成功するエンゲージメント施策とは:意義と取組み方【後編】
エンゲージメントとは、従業員の仕事/組織への心理状態を意味する概念のひとつです。
エンゲージメントが高い状態にあることによって生産性の向上や離職の防止が期待できるとされ、どのような施策を通じて取り組むべきか悩む方も多いのではないでしょうか。
前編では下記をお伝えしました。
ーエンゲージメントとは
ーエンゲージメントが必要とされる背景
ーエンゲージメント向上に必要な取り組み
ーエンゲージメント向上によるビジネス上のメリット
後編では企業の成功事例を中心に注意点など実践的な内容をお伝えします。
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後編目次
ーエンゲージメントサーベイにおける企業の成功事例
ーエンゲージメント向上施策における注意点
ー社内の協力体制を整えて有意義な取り組みを
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エンゲージメントサーベイにおける企業の成功事例
自社の現状把握の手段となるエンゲージメントサーベイは、どのように活用されているのでしょうか。今回、2つの企業の成功事例を紹介します。
1.大手運輸業A社
運輸業を営む企業では、中期経営計画を刷新した年に初めてエンゲージメントサーベイを実施しました。これを通じて、1on1の導入とマネージャーへの360度評価を導入する方針を決めています。
■背景
エンゲージメントサーベイを実施した背景には、中期経営計画に関する従業員へのヒアリングから導き出された以下2つの仮説がありました。
<仮説A>
刷新された中期経営計画がどう実現されるのか多くの従業員がイメージできていない
<仮説B>
自身の役割が、経営計画にどう紐づいているのか多くの従業員がイメージできていない
■取り組み
そこで、同社にとってのエンゲージメントを「経営計画と自身の役割に腹落ちし、仕事を通じて気力が充実しており、自社での自身の成長と経営計画への寄与を実感している状態」と定義し、40問ほどのエンゲージメントサーベイを実施しました。
■結果
主要な分析結果として下記が抽出されました。
・中期経営計画そのものや自身の貢献イメージは、仮説A・B通りネガディブな分析結果。さらに、今後注力されるはずの部門の結果が他部署と比較して悪いことが判明。
・7割の上司が「部下の相談に乗っている」と回答したことに対し、7割の従業員が「上司に相談にのってもらっていない」と回答
■活用方法
経営会議での報告の結果、分析結果への対策を講じるとともに、定期的なエンゲージメントサーベイの実施が決定しました。
人事部は、上司と部下の会話回数を増やすこと、上司が部下をよりよく理解することを目的に、1on1を導入しました。また、それらの効果を上司に直接届けるための360度評価の導入も検討しています。
2.グローバル製造業B社
10年以上前から毎年グローバルにエンゲージメントサーベイを実施する同社では、エンゲージメント向上のサイクルが企業に定着しています。
一方、従業員から「実際にアンケートで回答した内容が改善されているか分からない」という声も多いことが課題でした。そこで、同社が運用の見直しを図った事例を紹介します。
■背景
主な要因は、エンゲージメントサーベイ実施から現場管理職へフィードバックをするリードタイムが長かったことが考えられます。
グローバル企業であり、地域・部門単位で少しずつ質問を変えていたことや、分析もそのリージョンの特性に合わせて実施していたためです。
■取り組み
フィードバックまでのリードタイム短縮が改善のカギだと判断し、以下の対策を実施しました。
・多少のリージョン特性の差に目をつむり、グローバルで統一したエンゲージメントサーベイにする
・複雑な分析をせず、エンゲージメントサーベイ後すぐに結果開示できるような分析に留めた
■結果
これらを実施することで、大幅にエンゲージメントサーベイの結果を現場へフィードバックするリードタイムを短縮できました。
■活用方法
管理職からは結果を早期に把握できることへ感謝の声があったのと同時に、人事と情報格差が縮まったことで、人事(またはHRBP)に求められる支援のハードルは上がったとのことです。
人事側で管理職へのフィードバック後の支援がどれほどできるかが、今後の従業員のエンゲージメントの上下に影響をおよぼすと考えられます。
エンゲージメント向上施策における注意点
ここまでエンゲージメント向上施策に対して取るべき流れや企業事例を見てきました。
しかし、人事部が主体的に実施したものの、現場の従業員や管理職が「本当に意味があるのかわからない」と非協力的になったり、施策を実施した人事部も施策に懐疑的になったりと、空回りしてしまう例がよく見受けられます。
