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ビジョンを語るリーダーを創る

株式会社ジェイフィール 取締役 コンサルタント

重光 直之

 

1.部長クラス、海外現法トップ層がビジョンを語れない

「部長クラスにビジョンを語れる人がいない」という話を良く耳にします。先日もあるグローバル企業の人事の方から、「海外の現地法人トップに日本人を派遣しても、ビジョンを語れない人が多いです。会社の将来像を語れないから、ローカルのスタッフたちがしらけてしまって、優秀な人が退職してしまう」という話をお聞きしました。「長期的な視点でものごとを見るということがないのですかね。数字は語れるのですが・・」とため息交じりにもらしておられました。

どうして、ビジョンを語れない部長や海外現法トップが増えてしまったのでしょうか。実は、ビジョンを語れない人が増えたというよりも、ビジョンを語る人が求められるようになってきたというのが真の姿です。

これまでは、経営の中枢から現場のコアとなる人材まで、ほぼ日本人が占めており、ビジネスのスキームも基本的には大きな変化がありませんでした。また、多くの社員はプロパーとして入社し、会社の理念や戦略についての基本的な合意があって、組織が成り立ってきました。

しかし、マーケットの主軸がアジアに動き、経営の中枢部分も生産に限らずどんどんと海外にシフトし、経営統合や買収などが進んで会社理念への共感を新たに構築しなくてはならない、というように、経営を取り巻く環境が大きく変わってきました。経営という本社サイドだけでなく、ビジネスの現場に近いところで、自分たちはどこに向かって進むのか、何を大切にすべきなのかが、問われるようになってきました。現場に近いほど、日々刻々と変化する中で判断を求められるので、その緊急度は高くなっています。その結果、「部長や海外現法トップがビジョンを語れない」という言葉に集約されていくわけです。

 

2.ビジョンとは何か

あらためて、ビジョンとは何でしょうか。以前、日本有数のグローバル企業から参加者が集う選抜幹部研修の場で、「あなたの会社にビジョンはありますか?」と聞くと、全員が「もちろん、ありますよ」と答えたのですが、「じゃあ、そのビジョンを教えてください」と言うと、途端に口ごもり明快な答えが誰からも返ってきませんでした。

あなたの会社はいかがでしょうか。そして、あなたの部門のビジョンは何でしょうか。ビジョンの語源はラテン語で「見る」という言葉で、視覚とか直観という意味を持っています。次のような言葉がイメージを膨らませてくれます。「先見」、「展望」、「構想」、「想像力」、「憧景」、「映像」・・。つまり、ビジョンを聞いた人が、この先の将来構想展望できて、情景をリアルな映像として想像できることだと言えます。一言で言えば、「見えないものを見る」ということです。

大切なのは、ただ見えるだけではなく、社員一人ひとりがビジョンから勇気と力をもらうことです。では、そのためには、どんな要素を持っているべきでしょうか。

 

3.ビジョンが備えるべき要素

(1)協力の土台となる共通の目的となる

今、日本企業が抱える最大の課題は、一人ひとりが個々に持っている力を存分に発揮できていない、あるいはそれをうまく連携できずに、最大の組織力を発揮できていないことにあります。自分の達成目標は分かるが、他の人が何を達成しようとしているのか分からない、関心がない。みんなで何を一緒に実現しようとするのかが不明確なので、一緒に協力することが起こらない。そもそも自分も今期の達成目標はわかるが、何を目指して頑張っているのかもわからなくなっている、という現象が起きています。

組織の一人ひとり、つまり、みんなが何を目指しているかを示すのがビジョンです。今期の課題や目標の先にある共通の目的が、信頼関係の土台となり、協力の土台となります。ともに実現したいと思っているビジョンがあるからこそ、孤独感から開放され、困難なことにも挑戦できるし、嫌なことでも辛抱して踏ん張れる、忙しいけど相手のために協力しようという気持ちになってくるのです。そうしないと、自分の課題やタスクだけを見て、自分の都合だけを主張しあう場面が多くなってしまいます。共通の目的にもとづいた目標を達成したときに、初めて一緒に喜ぶことができます。共通の達成感や喜び、相互への感謝の気持ちへとつながっていくものがビジョンなのです。

