第74回 在宅勤務時の労働時間と割増賃金
新型コロナウィルスの感染拡大を防止するためには、人と人との接触を最低7割、極力8割削減する必要があるとされています。そのため、国はできる限り在宅勤務を行うように企業に要請をしています。
以前から、在宅勤務等のテレワークを行ってきた企業にとっては問題なく対応できると思いますが、これまでテレワークを行ってこなかった企業にとってはルールの決定や勤怠の管理など大きな負担となります。
今回は、在宅勤務をした場合の労働時間と割増賃金の考え方について見ていきたいと思います。
<テレワークとは?>
テレワークは、パソコンやタブレットなどのITを活用した、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をいいます。テレワークは働く場所によって、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務の3つに分類されます。
・在宅勤務:オフィスに出勤せず自宅で仕事を行う形態
・モバイルワーク:顧客先、移動中、出張先のホテル、新幹線等の車内、喫茶店などで仕事を行う形態
・サテライトオフィス勤務:自社専用のサテライトオフィスや共同利用型のテレワークセンターで仕事を行う形態
新型コロナウィルスの感染拡大を防止するためには在宅勤務が有効だとは思いますが、平常時のテレワークでは、すべての労働日を自宅で働く必要はありません。また、すべての日をテレワークにするのではなく、週や月に数回でも可能です。従業員が置かれている状況や業務内容などにより、柔軟に制度設計をすることができます。
一般的に、テレワークには、次のようなメリットがあります。
従業員のメリット
・育児や介護、病気の治療などをしながら働くことができる
・通勤時間の削減などにより自由に使える時間が増える
・通勤が難しい高齢者や障害者の就業機会が増える
・電話などで中断されず、業務に集中することができる
企業のメリット
・柔軟な働き方が可能になることによって、優秀な人材確保ができる
・オフィススペースに必要な経費や通勤手当を削減できる
・災害時に事業を継続することができる
ここで挙げたメリットは、あくまでも平常時にテレワークを行った場合に享受できるものです。外出自粛要請や出勤自粛要請が出ている現状では、在宅勤務が続くことでむしろさまざまなストレスが生じると指摘されています。
集中力の低下や煮詰まったときなどに、適度なリフレッシュをするなどの対応が必要になります。
<在宅勤務を導入する際の注意点>
在宅勤務を行う際には、以下の点を事前に確認し、必要に応じて決めておく必要があります。
・人事異動として在宅勤務を命じることが就業規則上可能になっているか
・在宅勤務者専用の労働時間を定める場合は、その労働時間に関するルール
・在宅勤務が続く場合の通勤手当の計算方法に関するルール
・在宅勤務時にかかった費用(通信料等)の支払いに関するルール
感染拡大防止のために急遽在宅勤務を取り入れた企業では、事前にルールを定める時間的余裕はなかったと思います。労使の認識が違ったままだと、労務トラブルにつながることも考えられます。今からでも遅くないので、問題となっている箇所を洗い出し、ルールを決めた方が良いでしょう。
<在宅勤務の労働時間について>
在宅勤務の場合でも、労働時間を算定できる場合は、1日8時間、週40時間の通常の労働時間制が適用されます。そのため、法定労働時間を超えた分については、割増賃金の支払いが必要です。
また、条件が合えば変形労働時間制や裁量労働制の導入も可能です。その中で、在宅勤務において導入されることが多い制度は、「事業場外みなし労働時間制」です。ただし、在宅勤務を行なっているすべての企業で必ず適用できるわけではありません。
「事業場外みなし労働時間制」を適用するには、次の3つの条件を満たすことが必要です。
1)当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
2)当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
3)当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。
(京労発基第35号平成16年2月5日)
<事業場外みなし労働時間での労働時間の考え方>
「事業場外みなし労働時間制」を導入する場合は、事業場外労働をした日の労働時間の算定方法を決める必要があります。算定方法には、次の3つのパターンがあります。
1)所定労働時間
2)所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間
3)労使協定で定めた時間
なお、上記で算定する時間は、「事業場外で労働した時間」です。1日中在宅勤務をした場合は、この時間が「その日の労働時間」になります。
時差出勤などで、お昼まで自宅で勤務し、午後は出社するような場合はどうでしょうか。この場合は、「労働時間の一部を事業場内で労働した」ことになりますので、その時間については別途把握しなければならず、「みなす」ことはできません。つまり、労働時間の一部を事業場内で労働した日は、「社内での実労働時間+事業場外労働時間制により算定されたみなし時間」がその日の労働時間になります。
<割増賃金の計算方法>
事業場外みなし労働時間制を導入したとしても、割増賃金の支払いがすべて免除されるわけではありません。事業場外労働時間制はあくまでもその日の労働時間を決定するための方法です。
事業場外みなし労働時間制を適用していてもそうでなくても、労働時間や勤務する時間帯によっては、通常の割増賃金の支払いをする必要があります。事業場外労働を適用している場合に通常の計算と違う点は、次のような点です。
1)時間外労働
上の「2)その業務の遂行に通常必要とされる時間」や「3)労使協定で定めた時間」でみなした労働時間がそもそも1日8時間を超える場合には、時間外労働として割増賃金を支払う必要があります。
また、労働時間の一部を事業場内で労働した日に「社内での実労働時間+事業場外労働時間制により算定されたみなし時間」が1日8時間を超える場合も、割増賃金を支払う必要があります。これは、上の「1)所定労働時間」でみなしている場合でも同じです。
2)休日労働
事業場外みなし労働時間制であったとしても、休日労働であることは変わりありません。休日労働をした日は、上でみなした労働時間に応じて、時間外労働や休日労働の割増賃金を支払う必要があります。
3)深夜労働
事業場外みなし労働時間制であっても、午後10時から午前5時までの間に実際に労働したときは、その時間については深夜の割増賃金を支払う必要があります。
これは、「1)所定労働時間」でみなしている場合でも、時間の長さをみなすだけに過ぎず、定時の9時~18時に勤務したことになるわけではないからです。
新型コロナウィルスの影響によって、これまで進まなかったテレワークの導入が進んでいます。事前の準備がまったくできないまま、在宅勤務をとりあえずスタートさせて、後追いでルール策定や給与計算の対応をしていく企業も多くあると思います。
例えば、在宅勤務であったとしても深夜の時間帯の労働を禁じたり、休日労働は事前の許可制にするなど、労働基準法を考慮したルールを策定することが望まれます。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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