Case_5「セクハラ」なのは視線?服装?
ここ数年、当社で開発・販売しているソフトウェアの売り上げが好調で、ユーザーからの問い合わせも増えてきたため、技術者だけの対応では追いつかず、コールセンターを設置して20名ほどで対応するようになりました。コールセンターではオペレーターの9割は、契約社員の女性です。問い合わせといっても内容はさまざまで、なかには理不尽なクレームもあり、オペレーターは結構なストレスを抱えているといえます。
今回、人事へ相談に来たのはコールセンターでリーダー職をしている女性です。話を聞いてみると、この管理者が頭を抱えるのもわかる気がしてきました。そもそもの始まりは、オペレーターの20代女性Aさんの訴えです。「コールセンターの男性社員Bさんの視線がいやらしい。気が散って仕事ができないので彼をクビにしてほしい」。同時に、Bさんからも相談があったそうです。「コールセンターのAさんが薄着すぎて視線のやり場に困る。見たいわけじゃないのに、セクハラと言われた、Aの方向を向けないので業務に支障がある。これは、逆セクハラじゃないのか」と憤懣やるかたない様子だったといいます。
また、コールセンターを統括する課長からも、相談があったそうです。課長は、部下のBさんから逆セクハラの相談を受けて、オペレーターのAさんに「君の服装、私は素敵だと思うのだが、職場であまりに露出の高い服は控えてもらったほうがいいね」と言ったのだそうです。すると、Aさんから、セクハラだと言われたとのことでした。課長は、気をつかいながら、やんわりと注意したつもりなのに、これもセクハラになるのかと戸惑って相談してきたといいます。
当社ではクールビズを導入していますが、確かに聞く限りでは露出度が高いと感じました。このような場合、どのように対処するのがいいでしょうか。そもそも、どちらがセクハラ行為になるのですか。
■こころの声■
- 服装は個人のセンスだから会社がとやかく言うのは好ましくないとは思いますが・・・
- 社会常識の範囲。見られるのが嫌なら着てくるな!とは言えませんよねぇ。
【対応の考え方】
<男女ともに、セクハラの加害者・被害者となる可能性があります>
セクシュアルハラスメント(以下セクハラ)の問題というと、加害者=男性のケースが多いと思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。最近ではクールビズが浸透してきたということもあり、この事例のように、女性の服装がセクハラの1つとして、問題視されるケースが出てきています。つまりは男女ともに、セクハラの加害者・被害者になるケースがあるということです。
この事例の場合、男性側の言い分としては、「そんなファッションをしてこられたら、つい見てしまっても仕方ないだろう、それをセクハラと言われても困る。露出度の高い服装で職場に来ないでほしい」ということになります。一方、見られた女性側からすれば、「暑い時期は薄着になった当たり前。それを、いやらしい目で見るのはやめてほしい」となるでしょう。
<セクハラの訴えがあっても会社として罰するかは別問題>
法的にセクハラは「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。なお、男女雇用機会均等法により、事業者には対策を講じることが義務づけられています。
セクハラは、いやがらせを受けた本人が不快に感じれば、それはその人にとって「セクハラを受けた」となります。相手から受けた言動がセクハラかどうかは、受け止める側の個々の判断であり、その判断基準には個人差があります。そのため、自分本位の思い込みで「これくらい平気だろう」と思っていたら、セクハラで訴えられたなどということも起こりうるのです。
ただし、今回の事例でAさんは、「彼をクビにしてほしい」と要求していますが、セクハラの訴えがあっても、その行為をした者(場合によっては加害者)を会社としてどのように罰するかは、セクハラを受けた側の要求だけでなく、行為内容などを総合的に判断することになります。
<明確なドレスコードを設けて周知させた>
この事例では、当該の従業員3者全員に事実関係のヒアリングを行い、当事者同士に和解の機会を設けると同時に、会社として職場のドレスコードを設定・周知することで改善されました。つまり、会社の規則として、これこれこういう服装はいけません、これならOKです。とったことをイントラやや社内ポスターで明確に周知したのです。「常識の範囲」は、その解釈に個人差が出てしまいます。
ポスターには、「これならOK」 「これはNG」の実例ファッション、例えばミニスカート、キャミソール、ノースリーブ、ミュールの禁止など、を写真やイラストで表現し、曖昧にならないように視覚化しました。個人の感覚を反映する服装などについてルール化するときは、共通認識を徹底するためにもこうした工夫が必要でしょう。
文責:保健同人社EAPコンサルタント
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