第72回 休業手当の計算方法
ここ最近、連日のように新型コロナウイルスの感染や自宅待機などが報道されています。
これから、これらの休業や自宅待機させた日の給与支払いの時期がやってくると思います。
今回は、感染症による休業や自宅待機の場合の給与の計算方法について説明します。
<休業手当の支給対象になる休業とは>
労働基準法第26条で「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」とされています。
このルールは労働者であればどのような契約形態の方でも適用されます。「正社員は適用されるが、パートタイマーやアルバイトは適用されない」といったことはありません。
使用者の責めに帰すべき事由による休業か否かについては、通達が出されており、次のいずれかに該当するような場合は、休業手当の支給対象となります。
1)親工場の経営難から、下請工場が資材、資金の獲得ができずに休業した場合
2)原料の不足、事業設備の欠陥により休業した場合等
使用者が労働者に対して休業手当を支払わなければならないケースは、使用者側に起因する経営、管理上の障害も含まれるという判例もでています。想定しているよりも、「使用者の責めに帰すべき事由と判断される範囲が広い」と認識をしておいた方が良いでしょう。
<従業員を休ませる場合の措置について>
従業員が新型コロナウイルスに感染して休業する場合と、感染の疑いがあるために休業する場合とでは、対応が変わってきます。
それぞれの対応方法について、みていきます。
1)従業員が感染した場合
新型コロナウィルスに感染したことが認められ、都道府県知事が行う就業制限によって従業員が休業する場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しません。たとえば、インフルエンザの感染と同じと考えれば判りやすいでしょう。したがって、会社が休業手当を支払う必要はありません。
このような場合の休業は、健康保険等の被用者保険に加入している場合は傷病手当金を受給することができます。そのため、給与計算においては、欠勤している間は、給与を控除することになります。
もちろん、本人が有給休暇を申請すれば、有給休暇として取り扱います。なお、この場合は傷病手当金の受給をすることはできません。
2)感染が疑われる従業員を休業させる場合
感染の疑いがある従業員を休業させる場合は、「使用者の責めに帰すべき事由」といえるか悩ましいところですが、休業手当の支払の義務が生じる可能性があります。たとえば、濃厚接触の疑いがある従業員を休ませたり、会社独自の基準を設けて従業員を休ませるといった場合などです。仮に休業手当を支払う場合は、平均賃金の100分の60以上の金額を支給しなければなりません。
なお、厚生労働省の基準に合致しており、「帰国者・接触者相談センター」に問い合わせた結果、感染の疑いがあると判断されて、指示や検査を待っている場合については、休業手当の支払義務は生じないとされています。これを参考に、それぞれの会社で支給の是非を検討することになります。
この厚生労働省の基準には、次のようなケースが該当します。
・風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合
・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合
・高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方で、上の状態が2日程度続く場合
<休業手当の計算方法>
休業手当の金額は、原則として
過去3ヶ月間の賃金総額(通勤費や残業代を含みます)÷その間の総暦日数×60%
で計算します。
賃金の締切日がある場合は、直前の締切日から過去3ヶ月で計算します。月給の場合と、時給や日給の場合は計算方法が違います。基本給の60%を支給すれば良いわけではありませんので、ご注意ください。
それでは、2月20日から3月15日まで休業(所定日数16日)した場合の計算例を見てみましょう。(末日締め切りの翌月25日支給)
月給の場合
・11月分(12/25支給)の給与額: 240,000円(暦日数30日)
・12月分( 1/25支給)の給与額: 250,000円(暦日数31日)
・1月分( 2/25支給)の給与額: 260,000円(暦日数31日)
3ヶ月合計: 750,000円(暦日数92日)
平均賃金の計算方法
3ヶ月合計給与額(750,000円)÷3ヶ月暦日合計(92日)=8,152.17円
(小数点第3位以下切捨)
休業手当の計算方法
平均賃金(8,152.17円)×60%×休業日数(16日)=78,261円(円未満四捨五入)
*給与額は、残業代や通勤費を含めた総支給額になります。
*休業日数に公休日は含ません。
*休業が継続している場合は、3月分を再計算するのではなく、2月分と同じ平均賃金を使用します。
時給や日給の場合
日給や時給の場合の計算方法は、月給の計算方法と異なりますので注意が必要です。
・11月分の給与額: 70,000円(暦日数30日 労働日数 9日)
・12月分の給与額: 50,000円(暦日数31日 労働日数 7日)
・ 1月分の給与額: 80,000円(暦日数31日 労働日数10日)
3ヶ月合計:200,000円(暦日数92日 労働日数26日))
平均賃金の計算方法
【A】まずは、月給者と同様の方法で平均賃金の計算を行います。
3ヶ月合計給与額(200,000円)÷3ヶ月暦日合計(92日)=2173.91円
(小数点第3位以下切捨)
【B】次に、実際の労働日数を分母にして計算を行います。
3ヶ月合計給与額(200,000円)÷3ヶ月労働日数合計(26日)×60%=4615.38円
(小数点第3位以下切捨)
上の【A】と【B】を比較し、高い方である【B】が平均賃金になります。
休業手当の計算方法(2月20日から3月15日までに出勤予定が6日だった場合)
平均賃金(4615.38円)×60%×休業日数(6日)=16,615円(円未満四捨五入)
特殊なケースの場合
1)平均賃金は、過去3ヶ月分の給与金額の平均をとって計算を行います。入社して3ヶ月が経過していない場合でも、直前の賃金締切日から起算して平均賃金の計算を行います。(上の例で12月5日入社であれば、12月分と1月分の2ヶ月弱の給与と日数で計算します。)
2)入社して数日しか経過していない場合は、直前の賃金締切日がありません。
この場合は、入社日から休業前日までの期間で平均賃金を計算します。
休業手当は、労働基準法上の賃金に該当します。そのため、雇用保険料、社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)、所得税などの控除の対象となりますし、賃金支払いの5原則も適用されます。
上で説明した計算方法は法令上の計算であり、この金額以上を支給するというのが休業手当の法律です。したがって、この金額より会社が多く(たとえば満額)支給するのは何ら問題はありません。
しかし、法令に基づき計算した金額より少ないのは、賃金未払いの法違反になります。正しい計算方法を理解した上で、休業手当を支給するようにしましょう。
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経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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