ファシリテーションは誰のもの?
はじめまして、早稲田大学アカデミックソリューションの金子と申します。
本コラムでは、ファシリテーションや組織活性といった切り口から、「誰かと一緒に行う仕事をより活発に、そしてスムーズにする」ために必要なことを考えていきます。
まずは、「会議とファシリテーション」について。
昨今、ファシリテーションという言葉が日本でも広がり、目にする機会も増えています。しかし、何となく「自分には関係ない」という思いはありませんでしょうか。
会議の主催や進行はしないし、そもそも議長やリーダーができればいいのでは、と思われがちなのですが、実は「参加者」にも重要な役割があるのです。
ファシリテーションとは何か?
そもそも、ファシリテーションとはどういったものなのでしょうか。
「促進すること、円滑にすること」という意味を持つファシリテーションは、大きく言えば集団の問題解決を促進する能力です。仕事上の身近な範囲では、主に会議の場面で、客観的な立場から参加者の意見を引き出したり、それをまとめていったりする「ファシリテーター」という役割が注目されています。
この背景には、私たちを取り巻く「変化」があります。昨今、私たちを取り巻く状況は急激に変化をしながら複雑さを増し、これまでの成功体験や従来のやり方だけでは必ずしも良い結果を導くことができない時代となりました。また、職場には価値観やバックグラウンドの異なる人たちが増え、これまでの慣習や「暗黙の了解」が通じない中で、いかに問題を解決していくかという課題が生まれています。
このような状況下では、私たちは特に以下の3点を頭に置いておく必要があります。
●物事は、立場や背景の違いによって見え方が変わる
●見え方の違いは、すぐ表面化するとは限らない
●見え方が違うままでは、合意を得ることが難しい
つまり、私たちはそれぞれが「違い」を抱えたまま仕事に取組み、会議に出席しているというのが前提であるということです。
この「違い」を念頭に置かずに議事を進めていくと、一見上手くいっているように見えて実は重要な部分のイメージが一致していない、逆に細かい対立が目立つばかりで合意の糸口が見いだせないといった問題が起こります。
「合意を得るための会議」だったものが、言ってみれば「すれ違いで終わる会議」となってしまうのです。
こう考えると、参加者全員が自分の立場で主張し合うだけの会議ではうまくいかないのがわかります。
少し引いた立場から全体を捉え、会議体が今どのような状態にあるかを見渡しながら議事を進めていく役割を持つ人。「違い」をもとに生まれる様々な意見を引き出して、それをお互いが理解しやすいようにまとめ、理解をそろえた上でメンバーの合意を得て実行に移す人。ファシリテーターの問題解決サポートが重要になってくるわけです。
ファシリテーションは誰のもの?
集団をまとめるという点から言えば、ファシリテーションはリーダーに求められる能力と考えられることが多く、もちろんリーダーにとってファシリテーションはとても重要な能力であると言えます。会議の場面でいえば、議長にあたる人はファシリテーションスキルを磨いておくととても役立つことは間違いありません。
そうなると、やはり会議を取りまとめる人が一人その役目を負えばいいような感じもします。
では、会議に参加している人は、ファシリテーションとは無関係なのでしょうか。
会議体のマネジメントをする機会がまだないメンバーにとって、ファシリテーションは縁遠いものに感じるかもしれません。しかし前述のように、これまでの慣習や「暗黙の了解」が通じない中で他者と協力しながら業務に当たっていくためには、「だれか一人の頑張り」だけでは負担が大きすぎます。
円滑に会議を進めるためには、お互いの意見を理解し合い、納得し合うための話し合いが自力でできること、いわば「メンバーとしてのファシリテーション能力」が求められます。本当の意味で会議を効果的にしたいのであれば、参加者自身のマインドがとても重要なのです。
ファシリテーションは特に会議の場で力を発揮することが多いのですが、本来は会議の場面だけで生きる能力ではありません。「会議」を「組織」や「チーム」に読み替えると、様々な立場の人たちと力を合わせて業務を行う構造であれば、日常あらゆる場面で応用されるスキルです。
