社員の生活習慣病の予防や改善を図るには、効果的な動機づけと継続的な支援が欠かせません。何より重要なのは、病気になるのを未然に防ぐこと。社員自身が病気になるリスクをどの程度抱えているのかを明らかにできたら、暴飲暴食や喫煙などの生活習慣を見直すきっかけになるかもしれません。NECソリューションイノベータ株式会社とフォーネスライフ株式会社では、2021年10月からデジタルヘルスケアサービス「フォーネスビジュアス」の提供を開始。最新のバイオ&AIテクノロジーで、煩雑な運営になりがちな企業の健康経営を包括的にサポートしています。サービスを提供するフォーネスライフの江川尚人さん、NECソリューションイノベータの安藤かよさん、DeNAで健康経営を実践し、産学両面でヘルスケアの普及・浸透に取り組む株式会社イブキの平井孝幸さんにお話をうかがいました。
- 平井 孝幸さん
- 株式会社イブキ 代表
DeNA CHO室 室長代理
ひらい・たかゆき/株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)CHO室室長代理。東京大学医学部附属病院22世紀医療センター研究員。大学卒業後にゴルフ事業で起業し、2011年DeNA入社。2015年従業員の健康サポートを始め、翌年健康経営の専門部署CHO室を立ち上げる。2018年DBJ(日本政策投資銀行)健康経営格付アドバイザリーボードなどを歴任。
- 江川 尚人さん
- フォーネスライフ株式会社 代表取締役 CEO
えがわ・なおと/ NECソフト(現NECソリューションイノベータ)入社後、経営企画や事業企画、法務などの管理部門を担当。2011年頃から米SomaLogic社との共同事業契約のコーディネーターやネゴシエーターとして関わり、2020年4月にフォーネスライフ株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。
- 安藤 かよ さん
- NECソリューションイノベータ株式会社
事業支援部 BCP&ウェルビーインググループ 主任
あんどう・かよ/NECシステムテクノロジー(現NECソリューションイノベータ)入社後、人事・労務・福利厚生などの人事総務部門を担当。2017年から健康経営に携わり、2021年は社員のウェルビーイングに寄与する施策としてアプリを利用した健康づくりの取り組みや、eスポーツを介した全社コミュニケーション施策を展開。
個々の関心と程度に合ったコンディショニングの重要性と難しさ
平井さんはDeNAで健康経営に取り組まれるだけでなく、ワークパフォーマンス向上を目的としたコンディショニングの伝道師として多方面で活躍されています。
平井:かつてプロゴルファーを目指していたこともあり、学生時代から心身の体調を整えるコンディショニングは生活の一部でした。その後、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社し、社員の健康の大切さやプレゼンティズムを下げることで組織パフォーマンス向上にもつながると役員に話しCHO(Chief Health Officer)室を立ち上げました。
DeNAは平均年齢が30代の会社です。“健康”になろう!と打ち出しても、健康課題を抱えていない社員には響きません。しかし、仕事のパフォーマンスを高め、日々を快適に過ごすためのコンディショニングであるとわかれば、若くても自分の体に気を遣うようになります。もしかしたら「若々しく見える」や「美しくなる」のようなワードで訴求したほうが、参加者を増やせる会社もあるかもしれません。社員が主体的に健康活動に取り組み、体の状態がよくなることでワークパフォーマンスが高まれば、健康経営に取り組む成果がだしていけます。
社員一人ひとりに合ったコンディショニングを、企業はどのように支援すればいいのでしょうか。
平井:もともと健康意識が高く、自分の能力を十分に発揮するうえで体調管理は欠かせないと考えている人は、すでに行動しているはずです。健康に関心がなかったり、多忙で健康活動ができていなかったりする人に向けて、どのようにして行動変容につながる取り組みを仕掛けていくかがポイントになってきます。
