日本では、給与は月1回、銀行口座へ振り込むのが一般的です。しかし、雇用の形態や働き方、仕事観の多様化に加え、キャッシュレス決済が普及する中、「給与の受け取り方」に対するニーズも変わりつつあります。2023年の法改正によって、賃金のデジタル払いが可能になり注目を集めています。賃金のデジタル払いのメリットとは、導入に向けた留意点は。給与の当たり前はどう変わるのか。『Airワーク 給与支払』を通して、デジタルマネーでの賃金「即払い」サービスを提供する株式会社リクルートの渡辺和樹さんにうかがいました。

- 渡辺 和樹さん
- 株式会社リクルート プロダクト統括本部 ペイロールプロダクト部 部長
2013年4月に株式会社リクルートコミュニケーションズ(現株式会社リクルート)新卒入社。HR領域における採用支援業務、新規事業開発などを経て、業務支援領域における新規事業開発を担当。2024年に参画したリクルートペイメントでは「法人口座開設仲介」を推進し、現在に至る。
賃金の「デジタル払い×即払い」のメリット
最近ニュースで見かける機会が増えた、賃金のデジタル払いの概要を教えてください。
賃金のデジタル払いとは、銀行口座でなく、キャッシュレス決済サービスのアカウントなどを介して、賃金をデジタルマネーで受け取ることができる制度です。そもそも労働基準法では、賃金は原則「通貨(現金)を手渡しで支払うこと」となっています。特例として、労働者の合意を得た場合は銀行口座や証券総合口座に振り込むことができるのです。今では銀行口座への振り込みが一般的となっています。
2023年4月、労働基準法施行規則が改正され、賃金をデジタルマネーで支払うことが可能になりました。厚生労働大臣の指定を受けた、一定の要件を満たす「指定資金移動業者」の口座への資金移動による賃金のデジタル払いが解禁されたのです。
当社と株式会社三菱UFJ銀行が共同出資する「株式会社リクルートMUFGビジネス(RMB)」も24年12月、資金移動業者の指定を受けました。2025年1月から、当社の給与支払サービス『Airワーク 給与支払』を通し、RMBが提供する決済ブランド『COIN+』で賃金を受け取ることが可能になりました。
他社も、賃金をデジタルマネーで受け取れるサービスを展開しています。貴社のサービスの特徴は何でしょうか。
「即払い」に特化している点です。即払いとは、働いた分の給与を、好きなタイミングで受け取ることができるもの。通常は働いた月の翌月に、1ヵ月分の給与が支払われるケースが多いですよね。「急な出費が重なるのに、手元にお金がない」と困った経験がある方もいるでしょう。次の給与を受け取るまでにタイムラグがあっても、それが当たり前だったので、何とか工面してきました。
ところが、最近はスポットワークやギグワークが広がりを見せ、若年層を中心に「給与は即日受け取れるもの」といった感覚が生まれ始めています。業種や雇用形態によって異なりますが、即払いのニーズは、時代とともに高まっているのです。
こういったニーズを踏まえ、当社では『Airワーク 給与支払』の即払いサービスを開始。従業員の方は、即払い申請した分の給与を、『COIN+』と銀行口座で、申請から最短10分で受け取ることが可能になりました。現行の慣習とは異なる、新しい選択肢です。
賃金のデジタル払いはもともと、即払いを前提としたものではありませんでした。普段給与を受け取っている銀行口座と比べ、明確に使い道が決まっている人がデジタル払いを選ぶのではないでしょうか。そういう意味で、決済や出金、送金といった取引がどれだけスムーズに行えるかがポイントになります。
これまで通り月に1回、給与を受け取るだけなら、デジタルマネーより銀行口座の方が優位です。しかし、例えば『COIN+』は従来の全銀システムネットワークを経由しないため、最短10分の振り込みを実現し、安価な手数料でご利用いただけます。「何回でも即時に受け取れるように使えば便利」という発想から、必然的に即払いという結論にたどり着き、即払い機能前提で「資金移動業者」の申請を行いました。
賃金をデジタルマネーで、かつ即払いで受け取るという前例のないサービスでしたし、リクルート、RMB、三菱UFJ銀行の3社が関わっていたため、申請の事前審査に時間がかかりました。保証時の対応などさまざまなケースを想定して、利用者保護を最優先に厚生労働省と議論を重ね、安心してご利用いただけるサービスとなりました。本当に役立つサービスを提供したい、採用難に苦しんでいる事業者や給与日まで苦しい思いをしている従業員の方が少しでも減ってほしい、という願いから実装しました。
若者のニーズ捉え、従業員の安心を醸成。選ばれる職場に
企業にとって、即払いや賃金のデジタル払いを導入するメリットはありますか。