そういった意味では、もはやファシリテーションに無関係でいられるビジネスパーソンはいないと言っても過言ではないのです。
ファシリテーションの難しさ
最近では、研修や関連書籍の増加によって、ファシリテーションを学ぶ機会はかなり増えたようにと感じます。すでに学習機会を持たれた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
ところが、学んだことを現場でやってみようとしても、思っていたような効果が上がらない、上手く実践できないという声もよく聞かれます。
前述の内容とも関連しますが、そこには「ファシリテーターの負担」の問題が潜んでいます。
会議の場面を例にとっても、会場の準備をし、議題を整え、議論の内容や方向を整理しながら参加者の同意を取り、決まったことを確認して次回の準備へ繋げるといった、会議中の立ち回りだけでなく、その前後も含めファシリテーターの対応事項は多岐に渡ります。
簡単に言えば、「一人だと、とても大変」なのです。
ファシリテーション研修を行った後に起こりやすい失敗が、「ファシリテーターを置いたのだから運営は全ておまかせ」といった、ファシリテーターが孤軍奮闘する状況が出来上がってしまうこと。
「ファシリテーターが仕切るらしい、お手並み拝見だな」と参加者が思ってしまうと、危険信号が灯ります。
当然、最初から全てが上手くいくわけではなく、失敗をすることもあるでしょう。その失敗をリカバーすることができないままずるずると会議は進み、参加者の間にぼんやりと「意味がないのでは?」という疑念が浮かび始めます。この空気、ファシリテーターは敏感に感じ取るもので、何とかしようとアクションを起こしていくのですが、残念ながら頑張れば頑張るほど空回り、参加者の心が離れていくという負の循環が生まれがちです。
ここには、「ファシリテーターが一人で問題を解決するのだろう」という参加者の誤解があります。ファシリテーターのサポートを受けて、実際に問題を解決するのはあくまで参加者たちです。この誤解をあらかじめ解いておかないと、孤軍奮闘するとても難しい場面が出来上がってしまいます。
こういった意味でも、参加者が「協力者」であることがどれだけ大切かがわかります。
ファシリテーターと協力体制を築くため、参加者にも基本的な考え方が伝わっていることがとても重要であると言えるのです。
機会を増やし、関係者を増やす
また、「ファシリテーションはどれだけ実践するかが上達の鍵を握る」とよく言われます。
これはどの研修や書籍でも強調される点で、私も実感を込めて賛同します。「言うとやるは大違い」とはまさにこのことで、一回研修を受けただけで全て上手くできるというのは、余程の才能がない限り難しいことです。初めのうちは準備や振り返りに時間をかけ、失敗を繰り返しながら上達するスキルであると私は断言します。
だからこそ、小さなこと、出来ることからでもとにかく実践する。そのためには、普段からファシリテーションに親しんでいただき、個人ではなく皆で取り組んでいく環境を作ることが重要です。
会議を効果的にしたい、皆で前向きに仕事を進めたいと思うのであれば、それを「誰かの仕事」にせず、「自分事」にする。
思ったよりも身近であると感じていただくことが、何より重要を考えています。
【今回のポイント】
ファシリテーションはリーダーだけのものではない
会議であれば「参加者の協力」をどれだけ引き出せるかがカギ
実践の場をつくるため、協力しながら皆でファシリテーションに親しむことが重要
- モチベーション・組織活性化
- コーチング・ファシリテーション
- チームビルディング
- コミュニケーション
- ロジカルシンキング・課題解決
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早稲田大学アカデミックソリューションは、早稲田大学の関連会社として、組織の課題に合わせたカリキュラム編成と実践力を養う体験型学習を通じて、複雑で困難な時代に対応する「しなやかな人材・チームづくり」を支援します。
リカレント教育チーム(リカレントキョウイクチーム) 株式会社早稲田大学アカデミックソリューション コンサルタント、早稲田大学紛争交渉研究所招聘研究員
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