中小企業の経営者のための人事戦略入門【第1回】
本稿は株式会社みのり経営研究所が発表した人事制度に関する最初の記事で、その後小冊子『目からうろこの人事戦略』として出版した内容をこの場を借りて連載させていただくものです。2006年1月の『目からうろこの人事戦略』の出版から、既に17年が経ちました。その間、様々な方に読んでいただきお褒めの言葉を頂いた内容です。特に大手の企業に勤められ、その後中小規模の会社に移られ経営者として力をふるう機会を与えられた方々からは、役に立ったとの感想を数多く寄せられております。
長い時間が経過しましたので時宜に即して手を加え、ここに改めてご紹介したいと考えています。基本的な内容は変わっていません。それがみのり経営研究所として訴えてきた内容の一貫性と妥当性を示すものだとも考えています。
「中小企業の経営者のための人事戦略入門」
【第1回】大会社のマネをしてはならない
もしあなたが中小企業の社長で、その会社を成長させ、さらに良い会社にしたいと考えているなら、大会社のマネをしてはならない。多くの大会社といわれる企業は近代的な経営に基づく企業とは言えません。江戸時代の身分制の思想を色濃く残した共同体ともいえる組織が多く見受けられます。内部の組織・制度は、経営トップも含めた共同体の論理で動く構成員処遇のための仕組みに過ぎず、事業遂行のために設計されたものでない場合が多いのです。
多くの大企業では人事制度も事業戦略などとは無関係に構築され運営されています。新卒一括採用で入社させた大量の社員を、長期間かけて選別・篩い分けていくのが最大のテーマなのです。そんな制度を真似ていたら、中小企業はあっという間につぶれてしまいます。
中小企業は一人一人が戦力です。長期的な選別などと贅沢なことなど言っていられません。社員が優秀だとか優秀でないなどというのは、大会社でよく見られる議論です。じっくりと問い詰めていくと優秀か優秀でないかの判断基準が極めて曖昧なことに気が付きます。中小企業ではそこに居る社員一人一人が財産であり、力の出せない社員がいればその人たちを戦力化し業績向上につなげるのが経営者の責任です。
人事の仕事はその意味で経営そのものと言えます。大会社のように人事部に任せる仕事ではありません。一人一人の社員に、経営者としての方針を伝え、理解してもらい、結果を出すために最大限の力を出してもらわなければ経営は成り立ちません。そのための施策としての人事制度は人事部に任せ切りで済む問題ではないのです。
1990年代にF社の成果主義人事制度導入に関する記事が出て、世間を賑わせました。成果主義を標榜して1998年に導入した人事制度が結局不発に終わったのです。新制度導入にもかかわらず2001/02年業績は1000億円を超える赤字で、2万人に及ぶリストラに踏み切り、2002年に社長は会長職に。まだ業績の本格回復は無かったが制度はそのまま継続、それを決断した経営陣も人事部もそのままの体制が継続していたのです。余裕のある大企業ならではの制度改革です。
何が問題なのでしょうか?どうやれば経営に直結した人事制度が出来るのでしょうか?これからこのコラムで様々な制度をどう設計・運営していくかを紹介して行きたいと考えています。
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秋山 健一郎(アキヤマ ケンイチロウ) 株式会社みのり経営研究所 代表取締役
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