DeNAでは、2016年に100回近く社員向けの健康セミナーを企画・実施してきました。そこで見えてきたのは、健康無関心層の意欲喚起には、課題をピンポイントに絞った取り組みが有効であること。特に自身が「今困っていること」には高い関心を示します。
例えば「腰痛撲滅プロジェクト」では、腰痛に悩んでいる人や、忙しくて毎日座りっぱなしの人からたくさんの反応がありました。睡眠改善も、寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝にすっきりと起きられないなど、不快を自覚していると興味を持ってもらえます。「お勉強っぽくなく、役に立つ感じ」をどう演出するかがポイントです。
健康活動のキャンペーンを実施する場合も、それを単体で捉えていると、なかなかうまくいきません。社員の意識や行動をどのように変えたいのかをよく考えて、企画に落とし込むことが大事です。どの会社にも好奇心が旺盛で、仕事には精力的に取り組む人が一定層いると思うのですが、そうした人たちの興味に火をつけると強いですね。
NECソリューションイノベータでは、ウェルビーイング観点でのソリューション開発に力を入れられていますが、社員の皆さんの健康状態はいかがでしょうか。
安藤:当社は40~50代の社員が多いこともあり、中には、高血圧や脳梗塞、がんといった生活習慣病に対するリスクを持つ社員もいます。また、新型コロナウイルス感染症流行の影響で働き方も変わり、運動不足やコミュニケーションの不足から体調を崩す人もいます。若手や異動して間もない社員には、メンタル不調を来すケースが見られます。
そのため、会社としても社員の行動変容や生活習慣改善を促す取り組みを行う必要性を感じています。ただ、趣味で体を動かしている人はともかく、運動習慣のない人などは「何から始めればいいの?」という状態です。急に頑張っても続かないので、一日を過ごす中で健康的な活動を自然と取り入れられればと考える社員は多いように思います。
平井:ちょっとしたことでも、健康に対する意識を変えることはできます。例えば、ランチを外で食べるようにするだけでも、デスクで食事してそのまま仕事するのとは違ってきます。パソコンの前から離れることで気分転換になるし、移動するので体も動かせます。食後に少し歩くと血糖値の下降がゆるやかになりやすく、眠気が抑えられたという人もいます。
効果を実感できると、ふとした弾みで不健康生活代表ともいえるような人が健康オタクに大変身を遂げることもあります。DeNAで腸内環境と脳の関係を扱ったときに、それまで「口に入れば何でもいい」とカップ麺ばかり食べていた若手社員の食生活がみるみる変わっていきました。机の下にストックしていたカップ麺は消え、飲み物はエナジードリンクからミネラルウォーターに代わり、忙しいときでもコンビニでサラダチキンや野菜のおかずを選ぶようになったのです。
「たくさん歩きましょう」「バランスよく食事しましょう」と言われると面倒に感じますが、ちょっとの工夫で快適に過ごすことができると、仕事へコミットしている感覚も得られます。そのようなサポートを行う会社へのエンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
健康状態とアクションの見える化で包括的に健康経営をサポート
企業の健康経営をサポートする「フォーネスビジュアス」とは、どのようなサービスなのでしょうか。
江川:大きく二つのサービスから構成されています。一つ目は、健康診断の結果をベースに将来の検査結果を予測し、生活習慣の改善を促すデジタルヘルスケアサービスです。もう一つは、少量の血液から現在の体の状態と将来の疾病リスクを医療機関から提供する検査サービスになります。その二つを組み合わせ、健康経営に役立てていただく統合型のデジタルヘルスケアサービスになっています。
まず、「NEC 健診結果予測シミュレーション」で過去2年分の健康診断結果から、3年後の検査結果を予測します。同時に健康状態に影響を与える、食事、運動、睡眠、飲酒・喫煙などの生活習慣を見直すことで、どのように予測が変化するかも示します。今は基準値に収まっている項目も、加齢や生活習慣によって悪化するおそれもあるでしょう。潜在的な健康リスクを明らかにし、食い止める指針を見いだすことができます。