 

(2)日々の仕事をワクワクさせ、組織成果へのエネルギーとなる

日々の仕事は、楽しいことややりがいを感じられることばかりではないのが現実で、辛いこと、困難でくじけそうになること、あるいは単調な作業の繰り返しだったりします。しかし、どういう気持ちで仕事するかによって、成果も違いますし、働きがいも大きく異なってきます。ご存知の方も多いでしょうが、経営学者のピーター・ドラッカーはレンガ職人(石切工)の逸話で、このことを語っています。レンガを積み上げている3人の職人に何をしているのかと問うと、「A:生活のためにやっている」「B:最高の石切仕事をしている」「C:教会を立てている」と異なる答えが返ってきました。Aは指示された作業をこなすだけで、働きがいというものを感じることはできません。Bは、熟練した技能を磨き続けるのでやりがいはあり、技能も向上することで達成感も感じられるでしょう。しかし、ドラッカーは、問題はBであると著書「マネジメント」の中で述べています。熟練した技能者が最高の技能を追求していくと、ともするとそれ(技能の追求)自体が目的になってしまう、と。日々の仕事を組織のニーズに合致させることこそが、マネジメントであると言っています。つまり、一人ひとりの仕事をワクワクするようなやりがいのある仕事に転換し、かつそれを組織成果につなげていくものがビジョンに他なりません。

 

(3)メンバーが、具体的に取り組むことがわかる

ビジョンは、まだ実現できていないことを語っているのですから、実現のために今と異なることに挑戦することが必要になってきます。小さな組織であれば、リーダーが全員に具体的に指示することが可能だと感じるかもしれませんが、現実的ではありません。10名ほどの会社である弊社ジェイフィールでも、全員の仕事を一人のリーダーが具体的に指示することはできません。それだけ多様な仕事をメンバーそれぞれが抱えて、かつ日々の環境変化の中で対応しながら仕事を進めて、初めて組織は成り立っているのです。それは会社組織であっても、ある部門や課であっても同じことです。

それぞれのメンバーは、ビジョンが具体的なイメージとして共有されることによって、担当領域でどんなことを成し遂げるべきなのかを考えることが可能になります。あるいは、それを議論することが可能になります。経営資源の配分は、マネジメント層に委ねられた権限ですが、その範疇(時にはそれを越えることもあるでしょう)の中で、メンバーが自分で考えることで、ビジョンに向けて確実に前進していきます。

マネジメントを行っている人からは、「部下に自分で考えろといっているのに、何をすべきか考えようとしないんです。どうしたらいいんでしょうか」と、愚痴のような話をよく聞きます。しかし、愚痴る前に、部下が自ら考える土台となるビジョンを、ちゃんと伝えているのかを問いなおす必要があるかもしれません。部下に、目指す姿は何かを聞いてみて、明確でなければそのことを話しあうことが自主性を引き出す近道かもしれません。いずれにしても、実現したいことを自分でイメージとして持つことが、自発的な行動や発想の礎となります。

 

4.ビジョンを描き、語ってみる

では、具体的にどのようにしてビジョンを描き、語ればいいのでしょうか。私たちジェイフィールがお手伝いさせていただいている、ある企業の新任部長研修のプログラムに沿って、ご紹介しましょう。この会社では、毎年年度末にこの研修を開催して、4月の年度方針にダイレクトに活かすことをしくみとして取り入れています。

 

(1)ビジョンで何を伝えるのか

1泊2日で行う研修の冒頭では、心を動かされるスピーチとは何かを考えます。実際のスピーチ映像を見たりしながら、どういう話に私たちは感動するのかを、素直に話し合います。なぜならば、ビジョンを聞いた人は、心が奮えて、勇気がわいてくることが必要ですから。

自分が聞き手の立場に立った時、話し手はどんなスピーチをすべきなのか、自分は何を語ればいいのか、が分かってきます。「ハードルが高いなぁ」という感想を漏らしながらも、2日間の研修のゴール、というよりも差し迫った4月の新任部長としての方針発表の場を見据えていきます。

 