この場合、下記の特徴があることが多いです。
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・人事部が現場部署とよく相談せずにエンゲージメントサーベイを始める
・従業員の声がまったくわからない、かつエンゲージメントサーベイも行わずにエンゲージメント向上施策を実施する
・エンゲージメントサーベイ結果のフィードバックが結果の伝達のみで終わる
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これらの失敗を防ぐには、エンゲージメントを向上させるには管理職による中心的かつ効果的な関与が必要で、人事部は管理職にできない領域を支援する役割である認識を持つことが重要です。
それぞれの理由を簡単に整理します。
1:エンゲージメント向上には管理職の効果的な関与が欠かせない理由
エンゲージメントの状態には、その従業員の背景、たとえば性格やキャリア志向、現在関わっている業務内容等が大きく影響しています。また多くの場合、従業員はチームに属して仕事をするため、チーム環境もエンゲージメントの上下に深くかかわる要素です。
管理職は、仕事のアサインメントや教育によって部下の業務内容やキャリアの調整が図れるとともに、チームの環境を改善していくこともできます。そのため、エンゲージメントを向上させるうえでは管理職の意識が重要といえます。
人事部としてエンゲージメント向上施策に取り組む際はまず、管理職に重要性を理解してもらう必要があります。
管理職の中には、そもそもエンゲージメントは高くて当たり前と思い込んでいたり、従業員の心理状態は仕事のパフォーマンスや成長に関係ないという思考をもつ方もいます。
そのため、自社はエンゲージメントについてどう考えるか、エンゲージメントにかかわる要素は管理職が改善できることを経営メッセージで示し、管理職の積極的関与を促すことが必要です。
2:人事は管理職にできない領域を支援すべき理由
前述の通りエンゲージメント向上の主役は管理職ですが、管理職だけでできるわけではありません。
理由の一部は下記の通りです。
・管理職は必ずしも部下の従業員の状態を把握しきれない
・管理職だけでは実施できない要素がある(人事制度の変更、福利厚生等)
・管理職にとってエンゲージメント向上への取り組みは通常業務の後回しになりやすい
そのため、下記の具体例のように人事部のサポートが必要です。
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客観情報の提示:エンゲージメントサーベイを実施し、他チームや会社平均との比較、過去推移との比較結果等を提示する
対策の協議:管理職のMBOフィードバック面談の回数を増やすよう進言したり、人事制度説明を改めて実施する
経営層の理解促進と支援を得る:経営層から直接、全社や管理職層向けにエンゲージメント向上を重要視することを伝えてもらう
管理職の活動の客観情報を取得する:管理職向けの360度評価を実施し、1on1やフィードバック面談等、各活動に対する客観データを収集する
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経営層・管理職・人事が三位一体となった対応こそが、従業員のエンゲージメント向上を促進するでしょう。
社内の協力体制を整えて有意義な取り組みを
ここまで、人事領域におけるエンゲージメントの基本から向上のために必要なステップ、具体事例まで紹介しました。
最近では、技術の進歩により無償で使えるツールを利用して、自社のエンゲージメントの測定も可能になりました。つまり、多くの企業で現状の把握と効果測定ができ、独断に偏らないエンゲージメント向上施策を計画しやすくなったといえます。
しかし、客観的なデータがあるからといって一足飛びにエンゲージメント向上に繋がるものではなく、経営層や管理職からの理解と積極的な関与が欠かせない要素となります。
生産性向上や離職防止といったビジネス上のメリットが期待できる、エンゲージメント向上施策ーー。注意点こそありますが、有意義な施策であることは明白だと考えます。本記事で取り上げた重要なポイントに注意を向けながら、向上へ取り組んでいただければ幸いです。
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WHI総研
入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。
奈良 和正(ナラ カズマサ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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