中国における日系企業の現地化に向けた取り組み
「いま、百数名の工場の中、日本人は私一人しかいない」、
「うちは日系企業だが、こちらの拠点は日本人がいないよ」、
「数千人の企業規模だが、人事は日本人一人、しかも、来月から長期駐在から短期駐在になる」、・・・
ここ数年、中国上海及び周辺地域の日系企業を訪れると、上記のような会話をよく聞きます。その背景にあるキーワードは「現地化」です。筆者は2011年から日系企業の駐在員として中国で三年間駐在していました。その当時からすでに「現地化」を目指して、各日系企業は従来型の日本本社主導のマネジメントから現地法人に任せるマネジメントに移行し始めていましたが、直近の何年間はさらにその動きに拍車がかかっています。
その動きの中、目立っているのは人材構造の変化です。中国上海市の例をあげますと、日系企業数(拠点数)総数は22,355社、前年比増減率は+0.7%、年間158社が増えています(2018年)。それに対して、民間企業関係者数は48,932人で、前年比増減率は-2.4%、年間1,158人が減少しています(外務省,2016,2017)。しかも、このような傾向は、直近の二、三年続いています。つまり、企業数は増えるものの、年間で千名以上の日本人勤務者及びその関係者が減っていることが数字から読み取れます。
その一方、現地日系企業の求人数はこの2、3ヶ月は前年同月比15%~20%増加しています(株式会社リクルート(中国),2018)。
「人の取り合いはすごい」、訪問した日系企業は共通して採用に頭を抱えている様子でした。
日系企業のみならず、中国本土企業の人材の取り合いも激しい現状です。中国は人材を重視し、ヒューマンキャピタル(中国語で「人力資本」と呼ばれています)の意識はかなり強いです。人材を、経済発展を維持するための「血液」と例えています。今年三月の報道で、企業間の人材取り合い現象は「吸血大戦」と呼ばれるほどの状況です。
中智上海の日系企業アンケート調査(2018)によりますと、在中国日系企業の経営上の課題の第一位は「マーケティング開発」、第二位は「人材の獲得と育成」となっており、「社員のモチベーションアップ」や「コスト削減」を上回っています。
同じくJETROの日系企業実態調査報告書(2018)によると、中国各地の日系企業は、経営上の課題について、「人材(一般ワーカー)の採用難」、「人材(中間管理職)の採用難」、「人材(技術者)の採用難」とあらゆるレベルにおいて、「採用難」が上位に挙げられています。
現地化の一つの要である現地従業員採用の厳しさが上記の数字から読み取れます。
それと同時に、採用のみならず、定着率の向上も大きな課題とみられます。日本の平均離職率14.9%(2017年)と比べ、中国の離職率は約20%と言われ、さらに、上海市の中間管理職離職率は28%以上に及びます。
そこで、どんな人材を取るか、その人材はどこに配置するか、現地化に向け幹部候補はだれにするか、さらに、いかに効率よく人材を獲得、育成、定着させるかは中国における日系企業が直面している重要課題になります。
最近は、日本で活用されているアセスメントツールや研修プログラム等を、中国のニーズや特性に合わせて現地化を進め、日系企業で活用する動きも出始めています。現地での活用の取組みについては、また今後お伝えできればと思います。
参考資料・ウェブサイト:
・日本貿易振興機構(ジェトロ)(2018)2017年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査―中国編―
・外務省(2017)海外在留邦人数調査統計、平成30年(2018年)要約版(平成29年10月1日現在)
・外務省(2016)海外在留邦人数調査統計、平成29年(2017年)要約版(平成28年10月1日現在)
・リクルート株式会社(2018年5月)中国における日系企業の求人動向レポート
https://www.recruit.co.jp/newsroom/2018/0629_18185.html
- 安全衛生・メンタルヘルス
公認心理師/臨床心理士/キャリアコンサルタント
【専門領域】産業精神保健、復職支援、海外赴任者支援、在日中国人メンタルヘルス支援
東京大学心理教育相談室、日本家族カウンセリング協会での臨床経験を経て、東京大学学生相談所に勤務。2011年よりEAP事業会社にて、中国におけるメンタルヘルス事業の立上げ、運用体制の構築及びEAP業務全般に従事。現在は休職者の職場復帰を支援。
張 磊(チョウ ライ) コラボレータ―
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