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地域企業の活性化に向けた人的資本経営推進を実現 「地域の人事部」による多様な人材活躍支援と地方創生とは

注目の記事研修・人材育成[ PR ]掲載日:2023/03/22

社会経済環境の変化が激しい現代において、地域の中小企業を取り巻く状況も変わりつつあります。こうした状況に地域の中小企業が対応するためには、経営戦略と人材戦略が連動する人的資本経営への対応が必要です。経済産業省関東経済産業局は、2022年度から「地域の人事部」という取り組みを開始。商工会・商工会議所や金融機関・教育機関など地域のステークホルダー全体を巻き込み、中小企業に対して人材にまつわる支援を行っています。地域の中小企業に兼業・副業人材や若者をマッチングする取り組みは支援の一つですが、都市圏や大企業の人材が経営者視点や社会課題解決を学ぶ場としての活用も期待されています。経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課 産業人材政策係長の川崎 聡也氏と、株式会社パソナJOB HUB ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長の加藤遼氏にお聞きしました。

Profile
川崎 聡也さん
川崎 聡也さん
経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課 産業人材政策係長

かわさき・としや/2012年、経済産業省 関東経済産業局入局。入局後、中小企業に対する金融支援、研究開発支援を経て、2016年に中小企業庁へ出向し、被災中小企業者への復旧支援に従事。2018年からは中小企業の経営支援窓口に関する事業に従事し、2020年5月より現職。

加藤 遼さん
加藤 遼さん
株式会社パソナJOB HUB ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長

かとう・りょう/パソナにて、人材派遣、若者雇用、中小企業経営支援、東北復興、地域産業人材育成、観光振興、ローカルベンチャー事業開発、シェアリングエコノミー推進などに携わった後、現在はパソナJOB HUBにて、地域複業、ワーケーション、地方創生テレワークなど地域と都市を繋ぐ新しい働き方の創造や、企業の働き方変革・人材育成・人的資本経営推進に注力。

中小企業の人的資本経営を推進する「地域の人事部」

「地域の人事部」とはどのような取り組みなのでしょうか。

川崎:地域の自治体や、商工会・商工会議所、金融機関をはじめとする支援機関や教育機関が一体となり、地域の中小企業の人的資本経営を推進する取り組みです。

地域の中小企業の人的資本経営を推進する取り組み

具体的には、人材活用に対する経営者の意識変革を促す「人材戦略・組織変革支援」、地域単位で人材にアプローチする「人材確保支援」、地域単位でキャリア開発などを行う「人材育成・定着支援」を中心に行っています。初年度となる2022年度は、茨城県日立市、常陸太田市、大子町、新潟県長岡市、燕市、長野県松本市、塩尻市、静岡県三島市で「地域の人事部」を立ち上げました。

地域の人事部のエリア

加藤:パソナJOBHUBは、プロフェッショナル人材による経営・事業支援や、人材と企業をマッチングするプラットフォーム事業などを展開しています。その知見を地域の商工会議所・商工会や金融機関に提供しているのです。

「地域の人事部」ではこの1年間、地域の中小企業に対して外部人材活用を促す取り組みをメインに行ってきました。ゆくゆくは、自社の人材確保や育成、より良い働き方を実現するための環境整備などにも取り組み、各地域が自律的に人材戦略を推進するための体制やネットワークの構築をしていきたいと思っています。

「地域の人事部」を始めた背景について教えてください。

川崎:2019年度に、地域の中小企業に対して、外部人材活用を推進する事業を行ったことがきっかけでした。取り組みを進めるうちに、人材定着や育成、従業員エンゲージメント向上など、より包括的な支援が必要だと考えるようになったんです。

川崎 聡也さん(経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課 産業人材政策係長)

新卒一括採用や終身雇用の仕組み、年功序列の賃金制度など、これまで企業における雇用のあり方は画一的なものでした。しかし、今はビジネス環境の変化が激しく、少子高齢化に伴う人材不足も深刻になりつつあります。このような環境の変化に対して、企業側も柔軟に対応していかなければなりません。

社内の人材育成や教育研修における取り組みは、日本では長らくコストだと捉えられる傾向にありました。そのため、諸外国に比べて人材への投資があまり進んでいません。しかし持続的に企業価値を高めていくためには、人材という無形資産が非常に重要であり、各企業はもっと自社の「人」について考え、人的資本経営を推し進める必要があります。

しかし、地域の中小企業が自分の力だけで人的資本経営を実現することは難しいため、日頃から地域の中小企業と接している自治体や支援機関などの存在が不可欠です。地域のステークホルダーが一体となって、中小企業の人的資本経営を推し進めるべきだと考えています。

地域の中小企業が人的資本経営を実現するにあたって、どのような課題があるのでしょうか。

川崎:変化への対応が進んでいないことが挙げられます。たとえば採用において、知り合いの紹介で人材を確保している企業は未だに多いのが現状です。それで企業の経営が成り立ってきたので、「外部人材を活用してみよう」という発想には至らないのだと思います。