当社の調査によると、「給与即払い」を求人原稿で訴求することにより、応募数が19.0%も増加しました。 すでに制度を利用している人に「即払いが利用できることで、その職場で働き続けたいと思ったか」を聞いたところ、62%が肯定的に回答。また、現在働いている企業が即払い制度を導入した場合に利用したいかどうかでは、全体の40%が利用意向を示し、特に10代・20代の若年層の利用意向が高い結果となりました。当社が運営する求人検索サイト『タウンワーク』にて、各地域での2023年12月検索されたワードの上位20位を見ると「日払い」が検索キーワードの上位を占めており 、即払いのニーズが高まっていると感じます。
また、「よのなか調査」として全国の15~69歳の生活者を対象に「希望する給与の受け取り方法(複数回答可)」を調べたところ、デジタル払いを希望する割合は全体で10.5%でしたが、15-19歳は31.0%、20代は18.6%と、若い世代で希望者が多い傾向にあります。特に20代の希望者は、この2年で1.6倍に伸びました。
参考:働いた分の給与をいつでも受け取れる「給与即払い」、採用時に訴求することで応募数が19.0%も増加 デジタルマネーでの給与受け取り希望は10.5%、20代は18.6%とニーズ増加
これらのデータを踏まえると、即払いは飲食店など、特にアルバイト従業員が多い事業者は、いずれ導入せざるを得なくなると思います。従業員にとって、給与をすぐに受け取れることは、シフトに多く入るかどうかを決める際の大きな要因になります。
若年層のニーズを考えると、大企業も導入を検討する必要がありそうですね。
大企業では即払いをあまり想定していないかもしれません。しかし、労働基準法には「非常時払い」という規定があります。従業員が出産や疾病、災害など非常の場合に請求すれば、企業は支払い期日前でも賃金を支払う義務がある、というものです。これをもっとフレキシブルにしたものが即払いだとイメージしてください。
労働力不足が続く中、従業員から選ばれる企業になるため、従業員の経済的安定にどれだけ投資しているか、個人の資産形成にどのようなサポートをしているかが問われる未来が来ると考えています。その一環として賃金のデジタル払いや即払いの制度を導入することで、従業員の満足度向上が期待できます。毎日使うわけではなくても、選択肢として制度があるだけで、従業員にとっては「急な出費があっても大丈夫」という安心感につながるでしょう。
実際に賃金のデジタル払いや即払いを導入する際、どのような手続きが必要となりますか。
導入企業は、主に労使協定の改定・締結と労働者への説明、労働者の個別の同意取得が必要となります。労使協定では、賃金のデジタル払いの対象となる従業員や賃金の範囲などを定めます。その後、必要な留意点を説明し、同意を取得します。一見、人事部の皆さまにとって大きな負担ですが、導入の際は私たちが丁寧にサポートするのでご安心ください。
大きな流れとして賃金のデジタル払いや即払いのニーズが高まっている中、激化する人材獲得競争で他社との待遇の違いをつける必要性に迫られ、導入する企業が増えることが予想されます。現状でも、細かなものを含めると年に1回程度は労使協定を改定している企業も多いのではないでしょうか。その改定のタイミングで制度導入を検討するとよいかもしれません。従業員にとって給与の受け取り方の選択肢が広がり、マイナスになる話ではないので、同意取得において、大きな反発が見られることはほぼありません。
導入を検討する事業者にとってはコスト面も重要です。手数料はどれくらいかかりますか。
銀行の振込手数料上昇なども報道されていますが、『Airワーク 給与支払』では、即払いの手数料を1回110円(税込み)としています。2025年7月までは手数料を実質無料とする特典企画を実施しています※。
※特典適用期間は、予告なく変更・終了・延長の可能性があります。
大規模なシステムの見直しが必要だと考えている方も多いでしょう。確かに、労務管理や給与の緻密な計算など、即払い制度を完璧にカバーしているシステムは多くありません。『Airワーク 給与支払』は既存のシステムに“外付け”することで、賃金のデジタル払いや即払いへの対応が可能です。現在お使いのシステムを変える必要がなく、シンプルで使いやすいサービスです。
給与の受け取り方がフレキシブルに
賃金のデジタル払いや即払いによって、社会はどのように変わるのか、展望をお聞かせください。
ゆくゆくは「月に1回支払い」という給与の常識が変わると展望しています。実際に海外では、給与の支払いサイクルが短く、複数回に分けて受け取ることが一般的な地域もあります。家賃の支払いサイクルなどが違うので単純に比較はできませんが、例えばアメリカでは、2週間に一度の受け取りが一般的です。雇用形態や働き方と同様に、給与の受け取り方もフレキシブルになっていくでしょう。
決済の手段が多様化し、個人の収入と支出の管理は複雑になる一方です。もう個人の手には負えなくなっていると感じています。将来の収入を予測して収支をコントロールするため、給与をフレキシブルに受け取る選択肢は絶対に必要になるはずです。
また、利用者にとって、便利になるのはもちろん、働くモチベーションの向上につながる側面もあると思います。例えばアルバイト従業員は、どれくらいの即払いを受ける権利があるのか、その金額を見ることができます。言い換えれば、これまでは月に1回の給与明細でしか確認できなかった「自分がどれだけ頑張って働いたか」を、リアルタイムで確認することができるのです。
人事の皆さまにメッセージをお願いします。
従業員が「企業より自分の方が立場的に弱い」と感じてしまうことはよくあります。すると「急な事情で給与を少し早く受け取りたい」「給与を何回かに分けて受け取りたい」という要望を、どうしても言いづらい。人事がアンケートを取っても、なかなか正直に回答できない人もいるでしょう。そのため、多くの企業が賃金のデジタル払いや即払いのニーズを把握していません。ただ、これまで複数社の導入をお手伝いしてきましたが、「こんなに利用されるとは思わなかった」と驚く人事の方が多いと感じます。
給与が日々可視化されることで労働意欲が上がる、という話も聞きます。即払いというとお金に困った人が使うイメージがあるかもしれませんが、実態とは乖離していると思います。
給与の支払いが「月1回・銀行口座のみ」という従来の形では、即時性や手数料の観点で最適化されない可能性があります。その間を埋める存在が、即払いです。賃金のデジタル払いや即払いの普及自体が途上なため、社内のルールをいかに整備するかが重要です。世間的にスタンダードなものはまだありませんが、当社はすでに複数社を支援した経験があり、各企業の労務会計システムのパターンについての知見を蓄積しています。従業員向けのFAQや問い合わせ窓口を用意し、人事労務を担当する皆さんの負担を軽減する体制も整えています。
もともと即払いの制度があった事業者も、新しく制度を整える大企業も、スムーズに導入できるようにサポートします。従業員のニーズがあり、導入に向けた負担もそれほど大きくないので、福利厚生の一環として、賃金のデジタル払いと即払いの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
「賃金のデジタル払い」についてもっと知りたい方向けに、関連セミナーも実施しております。
よろしければ以下よりお申込ください

