テーマにおいて官民連携で様々な調査研究が行われているようです。
3.日米英の金融リテラシーの違いは?
ここまで、日米英における金融教育を比較してきました。具体的な研修・授業の内容や普及度合いを測るデータは限られていますが、結果として国民の金融リテラシーがどうなっているか、調査結果を見てみましょう。
金融広報中央委員会が2022年に実施した「金融リテラシー調査」によると、米国調査*との比較では、同様の設問に対する日本人の正答率47%に対して米国人は50%と、大きな差は表れなかったようです。
※米国金融業界の自主規制機関( Financial Industry Regulatory Authority、FINRA)が2018年に実施した調査(National Financial Capability Study)
経済協力開発機構(OECD)の調査との比較でも、同様の設問に対する日本人の正答率59%に対して英国人は60%と、ほとんど差が出ていません。
データ上は、金融リテラシーに大きな違いは見れれませんでした。
リテラシーよりも「自信」の差が原因で、望ましい金融行動を実践できない
しかしながら、前述の米国調査との比較で「金融知識に自信がある人の割合」では、日本人が12%に対して米国人は71%となり、59ポイントもの開きが出ています。
冒頭にあった「金融教育を受けていない」という認識をほとんどの人が持っていることも、「自信の無さ」に繋がっているのかもしれません。
以上から、日本人は一定の「お金の知識や感覚」を備えているものの、「お金に関する自信」がない人が多いという相対的な傾向が読み取れます。
本記事では詳細は割愛しますが、これまで日本の金融教育は「消費者教育」が中心で、あくまでもお金の使い方を教える程度でしたので、投資や金融商品との向き合い方などをしっかりと教える内容ではありませんでした。
結果として、効率的な資産形成のアクションを起こすことができなかったり、望ましい金融行動を実践できない可能性が高いと推察されます。
日本と海外の金融教育・金融リテラシーの現状比較については、以上とさせていただきます。
最後にふれた「望ましい金融行動を実践できない」というのは非常に大きな問題で、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」の低下を招く要因となります。
ファイナンシャル・ウェルビーイングの向上は、日本の企業・生活者を含め日本全体においてとても重要なテーマです。
私たちが事業を通じて解決すべき社会課題と捉えているポイントでもありますので、別のコラムで解説していきたいと思います。
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「金融教育」と企業型DC・iDeCo・NISA等を活用した「資産形成」のサポートを専門とする独立系FP(ファイナンシャルプランナー)
三井住友海上での勤務を経て、2011年に独立系FPとして開業。2015年に株式会社あしたばを創業。
全国各地で主に「資産形成」をテーマとする金融教育セミナーの講師を務め、登壇回数はのべ500回以上、受講者はのべ5000人を超える。
安藤 宏和(アンドウ ヒロカズ) 株式会社あしたば 代表取締役社長 ファイナンシャルプランナー(CFP)
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