第115回 社会保険の扶養家族の年収の壁
2023年9月24日に、年収130万円を超えたとしても条件を満たせば一定期間は扶養のままでいられる制度がスタートするという報道があり、9月27日には厚生労働省から「年収の壁・支援強化パッケージ」が発表されました。
今回の措置の内容は、これまでの制度を大きく変えるものではなく、特例の措置を積み上げることにより、年収の壁を緩和しようとするものです。特例措置の内容を説明する前に、今回はそもそものベースとなる社会保険の扶養家族の要件をみていきたいと思います。
<社会保険の扶養になる要件について>
被扶養者になれる方は、日本国内に住所があり、被保険者により主として生計を維持されていて、かつ収入要件を満たした一定範囲の親族です。
1)収入要件
収入要件は、被扶養者の年間収入が原則として130万円未満である必要があります。例外として、60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満が対象です。
原則の収入要件が130万円未満なため、いわゆる「130万円の壁」と呼ばれています。
また、被扶養者の年間収入に加えて、同居の場合は、収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満であること、別居の場合は、収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であることが求められます。
たとえば、扶養者の月収が20万円だった場合は、被扶養者の月収は10万円未満であることが条件となります。
年間収入の考え方は、過去分を含めた年収のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。
年間収入で要件が示されているため勘違いする方もいるようですが、今後受け取れるであろう月収に換算して考えた方が判りやすいです。月収に換算した金額の目安は、月額108,333円以下になります。
被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれます。
退職により被扶養者になろうとする方が失業保険の給付を受けられる場合、基本手当(失業保険)の待機期間中は給付がありませんので、他に収入がなければ、収入要件を満たして被扶養者として認定されます。ただし、日額3,612円以上の基本手当の支給が始まった場合は扶養から抜ける必要があり、基本手当の受給が終わった段階で改めて扶養家族として要件を満たしているかを判断します。
2)被扶養者の範囲
次に、被扶養者の範囲についてみていきましょう。当然ですが、扶養になることができる範囲は定められています。その範囲の中でも、「被保険者との同居していなくてもよい者」と「被保険者との同居が必要である者」の2種類があります。
ア.被保険者と同居している必要がない者
・配偶者
・子、孫および兄弟姉妹
・父母、祖父母などの直系尊属
イ.被保険者と同居していることが必要な者
・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)
夫婦が双方とも被保険者の共働きの家庭の場合は、被扶養者の人数にかかわらず、年間収入の多い方の被扶養者として認定が行われることになっています。
<非正規社員の社会保険加入について>
2022年10月から、非正規社員の社会保険の適用が拡大されています。次の要件を満たした非正規社員は「短時間労働者」として健康保険と厚生年金保険の被保険者になります。
これまでは、年間収入が130万円未満であれば、健康保険や厚生年金保険の加入義務がありませんでしたが、以下の要件に該当する方は、年間収入130万円未満であっても社会保険に加入することになります。
1)従業員数101人以上の企業であること
2)週の所定労働時間が20時間以上あること
3)2か月を超える雇用の見込みがあること
4)賃金の月額が88千円以上であること
5)学生でないこと
<2024年10月からの非正規社員の社会保険加入について>
さらに法律改正に伴い、2024年10月から対象となる企業の規模が引き下げられ、非正規社員の社会保険の適用の範囲が拡大されることになります。
改正後の要件については、以下の通りとなります。
1)従業員数51人以上の企業であること
2)週の所定労働時間が20時間以上あること
3)2か月を超える雇用の見込みがあること
4)賃金の月額が88千円以上であること
5)学生でないこと
こちらは、収入の目安が88,000円×12か月=1,056,000円であることから、「106万円の壁」と言われています。
社会保険の被扶養者は、社会保険料の負担がありません。また、扶養家族がいることにより被保険者の保険料が増えることもありません。
これまで扶養家族だった方が新たに被保険者として社会保険に加入すると、保険料の負担が発生します。特に配偶者の場合は、国民年金第3号被保険者として年金保険料の負担がなかったことも加味すると、社会保険に加入した段階で手取り収入が一時的に減額になります。
つまり、「130万円の壁」「106万円の壁」を超えた後、社会保険の負担をカバーできるくらいの収入が見込めなければ、壁を超えないように勤務を調整するケースが出てくるわけです。
厚労省が発表した今回の措置は、この「収入の壁」を緩和しようとするものです。次回は、新たに設けられた措置の内容を詳しくみていきたいと思います。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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