セミナータイトル | 賃金のデジタル払いがもたらす変革 〜導入方法から利用メリットまでを解説〜 |
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日時 | 2025年3月13日(木)11:00~12:00 |
開催形式 | Zoom ※お申込み者の方にメールでURLをお送りします |
定員 | 50名 |
費用 | 無料 |
対象 | 給与や福利厚生業務に関わる人事・労務担当者 |
講師 |
渡辺 和樹 株式会社リクルート プロダクト統括本部 ペイロールプロダクト部 部長 / 『Airワーク 給与支払』プロダクト担当者 |

『Airワーク 給与支払』は、毎月の振込みがラクになる給与支払サービスです。毎月の給与支払日に一覧画面からスタッフ全員の給与を1クリックでカンタンに振り込めます。また、スタッフからの申請に応じて給与の先払いにも対応できます。振込先の金融機関がどこであってもサービス利用料(振込手数料を含む)は一律です。
導入した事業者の方からは、「どこにいてもカンタンに給与を振り込めるようになった」、導入店舗のスタッフの方からは、「急な出費が発生しても、オーナーに気兼ねなく給与の先払いを申請できるようになった」などの声をいただいています。
『Airワーク 給与支払』も含むAir ビジネスツールズでは、予約・受付管理、会計、決済から人材採用、シフト管理、資金調達や請求書管理まで、事業運営のアナログな業務にかかる、手間、時間、コストを軽減できます。私たちは、事業を営むみなさまの「思い描く事業運営や自分らしいお店づくり」を、これからも支援し続けます。

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