また、兼業・副業人材やフリーランスで活動する人材は都市部に集中しているため、なかなか出会う機会がないのも課題の一つです。そのような背景もあり、なかなか新しい取組の必要性を感じられないのだと思います。

また、支援する側の地域のステークホルダーに対しても人的資本経営の重要性を啓発できていないことも課題の一つです。

加藤:人的資本経営を実現するには、経営戦略に紐づいた人材戦略を練る必要があります。ただ、人材戦略においては、コアとなる人材の確保や育成、人事制度や柔軟な働き方などの環境整備など、考えることがたくさんあります。本来は企業理念や経営戦略と連動した人材戦略に基づいて対処すべきですが、実際は個別の課題に打ち手を講じるのにとどまり、結果が出ないと悩む企業が少なくありません。我々は、経営者が企業理念や経営戦略に紐づいた人材戦略を主導し、実施していくことをサポートしたいと考えています。

支援機関を巻き込み「地域の人事部」が前進した手応え

「地域の人事部」における、具体的な取り組みの事例を教えてください。

川崎:人的資本経営について考えるきっかけとして、外部人材活用の支援を実施しました。具体的には、中小企業の課題を掘り起こした上で、兼業・副業人材とマッチングしてもらい、課題解決を図るものです。

過去の成果事例として、長野県塩尻市のガソリンスタンドを運営する企業では、ITに詳しい兼業・副業人材によって、顧客対応の効率化ができるチャットボットの導入が実現しました。他の事業部でもITツールの活用を検討するなど、社内に新たな動きが生まれています。

同じく塩尻市のものづくり企業では、大手広告代理店でPRプランナー経験のある兼業・副業人材とのマッチングが成立しました。これまで全く活用していなかったSNS発信のレクチャーを受けたことで、新商品の販路拡大と認知度向上につながっています。

加藤 遼さん(株式会社パソナJOB HUB ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長)

加藤:経営戦略の実現に向けた事業の推進を担うポジションで外部人材を活用するケースが多いですね。職種は、マーケティングや広報、新規事業企画から人事などのバックオフィスまで多岐にわたります。

兼業・副業人材との関わり方も、企業の状況に応じてさまざまです。経営課題の解決やイノベーション創出に向けた社長直下の「プロジェクト型」、機関や成果物を限定せずに現場の社員と同じ目線で働く「ミッション型」などが主なパターンです。

川崎:さらに、今年度は商工会・商工会議所や金融機関などの支援機関や大学などの巻き込みが大きく進みました。これまで、各地域でセミナーを実施してきましたが、本当に地域企業がそのような支援を必要としているのかという懐疑的な意見や、実際にどのような支援をすればいいのかわからないという意見も多くありました。

そこで今年度は、支援機関や大学などに「地域の人事部」に参画してもらいました。「地域の人事部」が実施する支援を体験することで、経営者がそれらの支援をどのように受け止めているかを感じてもらったのです。

支援の中では、プロジェクトを終えた兼業・副業人材からなぜ地域に関心を持っているのか話してもらったり、支援機関に外部人材とのマッチング支援に同伴してもらったりするなどの工夫をしました。

マッチングの現場で、経営者と外部人材が熱く言葉を交わす様子や、プロジェクトの成果を喜ぶ様子を見て、支援機関の方々も「こうした支援が必要とされているんだ」と実感できたようです。こういった実体験を通じて「地域の人事部」という考え方に賛同し、動いてくれる機関が少しずつ増えていると感じます。

また、各地域で協議会を開催し、支援機関同士で地域課題に関して議論してもらいました。同じビジョンに向って進むためには、このような議論の場はとても重要だと感じています。

地域の中小企業や、外部人材からは、どのような反応がありますか。

加藤:中小企業の経営者からは、「自社にはない新たな知見を獲得できた」「普段は知り合う機会がないような優秀な人材と出会うことができた」などの声が寄せられています。企業の経営において、多様な人材と関わりを持つ効果を実感してもらえたのだと思います。

その様子を見て、当初は懐疑的だった方たちにも、「外部人材とこんな関わり方ができるのか」「地域企業に貢献したいと思ってくれる人は実際にいるんだ」などと実感してもらえました。「外部人材をぜひ活用したい」という問い合わせが増えていて、社外の人材受け入れに積極的になっていると感じます。

また、兼業・副業人材の皆さまからは、「地域の経済活性化や社会課題の解決に携われてやりがいを感じた」「自身が共感できる理念を持つ企業と仕事ができた」といった感想を聞いています。普段の業務ではなかなかできない体験を、自身のキャリアに生かしていると感じます。

地域企業の課題解決を通じて、次世代リーダーやイノベーション人材が育つ

次世代リーダーやイノベーション人材の育成を目的として、地域での越境学習プログラムなどに社員を研修で送り出す大企業が増えています。「地域の人事部」は、そのような場面でも活用できるのでしょうか。

川崎 聡也さん(経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課 産業人材政策係長)

川崎:人的資本経営の推進は、多くの大企業にとって喫緊の課題です。その点で「地域の人事部」の取り組みは、社員の能力開発の場として大いに活用できると考えています。

「地域の人事部」を活用すれば、社員が地域の中小企業が抱えるリアルな経営課題の解決に携わることができます。座学のみの研修よりも、実践的に学び、スキルを身につけることが可能です。