(2)自分の中の原点を、共感をよぶ価値観に昇華させる

次に、自分の中の原点探しを行います。聞き手の心を奮わせるビジョンスピーチを行うには、話し手自身の心が奮いたっていることが大前提となります。自分の心を奮い立たせる火種は心の中にあるものですから、情報を収集したり分析したり、外をいくら探索しても見つかるものではありません。ですから、自分の心の中をもう一度見つめなおすために、これまでの自分の人生を振り返ります。

ある経理部長は、「私の仕事の原点は、新入社員のときの一枚の伝票処理でした。とてもおっかない営業部長に伝票処理について怒られたとき、びびりながらも、その処理の意味と正しさを説明したら、最後に『わかった。君の言うことはわかった。ありがとう』と言われたんです。そのとき、正しい処理をして会社を守るのが経理部門なんだと言うことを実感しました。もちろん、その瞬間はそんなことまでわからず、ただ怖い体験でしかなかったけど、今になって思えば、その経験がずっと私を支えてきたことが分かりました。こういうことをしっかりと部下たちに伝えて、いろんな意味で会社を守っていく、頼りがいのある経理部にしたいんです」と語ってくれました。

別の会社、ある百貨店の部長は、こんなことを語ってくれました。「私の原点は、子どもの頃の記憶です。両親とおしゃれして買い物に行ったデパートの情景です。買い物の最後には、必ず最上階のレストランに行ってみんなで食事しました。いつものスーパーでの買い物と違って、父親も母親もちょっとおめかしして気取って、でもその背伸びした感じでの家族団らんが幸せでした。百貨店は、物を売っているのではなく、買い物をするときの幸せなひと時を提供するところだと思います」。

どちらも個人的な出来事、記憶です。しかし、そのことの意味を、今、あらためて捉えなおすと、そこに自分の原点があり、それが未来のありたい姿につながっていくことを実感します。その原点を、誰もが共感する価値観へと昇華させることが重要で、そのために深い内省を行います。静かに自分と向き合う、じっくり集中する時間を作ることが大切です。

 

(3)実現したい未来をイメージする

自分の中の原点がクリアになったら、それを将来につなげていきます。前述のように、深い内省ができると、自然と将来の姿が浮かんでくるのですが、それをしっかりとした映像としてイメージします。

・お客様はどんな人たちで、

・彼らに何を提供して、どんな風に喜んでほしいのか

・その結果、自分たちはどんな喜びを得たいのか

・そのとき、社員はどんな人が集まり、

・どんなことができる集団になっているのか

説得力のあるストーリーにするには、将来に対する予測も欠かせません。今後、3年、5年というスパンで何が起こってくるのか。どんなことがわれわれのビジネスに大きな影響を与えるのかを見極めることが重要です。そして、その起こりうる確率はどの程度かということも忘れてはなりません。変化が見えにくいときは、10年先、もしくは30年先という長期で見ることも時には効果的でしょう。「ソフトバンク 新30年ビジョン」という書籍には、孫正義会長が30年ビジョンを策定するために、300年先を予測してから30年先を構想していくプロセスが記されています。

将来を予測する期間が長くなればなるほど、主観的なものになっていくことは免れません。将来予測というと、客観的で信憑性を大切にするという語感がありますが、実際はビジョンを描く人の思い入れが入ってくるものです。なぜなら、本来、将来とは予測するものではなく、創造するものですから。

 

(4)実現までの道筋を示す

実現したい未来を描いても、どうしたらそこに到達できるのかが見えないと絵に描いた餅で、理解はされても共感は生まれません。できない、不可能だと思うと、人は最初からあきらめてしまい、心が動かされないからです。

