【前編】HRBPとは?企業で戦略人事を始めるための事例紹介
昨今の激変するビジネス環境下では、企業が戦うために人的資本の重要性が高まり、それに応じて人事部への要望も強くなってきています。
具体的には、2020年9月に経済産業省より報告された人材版伊藤レポートにも記載されているように、変化する事業環境に対応した経営戦略と紐づく人事戦略を立案し実施することがより一層求められています。言い換えると「戦略人事」です。
その重要性が増す戦略人事ですが、「戦略人事が重要なことは理解しているが、何から始めたらよいのかわからない」と困っている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、戦略人事を実現するために最初にやるべきことと、実現するうえで有用なHRBPという役割について前後編で整理していきます。
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目次
■前半
ー戦略人事に苦手意識を持つ日本企業の人事部
ー戦略人事実現の一歩目は人材の定義
■後半
ー人材の定義に有効なHRBPとは
ーHRBPに必要なスキルとは
ーHRBPを導入する際の3つのポイント
ー戦略人事の実践に向けて
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戦略人事に苦手意識を持つ日本企業の人事部
企業の人事部におけるミッションには、経営戦略を実現するための人材を揃え、彼らが生産性高く働ける企業文化や風土を形成することが挙げられます。
ビジネス環境が激変する今、固定的な経営戦略を設けて生き残れる企業は多くなく、同時に経営戦略を実現するための人材要件も変化することが強いられています。
この環境下で人事部がミッションを実現するためには、常に経営戦略と紐づけて人事戦略を立案し人事施策を実行するという「戦略人事」の考え方がこれまで以上に重要です。
しかし、多くの日本企業の人事部は、自社で戦略人事を実現できていないと感じています。
ではそもそも、戦略人事とはどういうものなのか。
特に「何から手をつけていいかわからない」という方に向けて、戦略人事に必要なことから整理します。
戦略人事実現の一歩目は人材の定義
■戦略人事とは
戦略人事とは、「経営戦略に連動した人事戦略を立案し、人事施策を通じて実行すること」と一般的に表現されます。よりわかりやすくすると、「経営戦略を実現するための人材を採用・育成・配置しながら、各人材が成果を上げられる環境を整えること」です。
具体的には、
・経営戦略を実現するために必要な能力を持つ従業員を必要なだけ採用/育成する
・従業員の能力が十分に発揮される環境を作る
そのために、
・人事制度/運用(等級、評価、報酬、採用、異動 等)
・人事施策(サクセッション、スキル管理、研修の実施、サーベイ 等)
を立案し、実行すること、と表現できます。
■戦略人事を実行する流れ
< STEP1>
経営理念、経営戦略を実現するためには、どのような人材が必要か(人材要件)、そのための組織風土はどうあるべきか(組織要件)を決定する
< STEP2 >
人材要件、組織要件を基に、
・人材要件にあった人材をどれぐらいの数で、どのように育てていくべきか(戦略的要員計画)
・組織要件にあった風土を醸成するにはどうすればよいか(組織開発計画)
を計画する
< STEP3 >
STEP2で立てた計画を基に、後続の人事制度/運用の見直しや、人事施策を実施する
戦略人事の起点は経営戦略を実現するための人材要件/組織要件を決めるSTEP1であり、この部分で人事は戦略人事の担い手として主な役割を果たすべきといえます。
しかし、多くの企業でSTEP1、特に人材要件を定義しきれていないと感じます。
その理由として、STEP1を実施するためには、
・現場部門が置かれているビジネス環境(競合他社との競争や、市場の状態等)
・現場部門に課されている戦略目標
・現場部門が積み重ねている日々の業務と、価値創出との関係性
・戦略目標実現のために必要な業務像
・それらを実現するための人材要件(スキル、経験、知識など)
等のように現場に関する深い理解が要求され、難易度が非常に高いためと考えられます。
■人材要件の定義ができる状態とは
当然、経営戦略に紐づいた人材要件の定義ができない要因の1つには、上流にある経営戦略が不明瞭という要素もあるでしょう。
そこで、経営戦略とは切り離し、自社の人事部が現場に関する深い理解を持ち、経営戦略が明瞭になれば人材要件の定義ができる状態かを確認するための1つの手法を紹介します。これは、各部門のハイパフォーマーについて人事部が知っていることを棚卸しするという方法で、人事部で十分な棚卸ができる企業は、事業と現場への理解が高いレベルにあるといえるでしょう。
※KSAOsとは、Knowledge, Skills, Abilities and Other Characteristicsの略で、経済学会等で使われる「従業員が持つ能力」を指します。
たとえば、棚卸できる情報としては、上の表のように、
・そもそも誰がハイパフォーマーなのか(Who)
・何を持ってハイパフォーマーと定義するのか(What)
・どのようにしてハイパフォーマーになったのか
今後のハイパフォーマーの育成方法はどうするのか(How)
等の情報が挙げられます。
これらの情報が人事部ですぐに確認できる状態であれば、事業環境と現場部門の実態の理解が高いといえるでしょう。確認できるにもかかわらず戦略人事が実行できていないと感じる場合は、棚卸結果を部門責任者や経営層と照らし合わせることがおすすめです。
一方で、あまり棚卸ができなかった人事部も多いのではないでしょうか。
後編では、この棚卸があまりできていないという企業の人事部に向けて、人材の定義を進めていく方法をご紹介します。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- キャリア開発
WHI総研
入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。
奈良 和正(ナラ カズマサ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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