第62回 労働保険における賃金とは
前回は、労働基準法における賃金の定義について説明しました。今回は、労働保険料の計算の対象になる賃金について説明します。
前回とあわせて確認をしていただければ、違いが判るかと思います。
<労災保険法と雇用保険法について>
「労災保険料」と「雇用保険料」をあわせて「労働保険料」と呼びます。労働保険における賃金の定義は、次のように定められています。
【賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。】
お気づきの方も多いと思いますが、前回のコラムで紹介をした労働基準法上の賃金の定義とほぼ同様の定義になります。しかし、取り扱いが微妙に異なるものもあります。
たとえば、会社が従業員に対して結婚祝金や見舞金等を支給する場合、就業規則や給与規程などで支給要件が明確に定められていれば、労働基準法上は賃金に該当することは前回説明をしました。しかし、労働保険では、たとえ支給要件が明確に定められていたとしても、これらは賃金には該当しません。
労働保険の賃金に該当しない項目は、給与計算時には「雇用保険料」の計算には含めませんのでご注意ください。
労働保険における賃金の具体例は、以下の通りです。
<賃金総額に算入するもの>
○基本給・固定給等基本賃金
○超過勤務手当・深夜手当・休日出勤手当等
○扶養手当・子供手当・家族手当等
○宿、日直手当
○役職手当・管理職手当等
○地域手当
○住宅手当
○教育手当
○単身赴任手当
○技能手当
○特殊作業手当
○奨励手当
○物価手当
○調整手当
○賞与
○通勤手当
○休業手当
○いわゆる前払い退職金(労働者が在職中に、退職金相当額の全部又は一部を給与や賞与に上乗せするなど前払いされるもの)
○定期券・回数券等
○創立記念日等の祝金(恩恵的なものでなく、かつ、全労働者又は相当多数に支給される場合)
○チップ(奉仕料の配分として事業主から受けるもの)
○雇用保険料その他社会保険料(労働者の負担分を事業主が負担する場合)
○住居の利益(社宅等の貸与を行っている場合のうち貸与を受けない者に対し均衡上住宅手当を支給する場合)
<賃金総額に算入しないもの>
○休業補償費
○退職金(退職を事由として支払われるものであって、退職時に支払われるもの又は事業主の都合等により退職前に一時金として支払われるもの)
○結婚祝金
○死亡弔慰金
○災害見舞金
○増資記念品代
○私傷病見舞金
○解雇予告手当(労働基準法第20条の規定に基づくもの)
○年功慰労金
○出張旅費・宿泊費等(実費弁償的なもの)
○制服
○会社が全額負担する生命保険の掛金
○財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等(労働者が行う財産形成貯蓄を奨励援助するため事業主が労働者に対して支払う一定の率又は額の奨励金等)
○住居の利益(一部の社員に社宅等の貸与を行っているが、他の者に均衡給与が支給されない場合)
愛媛労働局ホームページより作成
この表によると、財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等は、賃金総額に含める必要はありません。しかし、実務上では給与計算ソフトの設定が誤っていたため、この奨励金も含めて雇用保険料と労働保険料を算出してしまっているケースが過去にありました。設定が正しくされているかどうか、定期的にチェックを行った方がよいでしょう。
給与計算業務には直接関係がありませんが、労働保険料の申告の時期がそろそろ近づいてきました。労働保険料の一年度は「4月1日~翌年3月31日」ですが、これは支払われた月で見るのではありません。
期間中に支払が確定した賃金は、実際にまだ支払われていなかったとしても労働保険の申告の際は算入する必要があります。つまり、賃金の締切日が「4月1日~翌年3月31日」までのものを一年度と見るわけです。
給与を翌月に支払っている会社は注意しましょう。
次回は、社会保険における報酬の定義についてみていきたいと思います。
- 法改正対策・助成金
- 労務・賃金
- 福利厚生
- 人事考課・目標管理
経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
川島孝一(カワシマコウイチ) 人事給与アウトソーシングS-PAYCIAL担当顧問
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所在地 | 港区 |