安藤:「NEC 健診結果予測シミュレーション」はグループ社員を含めて20万人の導入実績があり、「フォーネスビジュアス」のサービス開始以前から高い支持を集めています。保健指導を行う産業医や保健師の方からも、「予測があることで、効果的な指導を行える」とお墨付きをいただいています。
江川:日々の健康活動は、スマートフォン向けの「フォーネスビジュアスアプリ」がサポートします。自身の健康リテラシーや活動量に応じてウィークリーやデイリーで目標を立て、チャレンジ項目に挑戦できます。アプリ内のコンテンツも充実していて、筋力トレーニングやヨガの動画をチェックする、「NEC パーソナル睡眠コーチ」を活用して睡眠の質を高める、食事内容を記録して食習慣の改善アドバイスを受ける、といったことが可能です。また、「フォーネスビジュアス」を通じて蓄積された集団のデータは、自社の健康経営の方針や施策を検討する際の判断材料にも利用することができます。
医療機関の受診を通して提供する血液検査「フォーネスビジュアス検査」では、血液中の約7000種のタンパク質を解析し、通常の健康診断ではわからない体の状態や、4年以内の心筋梗塞・脳卒中、5年以内の肺がんの発症リスクを予測します。
平井:健康経営を本気でやろうとすると、専任のスタッフを配置し、従業員にヒアリングなどを行いながら施策と検証を緻密に繰り返していく必要がありますが、そこまではできないというのが現実ではないでしょうか。外部のサービスもうまく取り入れながら進めるのが、健康経営のコツです。「フォーネスビジュアス」のような仕組みであれば、PDCAサイクルを回しやすくなります。
どのような経緯で開発に至ったのでしょうか。
江川:直接的なきっかけは、米国のヘルスケア企業SomaLogic社との共創です。同社はごく少量の血液から、数千種類のタンパク質を同定する技術を開発しました。「この技術を疾病予防に生かせたら、世の中が変わる」という思いでSomaLogic社にコラボレーションを提案し、商品開発を進めました。
予防医学の重要性は年々増していますが、「どの程度の確率でどのような病気になるのか」といった具体的なことは、これまで語られることはありませんでした。未来の健康状態を把握することは、とても大切なことです。病気にかかることで、本人だけでなく家族や一緒に働く仲間など、周りの人の暮らしや生き方にも大きな影響を与えるからです。
そのため早期発見のさらに一歩手前の段階である、予防に力を入れる必要があります。それには疾病予測だけでは不十分で、行動変容が伴わなければなりません。しかし従来の健康経営ソリューションは、健診と保健指導、生活習慣支援、メンタルヘルスと、目的別になっていたものがほとんどでした。
「フォーネスビジュアス」は、これまでNECソリューションイノベータがつくり上げてきたヘルスケアソリューションと血中たんぱく質測定技術を掛け合わせることで、健康経営を包括的にバックアップする仕組みを整えています。
「病気になるかもしれない」行動変容につながる気づきの重要性
実際に利用したユーザーからは、どのような反応がありますか。
江川:数年先の疾病リスクが明らかになるのは衝撃的だったようで、ご利用いただいた方からは、「本当に私のデータなのか」といった反応を示す方もいらっしゃいました。
結果的に、多くの利用者に何かしらの行動変容が見られました。例えば、タバコの銘柄を体への負担の少ないものに変えるといったライトなアクション。当社のコンシェルジュに健康相談を行った方の中には、面談で紹介された料理を家族でつくり食べるようになったという方もいらっしゃいました。また、自宅から会社までの一部を徒歩通勤に切り替えたりするなど、本格的な生活改善に取り組む方もいました。もちろんすべての方ではありませんが、日々の過ごし方の積み重ねにより、自身の体がつくられていることに気がつき、行動に移された方もいらっしゃいました。
平井:「気づき」は行動変容を起こすうえで、大切なファクターです。先ほどお話しした腰痛撲滅プロジェクトでは、オフィスの一部にポスターを掲示したことがありました。「頭の重さは体重の10%を占める」ことをメインに、デスクワーク中もまっすぐな姿勢を心がけることの重要性を示したものです。するとポスターを貼ったフロアは、他と比べてエンジニアの腰痛や肩こりを訴える人の割合が減ったのです。ポスターが目にとまるたびに自分の姿勢をチェックするなど、意識する人が多かったのでしょう。