ビジネスの現場では、必ずしも明るい未来ばかりがあるわけではありません。特に、製造業における国内工場の存在価値は、業種に関わらず厳しい現実があります。このまま行くと、国内市場はシュリンクし続けて、拡大する市場に新設する海外工場の役割が大きくなり、技術力も追いついてくるので、早晩なくなるのではないかという不安感が漂っています。今のまま、手をこまねいていると最悪のシナリオが現実のものとなってしまうかもしれません。そうならないために、今、何をすべきなのかを明確にすることがとても重要です。例えば、製薬業の場合、医薬の進歩とともに製法が、合成からバイオにシフトしています。この流れは誰も止めることはできないほぼ確定した未来と言ってよいでしょう。そこで、自分たちは世界中のどこよりも早く、バイオ製造に関する技術力を磨いて競争力を高めていくという方向性が見えてきます。ここまでは誰もが考え付くでしょうが、そこで自分たちはどこに強みがあるのか、克服すべき弱みはどこか、ということを見極めることが大切です。特に、どこに強みがあるのか。このこと抜きに、実現したい未来への共感は生まれません。開発部門との垣根が低くいち早く生産技術へ展開する抜群のスピード力なのか、製造に関わる設備技術に優れて収率が高くてコスト競争力があるのか、あるいは他のところに優位性があるのでしょうか。

重要なのは、今ある強みを活かして、将来の圧倒的な強みにつなげていくプロセスです。そして、そのプロセスに社員一人ひとりの姿が見えることが大切です。あるIT企業で、部長層に将来ビジョンを描いて課長層に語ってもらったときのことです。部長層は、こんな未来を実現したいと夢を持って、イキイキと語ってくれたのですが、聞いていた課長層の反応が今ひとつでした。発表会の後に、ある課長が、「部長のビジョンが実現したらいいだろうなとは思いました。ただ、私たちがやっている今のビジネスの話がまったく出てこなかったんです。今、必死でやっている私のビジネスはどこにつながっていくんでしょうか。部長の夢を否定するつもりはありませんが、私は何をしたらいいかがわからないので、どう?と聞かれても分からないとしか言えません」と、正直に話してくれました。かなりの課長がその話にうなずいていました。聞いている社員にとって、自分がどこでどんなふうに努力し挑戦したらいいのかが見えたとき、前向きな姿勢が内側から生まれてきます。

こうした実現したい未来への道筋、これこそが戦略に他なりません。戦略のすべてをリーダーが決められるわけではありません。大きな道筋を示して、そこに共感が生まれたとき、聞いていた現場の人たちが挑戦し、修正し、確かな道筋を作っていく動きが起こります。創発戦略、あるいは戦略クラフティングといわれる組織のダイナミックな動きです。

 

(5)共感をよぶシナリオを作る

ここまでがビジョンを描くプロセスなのですが、描くだけでは伝わりません。実際に、一人ひとりの心に届けることで初めて実を結びます。そのために重要なのは、きちんとしたシナリオを作ることと、そのシナリオに気持ちを乗せて語ることです。当たり前と言えば当たり前のことですが、意外に軽視されがちです。

最初に行うことは、どんな人に向かって話をするのかを見定めることです。組織メンバーである部下たちが聞き手でしょうから、決まっているじゃないかと思われるでしょう。しかし、その部下たちは今、どんなことを考え、どんな気持ちで仕事をしているのでしょうか。大勢いれば、一様ではないでしょうし、事業の好不調によって、気持ちはどんどんと変化しています。本人が思っている以上に、組織のトップに立つ人は現場の人との意識の乖離が大きいものです。自分一人で決めつけないで、周囲の人の話も聞きながらしっかりと把握することが大切です。

今の心情がわかれば、そこにどんなトーンで、どんな話を持っていけば、期待するマインドになるかを考えることが容易になります。数字が上がらない厳しい状況下にあれば、実現させたい明るい未来の前に、今の厳しい現実や日頃の奮闘ぶりを讃えることが必要でしょう。また、未来を創造していく力を、自分たちは持っているということを腹落ちさせることも重要でしょう。今現時点と未来をつなぐ糸が、どのようにつながっているかを示すことで共感が生まれてきます。ポイントとなる共感を呼び起こすところでは、アクセントをつけるためにトーンを変えてみましょう。現場に埋もれがちな小さな成功事例や、思い込みを吹き飛ばしてくれるような意外性のある事例などを紹介するのが効果的です。それも自分たちの中で起こっている現実の出来事が何よりも説得力を持ち、かつ、聞き手が話の中に引き込まれていきます。一つの話の中にアクセントを付けることは、昔から言われている起承転結というシナリオの原則とも合致します。一度作ったシナリオは何度も見直します。研修では小グループに分かれて披露し合い、互いにアドバイスを行って完成度を上げます。他人が作ったシナリオについては、結構客観的に手厳しく、的確なフィードバックができるものです。

