ワークエンゲージメントを育てる研修設計と運用の力の入れどころ
「エンゲージメントを高めよう」「もっと職員のやる気を引き出そう」──人事に携わる方なら、そんな言葉を何度も耳にしたことがあるでしょう。研修企画担当者にとっても、「成果に結びつく研修」「人が定着する育成」「自律性ある職員を育てるプログラム」など、多くの期待が寄せられています。
今、社会ではワークライフバランスやウェルビーイングの価値観が浸透し、一人ひとりが「働きがいとは何か」「どう生きていくのか」をそれぞれの価値観をもって体現していく時代になりました。
目に見える多様性だけではなく、こうした目に見えない多様性も認めていかなければならないという機運の中で、研修企画担当者に課せられるテーマは大変難しいものだと感じています。
研修企画担当者は企業から求められている「成果につながる人材育成」という期待を背負いながら、一方で従業員一人ひとりの価値観・バックグラウンド・職場や仕事の情況に配慮する必要があり、その両立は決して容易なものではないでしょう。
今回は「ワークエンゲージメント」を育てていくための研修企画・運営の力の入れどころについてご一緒に考えていきたいと思います。
*Contents*
・なぜワークエンゲージメントを向上させる研修設計が難しいのか?
・そもそもワーク・エンゲージメントとは
・ワーク・エンゲージメントの土壌となる心理的安全性
・エンゲージメントを育てる研修設計の実践ポイント
・まとめ
なぜワークエンゲージメントを向上させる研修設計が難しいのか?
上述の通り、研修企画担当者には様々な成果期待が寄せられていますが、それらのベースとなり、ワークエンゲージメントにつながる要素に「多様な価値観を認め合う(多様性理解)」があります。
多様性理解は単に違いを認めるということだけでなく、互いの違いに意味を見出したり、イノベーションに変換できるような力になることが望まれます。
研修や学びを通じて異なる視点に耳を傾ける習慣が組織内に根付けば、心理的安全性も高まり、従業員は安心して自己表現できるようになり、一層のイノベーション創出の機会が増えます。そうした土壌の下でこそワーク・エンゲージメントが芽吹いていくのですが、研修設計の段階で「多様な価値観を認め合う(多様性理解)」を組み込まないまま設計・運用されているケースが多く散見されます。
そもそもワーク・エンゲージメントとは
ここで一度「ワーク・エンゲージメント」について確認します。Schaufeliら(2002)によって、ワーク・エンゲージメントは「活力(Vigor)」「熱意(Dedication)」「没頭(Absorption)」の3つの因子から成る、仕事に向けた持続的かつ全般的なポジティブな心理状態と概念づけられました。
これは一時的な“やる気”ではなく、仕事との間に形成される感情的な結びつきであり、エネルギーの源泉となる要素です。
国内の研究でも、エンゲージメントが高い職員ほど離職率が低く、自己啓発や役割外行動が活発であり、顧客満足度やリーダーシップにも良い影響があることが示されています(島津, 2010;田原・小川, 2022)。
重要なのは、こうした成果があくまでアウトカム(直接的な成果の後に副次的にあがる成果)であるという点です。エンゲージメントを直接“高める方法”を探すのではなく、その形成を促す構造と風土の設計こそが、研修企画担当者に求められている視点でしょう。
ワーク・エンゲージメントの土壌となる心理的安全性
そして、ワーク・エンゲージメントを育てるもう一つの土壌が心理的安全性です。Googleのプロジェクト・アリストテレスでも明らかになったように、チームの生産性や創造性を高める鍵は、メンバーが「自分らしくいられる」「間違いや弱さを見せても否定されない」と感じられる環境にあります。
耳馴染みの多くなった心理的安全性ですが、エイミー・C・エドモンドソンが「チームの中で自分の考えを安心して発言でき、恥をかかされたり、拒絶されたりすることがないことをチームメンバーに共有されている状態であること」として提唱している考え方です。
この心理的安全性は、ワーク・エンゲージメントの三因子とも密接に関係しています。例えば、安心感があるからこそ「熱意」をもって挑戦でき、受容されているという感覚が「活力」を支え、批判を恐れず安全性の高い環境が「没頭」を可能にします。つまり、心理的安全性はエンゲージメントを育てる土壌といえ、心理的安全性なくしてワーク・エンゲージメントは育たないともいえるでしょう。
