第119回 企画業務型裁量労働制の法改正
前回説明した専門業務型裁量労働制の改正と同様に、企画業務型裁量労働制のルールも2024年4月1日より改正されます。
この改正によって、4月1日以降同制度を利用する場合は、改正後のルールに適合した労使委員会での決議等を経なければなりません。
今回は、企画業務型裁量労働制の法改正と割増賃金計算の注意点を見ていきます。
<企画業務型裁量労働制とは>
経済社会の構造変化や労働者の就業意識の変化等が進む中、自らの知識、技術や創造的な能力をいかし、仕事の進め方や時間配分に関し主体性をもって働きたいという労働者が存在する状況を踏まえて2000年(平成12年)に施行されたのが「企画業務型裁量労働制」です。
対象となる労働者は、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査、分析を行っている方です。
この制度を導入すると、対象者は業務の遂行手段や時間配分を自分自身の裁量で決定し、使用者(会社)から具体的な指示を受けずに仕事をすることが可能になります。
<企画業務型裁量労働制を導入できる企業とは>
企画業務型裁量労働制は、「対象業務」が存在する会社で導入することができます。ただし、すべての事業所が対象になっているわけではなく、次のいずれかに該当する事業所が導入することが可能です。
1)当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
2)本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場
したがって、個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理のみを行っている事業場や、本社・本店あるいは支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場では、企画業務型裁量労働制を導入することはできません。
<2024年4月以降の改正について>
2024年4月1日以降、企画業務型裁量労働制を利用するためには、労使委員会の運営規程と決議に新項目を追加し、労働基準監督署に決議届の届出を行う必要があります。
運営規程に新たに追加する項目
1)労使委員会に賃金・評価制度を説明する
対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について、使用者から労使委員会に対して説明することを労使委員会の運営規程に定める必要があります。
2)労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う
制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定める必要があります。
3)労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する
労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定める必要があります。
決議に新たに追加する項目
1)本人同意を得た後の同意の撤回の手続きを定める
同意の撤回の手続きと、同意とその撤回に関する記録を保存することを労使委員会で決議しなければなりません。
2)労使委員会に賃金・評価制度を説明する
対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを労使委員会で決議しなければなりません。
定期報告の頻度
所轄労働基準監督署への定期報告の頻度が、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6か月以内に1回、 その後1年以内ごとに1回に変更になります。
また、「同意及び同意の撤回の状況」も報告することが追加されました。
<割増賃金の計算方法>
企画業務型裁量労働制を導入したとしても休憩・深夜業・休日に関する規程の適用は排除されないため、深夜や法定休日について労働した場合は、当然に割増賃金の支払いをする必要があります。
企画業務型裁量労働制を導入するには、労使委員会の議決で1日あたりの労働時間を定めます。たとえば、1日あたりの労働時間を8時間と設定したとすると、実際の労働時間が8時間より短くても長くても、その日に労働した時間は8時間だったとみなされます。
そのため、1日あたりの労働時間を8時間以下に設定しているのであれば時間外労働に関する割増賃金の支払いをする必要はありません。
注意しなければならないのは、1日の労働時間ではなく週の労働時間です。たとえば、1日の労働時間を8時間と設定している会社で、月曜日から金曜日まで出勤して、さらに土曜日も出勤してしまうとこの日も8時間労働としたとみなされるため、週の労働時間が48時間になります。
この場合、企画業務型裁量労働制を適用していたとしても、週40時間を超過した8時間については時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。
今回は、企画業務型裁量労働制について説明しました。今回変更された項目は、2024年4月1日以降に企画業務型裁量労働制を適用するために必要な内容です。
すでに導入している会社でも、2024年3月31日までに改めて追加された項目を決議をする必要があります。手続きに漏れがあると、2024年4月1日以降は企画業務型裁量労働制の対象労働者として認められなくなりますので、事前にしっかりと準備するようにしましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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