 

(6)気持ちを乗せる

シナリオができたら、そこに気持ちを乗せていくことに取り組みます。研修の中では、気持ち(感情)の乗せ方を、劇団の演出家の方に指導いただき、実際に演じることを通じて感情伝達力を強化します(弊社の親会社であるアミューズには、俳優だけでなく、演出家やシナリオ作家など、感動を呼び起こすプロフェッショナルの方々が多く集っていますので、協力を仰ぎながら、このプログラムを作っています)。この演習では、喜怒哀楽の表現やみんなで気持ちを一つにすることなどを行い、最後には、言葉(文字)によらず、声のトーンだけで気持ちを伝えられるようになります。短時間でこのことが可能になるのは、その場でスキルを身につけたということではなく、もともと持っている力を引き出したということです。本来、誰もが持っている感情を伝える力に、私たちは知らず知らずのうちに蓋をしてしまっています。喜怒哀楽を演じた時に、(ほとんどの管理職が)最も下手なのが「怒る」という感情であることがそれを物語っています。沸き起こる気持ちを抑えることを繰り返す中で、感情を出す術をいつしか忘れてしまったようです。

言葉だけでなく、プレゼンテーションするツールにも、気持ちを乗せることができます。ある事業部長をされている方に、シナリオの作り方やビジュアル系のツール(プレゼンテーション資料やそこに使う写真など)について話をすると、こう漏らされました。「そうか、本当はそういうこと考えないといけないのかな。外国人はうまいよね。いつも経営会議でマーケティング担当の役員が写真使ってプレゼンするんだよ。マーケティング担当だからとか、アメリカ人はそういうのに慣れているからだとか、思っていたけど、確かに彼女のプレゼンはわかりやすい。でも、努力してるんだな。私はこれまで、方針の文章と目標の数字を映していただけだった」。1ヶ月後、彼は自分が若い時に開発した商品の写真を持ってきて、「ここに自分の原点があるんだよ」と嬉しそうに話してくれました。伝えたい気持ちは、自分の原点となる経験や実現したい夢、背負っている責任感など、嘘偽りのないその人の言葉が媒介となって運んでくれます。

実際の研修では、最後に、社長と人事担当役員にも出席してもらい、一人ずつビジョンを語ってもらいます。10分弱の短い時間ですが、そこにはここで述べてきた、あらゆる要素が凝縮された感動的なひと時となります。聞いている私が、同じ会社でもないのに、思わずこの部長のもとで働きたいという気持ちが沸き起こってきます。

 

5.これからの経営リーダーに求められること

今回は、ビジョンを語るということをテーマに考えてきましたが、ビジョン語りとは冒頭にお話したように、組織を牽引するリーダーにとって、必要不可欠なものです。最後にあらためて、これからの経営リーダーに求められるものをまとめてみましょう。

 

(1)自分の中に信念を持つ

何よりも、まず自分の中の軸、信念を持つことが重要です。ここまで述べてきたように、ビジョンは何かを分析して現れるものではなく、自分自身の心の中にあるものです。そのためには、自分の原点を深く問い直し、人生の意味を見出すことです。深い洞察であればあるほど、普遍的な意味が生まれ、それが多くの共感を得るレベルまで昇華されていきます。

先日、ある部長クラスの方々の研修で、「リーダーシップを発揮して、万が一、自分が語った夢が実現しなかったら、その瞬間にリーダーシップを失ってしまうのではないか。リーダーシップはその時、ゼロになってしまうのか。誰がどう測れるものだろうか」という問いかけがなされました。リーダーシップを正確に測るということ自体できることではないと思います。しかし、この質問の意図は、夢に人生をかけ、失敗した時に、何が残るのか。そこからやり直すことはできるのだろうか?という不安に、どう打ち勝てばいいのか、ということだと解釈しました。私なりの答えは、「自分の人生の意味は、事業の成功失敗にかかわらず、追い続けるものだ」と思います。思い通りの環境はもう得られないかもしれないし、誰もついてこようとしないかもしれないが、それを覚悟して、突き進んでいくことが必要です。逆に言うと、それでもその道を進もうとすることが、自分の原点を大切にして、人生の意味を追求していくことだと思います。その時、一人でも二人でも賛同してくれる人がいたとしたら、そこでは真のリーダーシップを発揮しているといえるでしょう。

