【後編】社内公募制度とは?従業員のキャリア自律と運用事例
社内公募とは、人材を補充したい部署が社内からの異動希望者を募るために社内募集をし、募集に対して従業員が応募できるようにするための制度の事を指します。
近年、従業員のキャリア自律を促進するための人事施策として改めて注目されています。大手企業の約半数が導入しているとされていますが、目的や運用方法は様々です。
前編では社内公募制度についてやフローについてお伝えしました。
後編ではメリットやデメリット、運用上の課題への対策事例とともに整理します。
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後編目次
ー社内公募制度のメリット
ー社内公募制度のデメリット
ー社内公募を運用する企業の運用方法と事例
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社内公募制度のメリット
では、社内公募制度にはどのようなメリットがあるのでしょうか。社内公募制度に直接関係する3つの立場でのメリットについて整理します。
A:公募をかける部署
B:公募に応募する従業員
C:人事部
A:公募をかける部署
他部署からの公募を実施する組織の立場では、外部採用より低コスト、低リスクでモチベーションと能力を兼ね備えた人材を補充ができることがメリットです。公募で人が集まらない場合もありますが、その場合は外部採用するしかない、と割り切ることもできるようになります。
B:公募に応募する従業員
応募する従業員の立場では、転職せずとも自身のキャリア希望に応じた仕事への挑戦機会を得られることで、自身のキャリア形成のための選択肢を多く持てることがメリットになります。
C:人事部
人事部の立場では、募集したい部署と異動したい従業員をマッチングさせ双方のメリットを満たせることがメリットです。2022年、リクルートでは社内公募を実施する125社に対して、各社が社内公募制度にどのような目的をおいているかの調査*をしています。組織の立場では「人材発掘・獲得」を、従業員の立場では「キャリア自律・形成支援」「動機づけ(モチベーション向上)」を意図していることがわかりました。
*参考:個人選択型HRMに関する実態調査2022 リクルート
社内公募制度のデメリット
では社内公募制度のデメリットはどのような点でしょうか。
社内公募制度の運用方法に応じてデメリットは大きく異なるため、公募制度の運用方法を下記の条件で仮決めして整理します。
・従業員の応募状況は、応募先の部署での選考に合格した場合のみ従業員の上司に通知
・従業員が所属している部署には、公募合格による異動の拒否権なし
この2つの条件は、従業員の自律的な行動について、極力阻害しないことを意図する企業で実施される社内公募制度でよく見受けられます。
上記条件で、下記の2つの立場でのデメリットについてご紹介します。
1.公募した従業員が所属している部署
2.公募に応募した従業員
1.公募に応募した従業員が所属している部署のデメリット
応募した従業員が所属している部署におけるデメリットは2点あります。
1点目は、特にキーマンになる人材が抜けることによる元部署の計画外の損失です。
一般的に部署ごとに次の期以降の昇進・昇格予定や、チーム編成、採用人数等の要員計画を立てています。そこに従業員の意志による異動が発生することは、部署にとって予期せぬ人材損失です。
常日頃から上司が部下のキャリア相談に向き合い、誰が公募に手を上げうるか把握できていれば、予期せぬ異動を減らすことはできます。しかし、その状態を満足に築けている上司部下関係はめずらしいでしょう。
また、公募制度で合格する人は現部門でも重宝されている人材であることが多く、予期せぬ異動は異動元の部署にとっては大きなデメリットになりえます。
2点目は、残るメンバーの業務負荷増とエンゲージメント低下のリスクです。
公募で異動する従業員が抜けた後の調整がない場合、他メンバーの業務負荷が高くなることや、残るメンバーのエンゲージメント低下による生産性の低下がデメリットになります。
2.公募に応募した従業員の立場でのデメリット
公募に応募した従業員の立場でのデメリットとしては、「安易な応募」によるキャリア機会の損失が考えられます。
特にこれまでの経験の延長にあるような、より高位ポストへの応募ではなく、異業種/異領域への応募では、現行業務からの退避のための「安易な応募」も発生しえます。
一概に何が安易な応募なのか定義することは難しいですが、たとえば、上司が部下を気遣って難しい仕事を振っている中、仕事内容が不満で別の部署の仕事に興味が出ることはよく聞く話です。
上司と部下のコミュニケーションが十分だと上記リスクは減りますが、そうでない場合は、安易な応募と異動が発生することもあります。今の部署でより適した仕事環境や立場を得られる可能性を考慮すると、応募した従業員にとってキャリア機会の損失になることもあるでしょう。
他にも下記の懸念が挙げられます。
・異動後にミスマッチであることが判明する懸念
・不合格時に従業員のモチベーション低下や転職意向が高まる懸念
しかし、本記事ではこれらを公募制度のデメリットとしては取り扱いません。異動後のミスマッチは公募ではない組織都合の異動でも十分起こりえること、社内公募制度がなければそもそもモチベーションが低く、転職意向も高くなっていたことも十分に考えられるためです。
社内公募を運用する企業の運用方法と事例
各企業が社内公募を運用する際は、状況に応じて様々な工夫が行われています。下記では、上述した「社内公募のフロー」ごとに、よく挙げられる課題と各社の対応事例をまとめました。
特に、各社が頭を悩ませるポイントは、応募数を増やすことと事前の要員計画との調整をスムーズにすることの両立です。実践するには下記の2つの要素が必要です。
・従業員が公募に応募する際は、上長の許可または意志表明を必須とする
・従業員のキャリア思考について上長と従業員の間で良好な意志共有ができている
当然ながら、上長が前もって部下の応募意志をわかっている方が、前もった調整が可能です。しかし、調整が困難な場合に、上長が部下の意志をないがしろにして異動意志を押さえると、事前調整は図れますが応募者数は減り、悪いケースでは転職活動をはじめるでしょう。
上長と従業員の間でキャリアに関する良好な意志共有ができている場合にはじめて、応募者数を増やすことと事前の要員計画の両立が可能です。
パーソル総合研究所による調査*では、公募を実施している企業の半数程度が、応募条件に「所属部門の上司の許可や推薦を得る必要がある」としており、各社対応がわかれています。
また、所属部門の上司の許可や推薦が必要な企業もあり、上長と部下でよいコミュニケーションがとれている企業とそうでない企業で、公募の運用実態が大きく異なることが想像されます。
*【一般社員層における異動配置に関する定量調査 パーソル2021】
目的と自社の文化を考慮して適切な社内公募制度の導入を
本記では、前後編で従業員のキャリア自律を促進するための制度として、社内公募制度に着目し情報を整理しました。
社内公募制度には様々なメリット、デメリット、推進するうえでの課題があります。
迅速な即戦力確保や従業員のキャリア自律度の向上を重視するのか、マネジメント層は部下のキャリア開発に前向きなのか否か、変えられるのか等、総合的に考えながら自社にあった制度設計をするのがよいでしょう。
- 経営戦略・経営管理
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WHI総研
入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。
奈良 和正(ナラ カズマサ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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