VUCAリーダーの見極め(アセスメント活用の勘所(3))
心理検査においては、被験者を理解するために、複数の検査を行うことを「テストバッテリーを組む」という。たとえば、知能検査と発達検査と性格検査等で多面的に診断することを意味し、性格検査も質問紙で本人が意識しているものだけではなく、よく知られるロールシャッハ検査で無意識領域での性格も把握したりする。被験者の心理特性を全体として正確に測定できなければ、適切な治療や支援ができないからだ。
2回にわたって書いてきたような登用判断における、社内評価の限界やアセスメント手法の効用と限界を踏まえれば、心理検査同様に、登用審査用のテストバッテリーを組むことが望ましい。まずは、自社の管理職者選定として、「何を見極めたいか」を明確にしたうえで、最適の"テスト"の組み合わせを用意する。管理職としての能力発揮可能性判断が必須であれば、センター方式アセスメント。加えて、貢献意欲やエンゲージメントレベルや経営に臨む姿勢を見たいのであれば、社内論文審査や役員面接審査も併用する。自社固有の知識の有無も必須であれば、その審査も加える。
ちなみに、社内審査を組むうえで大事なことは、見極めたい要件にあわせ、論文や面接のテーマ(問い)と要件別の評定基準をきちんと設計し、"テスト"として仕様化することだ。社内審査でありがちな印象バイアスを排除するためにも、「何を問い、何を判断するか」を面接する役員に任せたりしてはいけないのである。
前回指摘した、対人面の能力把握におけるアセスメントの限界を踏まえれば、審査用のテストバッテリーには、360度診断を組み込むことお勧めする。対人能力については、アセスメント結果と社内評価を比較検討することでもよいが、社内評価もまた「上からの評価」という限界がある。360度診断で集計される、日々直接接している部下たちからの対人能力評価こそがはるかに有効な情報であることは明らかだろう。
テストバッテリーを使う審査で大事なことは、すべてのテストをクリアした人だけが合格といった硬直的な運用をしないことだ。でこぼこがありつつも重要な能力がはっきりと高い人であれば、その弱点を補完する組織的な手立てを含めた登用判断をすればよい。要件別にそのレベルがみれるのでそうした判断をしやすいということが、テストバッテリーのいちばんの効用である。
ただ、ここにもまだ限界がある。あくまでも、判断できるのは「従来型のマネジメント適性」にとどまるということだ。既存の事業と組織を管理統制し、定まったゴールに向け人々を動かし組織成果を上げていくマネジメントであれば、まったく問題はないが、もしVUCA環境下で自ら新しい領域を切り拓くマネジメント能力を測りたいとなれば、これだけでは足りない。
ではVUCA対応能力をどうみるか。そのためには、イノベーティブな思考力を見極めるアセスメントが必要である。たとえば、同じ「課題解決力」と「リーダーシップ力」が高い人材であっても、「A=既存の事業や業務を堅実に遂行しうる組織リーダー」と「B=先が見えず不透明な状況下で新しい発想や従来とは異なる取り組みによる課題解決をリードしうる組織リーダー」を分けるものは、イノベーション適性の有無だからだ。
認知科学や創造性研究の知見によれば、イノベーション適性とは、
■新しいことを始める能力(概念的に考える能力、創造的に考える能力、構想と現実を結びつける能力)
といった思考特性に加えて、
■人々と共創する能力(考えを語り合い、巻き込む能力)
■面白がる能力(好奇心もってモチベーション高く取り組む能力)
といわれる。これらは、「行動」からの推察は難しく、アタマの中の思考過程や内発的動機をのぞかなければならないから、"テスト"を組むには工夫がいる。
こうした能力を検出する方法は、3つある。
(1)自在な視座・視野の拡張と思考の柔軟性をみるべくテーマを設計した論文審査
(2) 過去の業務における変革や革新の経験を詳細に問う面接審査
(3) イノベーション適性を測る専用アセスメントの併用
上記の(1)と(2)は、社内審査では、回答から思考力を正確に測定するのは難しいので、"専門家(アセッサー)が評定するテスト"としての設計が必要になる。(3)については、我々が、イノベーション人材の発見・活用のために使っているツール(イノベーターズ・ディスカバリー)をテストバッテリーに組み込むことを推奨したい。上記のイノベーション適性である発散系の思考力(概念化、類推、発想など)や面白がって新しいことに取り組む資質(知的好奇心、内発的動機など)を評定できるからだ。
3回にわたって、アセスメント活用の留意を書いてきた。まとめれば、
・「入学審査」たるべき登用審査には、センター方式アセスメントが有効な道具であること
・しかしその効用と限界を踏まえれば、社内審査を含むテストバッテリーを組むべきであること
・それにより、一律的硬直的ではない、個々人の能力プロファイルにあわせた登用判断ができること
・併せ、VUCA対応力を見極めるには、イノベーティブな思考力を測る工夫がいること
通底してもっとも大事なことは、「一般論ではなく自社の」、また「現在ではなくこれからの」、管理職者として何を見極めたいのか、をまず最初に明確にすることである。
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吉岡 宏敏(ヨシオカ ヒロトシ) シニアパートナー

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