 

(2)未来を豊かに想像する

自分の軸、信念が明確になれば、それが実現した時の未来を豊かにイメージする、想像力が必要になってきます。そのためには、今後の社会がどうなっていくかを冷静に見極める左脳だけでなく、そこでイキイキと働き生活する人々が躍動する様を描く右脳の働きも大切です。あなたはどのようにして右脳を鍛えていますか。

これをすればいいという近道はありませんが、感情を刺激するインプットを増やすことが効果的でしょう。私が尊敬する、大手コンサルティングファームのコンサルタントの言葉です。「若いコンサルタントが伸びるかどうかは、鞄の中を見れば分かる。ビジネス書しか入っていない者はだめだ。小説が入っている者は伸びる」。理由を聞いても、経験知だとしか言ってくれませんでしたが、心の機微を知る者でないと、人の心を動かせないということだと理解しました。

未来を想像するということは、その時の人々の幸せを思い描くということにほかなりません。普遍的な心の豊かさに対する洞察とともに、多様な人々や価値観を受け止めることも、求められます。未来の想像力は、人間理解の深さとも言えるのではないでしょうか。

 

(3)語る言葉を大切にする

3つめは、言葉を大切にするということです。どういう言葉を選ぶか、言葉の選択をするときに重要なのは、そこにどういう思いを込めるかということです。リーダーにとって、プレゼンテーションや方針説明という公式の場は多くありますし、重要ですが、同時に、常日頃、どういう言葉を使っているかも大切です。部下に何かを語るとき、どんな言葉を使っているでしょうか。優れたリーダーは、印象に残る口癖のようなものを持っています。短いフレーズの中に、奥深い意味を込めて、繰り返し伝えているのです。

あるIT企業の部長は、若い時に言われた「プログラマーではなく、エンジニアになれ」と言われた言葉で、自分が何をすべきかがストンとわかった」と語ってくれました。自分の世界で作業をするのではなく、きちんと動くシステムを作るのが目的だとわかった瞬間、関連する人たちに積極的に話を聞きに行くようになったといいます。こうした言葉を、あなたは持っているでしょうか。語っているでしょうか。

私自身が、見た瞬間に打たれたような衝撃を受けたのは、「イメージできないものは、マネージできない」という弊社ファウンダー野田稔の言葉です。私は彼の著書にこの一節を見たとき、自分が最も大切にすべきものを痛感しました。今回のビジョン語りをたった一言で表した言葉ですから、説明の必要はないでしょう。こうした短い言葉に、重要なメッセージと自分の思いを込めることは、一朝一夕にはできません。常日頃から、気になった言葉をメモしておくなど、言葉に対する感度を上げておくことが必要になってきます。

 

今回は、ビジョンを描き、語るということをテーマに、そのプロセスをご紹介しました。これを機会に、皆さんが仕事を通じて目指すものや語る言葉に、何らかのヒントがあり、変化が少しでも起これば幸いです。

また、実際の研修プログラムの詳細について関心のある方は、弊社までご連絡ください。

  • モチベーション・組織活性化
  • マネジメント
  • コーチング・ファシリテーション
  • チームビルディング
  • コミュニケーション

世界的研修プログラム『リフレクション・ラウンドテーブル(インターナショナル名:コーチングアワセルブズ)』を日本へ導入・開発

ミドルマジネジャーの行動変容プログラム「リフレクション・ラウンドテーブル」の開発と講師を担当。「感じる研修エンジニアリング」の展開にも力を入れ、スキットを使った研修、演出家を招いての役作り研修、即興劇を演じる研修など多彩な研修を行っている。

重光直之(シゲミツ ナオユキ) 株式会社ジェイフィール コンサルタント

重光直之
対応エリア 全国
所在地 渋谷区

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