「地域の人事部」の取り組みに参加し、その活動内容を伝えることは、IRなどでも大きなメッセージになり得るでしょう。また、「この取り組みを通じて社員にどのような能力を身につけてほしいのか」「会社として何を目指すのか」を考えるよいきっかけにもなると思います。新たな選択肢として検討してもらえたらうれしいです。

また、地域の中小企業としても、自社社員の育成、大企業社員のノウハウ獲得といった点で成長につながります。

加藤:具体的な実施方法としては、「プロジェクト型の研修(PBL:プロジェクトベースドラーニング)」などを想定しています。また、「地域の人事部」で募集しているポジションを、社員に兼業・副業案件として情報提供することもできます。

現在「地域の人事部」に申し込む兼業・副業人材は、20代から60代まで幅広い年齢層です。また、会社員は役職や肩書もさまざま。したがって、大企業から人材を送り出す場合も、現職のポジションに応じて多様な機会を提供できます。

川崎:来年度以降は、地域の中小企業と大企業が複数集まる合同プログラムも検討します。「地域の人事部」が人材育成のプラットフォームとして機能することを目指しています。

「地域の人事部」だから提供できる、実践的な学びの場と、社会貢献機会

大企業が「地域の人事部」とつながるからこそ、得られるメリットはあるのでしょうか。

川崎:地域の中小企業との取り組みは、社長直下のプロジェクト型で進めるケースが圧倒的に多く、大企業の社員は生の経営課題に経営者目線で向き合う機会を得ることができるので、社員に大きな学びと成長をもたらします。

加藤 遼さん(株式会社パソナJOB HUB ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長)

加藤:社会につながる視点を持てることも大きいと思います。大企業の方と話していると、「自分の仕事が、社会にどう貢献しているかわからない」という声をしばしば耳にします。地方では、自然環境や人口などに関する社会問題は非常に身近なもので、経営とも密接に関わっています。地域課題の解決が事業の目的である企業もあります。そうした企業で働くことで、SDGsなどにつながる視点を持ちやすくなるでしょう。

また、地域での経験を通して培ったマインド、スキル、ネットワークを自社の仕事に生かすことで、仕事に対するやりがいが向上し、組織内のイノベーション創出にもつながるはずです。

数ある企業の中から、社員を送り出せる相手を探し出すのは難しいことです。たとえいい企業と巡り会えたとしても、実際に社員を派遣するための交渉や、社員が勤務している間のフォローなど、人事部門の労力は計り知れません。「地域の人事部」が、企業と人材のマッチングや、社員のフォローを一手に引き受けることで、人事部門の業務負担を大きく減らすことができます。

社員に対して、一人ひとりのキャリアを豊かにする学びを提供したいと考えている企業にとっては、「地域の人事部」との連携は最適な手段だと思います。

大企業と「地域の人事部」との連携は、2023年度から本格化するそうですね。

川崎:はい。人材育成の場として活用してもらえるように企画を進めており、先ほどお話ししたように、研修の企画や、兼業・副業を検討する人へのマッチングなどを考えています。

加藤:初年度、各自治体や支援機関の方々と連携しながら地域企業での具体的な成果を目にするなかで、現場に熱量が生まれているのを感じます。企業と兼業・副業人材の双方に、とてもいい経験を提供できているので、より多くの企業を巻き込み、効果を波及させていきたいですね。

川崎:「地域の人事部」の事業は、地域企業の人的資本経営推進に向けて、単年での取り組みで終わることなく、中長期的な視点を持って取り組んでいます。

ゆくゆくは全国にこの活動が広まっていくことを期待していますが、まずは各地域での実証事業を通じて、どのような取り組みが成功に寄与するのかを分析していきます。

最後に、人的資本経営に取り組む中小企業経営者、人事担当者へメッセージをお願いします。

川崎:経済産業省が取りまとめた「人材版伊藤レポート」では、経営戦略と連動した人材戦略の実践と、人的資本の情報を可視化した上で投資家に発信することの重要性が示されています。

中小企業も、人的資本経営に取り組み、従業員のエンゲージメント向上、経営戦略と人材戦略の連動を実現することで経営力を強化することが可能です。

加藤:人的資本経営を実践するなかで、短期的な成果を出すのは簡単ではありません。私たちも、確かな手ごたえは感じつつ、「地域の人事部」の取り組みをさらに良いものにしていこうと試行錯誤しながら進めているところです。

可能性がたくさんある事業です。地域の活性化という非常にやりがいのあるテーマに携わり、一緒に実証してくれることを期待しています。

川崎 聡也さん(経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課 産業人材政策係長) 加藤 遼さん(株式会社パソナJOB HUB ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長)
関東経済産業局 ホームページ 「地域の人事部」について(関東経済産業局 ホームページ) 人的資本経営について(経済産業省 ホームページ)
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電話:048-600-0274
E-MAIL:bzl-kanto-jinzai@meti.go.jp

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この記事ジャンル 経営者育成

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