「フォーネスビジュアス」では、ユーザー個人の健康課題やリテラシー、志向に合ったトピックを得られるほか、取り組み状況や健康状態が可視化されるので、行動変容につながりやすい。3ヵ月後、半年後、1年後と継続することによって、体調や睡眠の質、メンタル状態が改善する人たちが現れるでしょう。そうした人たちの情報をしっかりと集め、社員とコミュニケーションを図っていくことで、健康経営の効果は加速していくと思います。
新しい機能やサービスがあればお教えください。
江川:最近では「フォーネスビジュアスアプリ」に、栄養アセスメント機能を追加しました。食事の内容や食べ方に関する質問に答えるだけで、体と健康の状態や栄養バランスを調べることができます。日々の食事を記録する必要がなく、気軽にチェックできることが特長です。また平井さんにもご協力いただいて、口腔ケアのコンテンツを開発しているところです。
平井:口腔ケアは、私が近年特に注目している分野です。歯周病は糖尿病や心筋梗塞などの生活習慣病やアルツハイマー型認知症とも関連が深いことがわかってきていますし、高齢になってからも自分の歯の本数がQOLを左右するともいわれています。人によっては30代から歯周病リスクが高まるにもかかわらず、ケアは歯みがきだけという人が多いです。ちなみに歯ブラシだけでは、口中の歯垢の6割程度しか除去できないという研究結果もあります。(※研究結果:1975年発刊日本歯周病学会会誌 山本昇氏他 発表より)
開発中のコンテンツでは、ユーザーの口の状態をアセスメントし、結果に応じて口腔ケアのポイントをアドバイスします。例えばフロスや歯間ブラシ、タフト(すき間ケア用のヘッドの小さな歯ブラシ)の使い方や、歯垢除去を行う際の歯科医との付き合い方など。動画で歯科衛生士が解説しており、信頼性が高いものになっています。
安藤:NECソリューションイノベータが提供する「ミッションアプリ」との連携も検証中です。用意されたミッションをクリアしてコインを集めるもので、社内ではウェルネスキャンペーンを過去5回開催しています。社員の反応を見ながらミッションを工夫していて、今は「○日連続で××歩」など、継続性を意識した設定にしています。
継続利用率は70%と高い水準をキープしていて、アンケートではキャンペーン終了後も健康活動を続けたいと答えた人が90%にのぼりました。キャンペーンに毎回エントリーしている社員の中には、健康診断で要再検査や経過観察が散見されていたのが、すべて異常なしになった人も出てきています。集めたコインに応じて社会貢献団体へ寄付できるようにするなど、インセンティブの仕組みも検討しているところです。
最後に、健康経営に取り組んでいる、または今後取り組みを検討している人事担当者に向けてメッセージをお願いします。
平井:「健康でいること」が押し付けになってはいけませんが、会社が健康をサポートしてくれることに不満を感じる人はいないでしょう。「イキイキと元気に過ごしてほしい」という意思を示すのに、「フォーネスビジュアス」の導入は有効な選択肢の一つとなるのではないでしょうか。
江川:健康経営の推進は、社員が変わろうとする一歩をどう支援するかにかかっているところがあります。「フォーネスビジュアス」にはデータに基づくシミュレーションと豊富なコンテンツがそろっているので、みんなで楽しくコミュニケーションを取りながら進めることができます。社員一人あたりの基本使用料も月額300円からと手ごろな価格帯なので、導入しやすいソリューションだと自負しています。
ただし、「フォーネスビジュアス」はあくまでもツールです。健康経営を推進する際は、社員の健康と人生の充実を心から願う経営層の思いが不可欠。「健康経営」や「ウェルビーイング」といった言葉を用いることはなくても、働く「人」の課題に寄り添い、メッセージを発信し続けることが大切です。
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NECソリューションイノベータは、NECグループの社会ソリューション事業をICTで担う中核ソフトウェア会社として、社会やお客様とともに、先進技術とイノベーションで新たな価値を創造し、サステナブルな社会を実現します。