研修の場においても参加者が自分の意見を述べ、お互いの経験を尊重できることで相互の学びを深め、自己理解も進みます。研修企画担当者はこうした学びの場を設計し、ファシリテーターとして導く役割を担う必要があります。
エンゲージメントを育てる研修設計の実践ポイント
まずは、簡易サーベイやアンケートを通じて現場の声を可視化することにより、組織や研修設側が課題だと思っていることと、現場の従業員が実際に感じていることとの間にズレがないかを確認することで、より的確な研修設計につながります。
そしてサーベイやアンケート結果など客観的な情報をもとに、経営層や対象となる層の上司に「多様な価値観を認め合う(多様性理解)」の意図も込め研修の目的や内容を事前に共有し理解を得る機会を設けます。
その上で、研修参加者と対話(または上司からの応援メッセージをもらうことを)した上で研修研修参加者を送りだしてもらいます。そうすることで研修参加者は「組織から期待されている」「上司から応援されている」と感じます。すると参加者のモチベーションも高まり、そのこと自体がワーク・エンゲージメント醸成につながります。
また、研修運営そのものも、ワークや対話を多く取り入れ、参加者が役割をもって主体的にかかわれる設計が望ましいでしょう。研修でのインプットだけではなく、経験の共有や実務への応用を意識した構成にすることで、学びを自分事として定着させていきます。
そしてそのように学んだことを実務の中でどのように活かし、継続させるかの仕組みを事前に設計した上でフォローしていくことで、やりがいや手ごたえが感じられ、ワークエンゲージメントの高い組織文化への変化を促すことにつながっていきます。
まとめ
ワーク・エンゲージメントの高い職場を実現するために、研修企画担当者が果たす役割はますます重要になっています。研修を単なる知識やスキルを習得する場にとどめず、自分自身の仕事に意味を見出し、研修で得た体験を実際の職場に戻って、知識や経験を波及させていくことができるように人と組織の関係構造と風土の設計を視野に入れて取り組むことが必要です。決して容易なことではありませんが、だからこそ、私たちにとっての取り組みがいになるのではないでしょうか。
弊社では人材育成ご担当者様向けにエンゲージメント向上セミナーをオンラインで開催いたします。エンゲージメント向上につながる、おさえておくべきリーダー人材育成企画・運営の要点をお伝えするセミナーです。
リーダー研修企画・運営を担われている人材育成担当者様、当該テーマにご関心をお持ちの経営者様は、是非この機会をご活用ください。
(参考)
引用:Schaufeli, W. B., Salanova, M., González-Romá, V., & Bakker, A. B. (2002). The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmatory factor analytic approach. Journal of Happiness Studies, 3(1), 71–92.
島津 明人(2010). ワーク・エンゲイジメント研究の展望:バーンアウト研究との関連から. ストレス科学研究, 25(1), 5–11.
田原 直美・小川 邦治(2022). 職務チームにおけるパフォーマンスとメンタルヘルスに及ぼす心理的安全性とワーク・エンゲイジメントの影響. 西南学院大学人間科学論集, 17(2), 27–42.
このコラムを書いたプロフェッショナル
後藤 真紀子 (ゴトウ マキコ)
研修コーディネーター/キャリアコンサルタント(国家資格)
人事・研修企画~運営における、お悩みや課題をお聞きしながら、社員一人ひとりの成長が組織の成長につながるよう、研修企画~フォロー施策まで伴走させていただきます。
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得意分野 | モチベーション・組織活性化、人材採用、キャリア開発、コミュニケーション、ビジネスマナー・基礎 |
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