「研修のおかげで成果が出た」と言ってもらうことの難しさ
前回のコラムでは、“成果”を出すために必要な内容が研修から漏れる場合があることについて、3つの例を紹介しました。今回は、研修を実施したことで、その受講者が“成果”を出して、受講者やその上司をはじめとする関係者に喜んでもらうことについて、考えてみたいと思います。ここで言う“成果”とは、研修による学習効果ではなく、顧客への提供価値や収益の向上につながる効果を指します。
受講者やその関係者から「研修のおかげで成果が出た」と言ってもらうことは、実際にはとても難しいことです。なぜだかわかりますか?その理由を考えながら読み進めていただければと思います。
受講者が研修を受けてから成果を出すまでのプロセス
例えば、私が課題解決の研修の講師を担当する場合、受講者が次のようなプロセスをたどることを常に意識しています。( )内は各プロセスのアウトプットです。
(1) 研修の内容が自分にとって何か役に立ちそうだと思う (期待感)
(2)研修で学んだ手法を使ってみたいテーマが思い浮かぶ (自らの学習目的)
(3)テーマへの手法の活用方法が具体的になる (具体的な活用方法)
(4)具体化した活用方法を実行しようと思う (実行意欲)
(5)実行によって手法の効果を実感し、その手法を自分のものにする (成果と習得)
受講者20名の研修で、最後の(5)までたどり着く人は何人か?
あくまで私の限られた経験ですが、特定の階層に課題解決の研修を実施した場合、最後の(5)にたどり着く人数は3~4名ではないかと思います。全体を100%とした場合に、各プロセスに該当する人の割合は次のようなイメージだからです。
(1)90%、(2)70%、(3)50%、(4)30~40%、(5)15~20%
研修の導入では、(1)(2)の割合を上げるように力を入れます。ここは“つかみ”であり、とても大切です。そして、受講者がどのようなテーマを思い浮かべているのかを探りつつ、具体的な例を紹介しながら手法の活用方法を考えていただくようにガイドしていきます(3)。研修の最後に受講者にこれからの行動について聞きます(4)。振り返りやアンケートに「職場に帰って~を実施したいと思います」と意思を表明していただいても、本当に実行できるのは半分くらいではないかと思っています(5)。
ここで、「研修のおかげで成果が出た」と言ってもらうことがとても難しい、と書かせていただいた理由をご説明します。(5)に至るのが全体の15~20%という割合、これは2:6:2の2と同じくらいの割合だということがポイントです。(5)に至るのは、常に自分でテーマを設定し、研修だけではなく、自分でいろいろ勉強して、自律的に取り組み、成果を上げている人だと考えられるのです。つまり、上司や周囲の人から見て、研修による成果だとは認識されにくいのです。
手法を活用するテーマの設定が重要
このようなことを踏まえると、実戦的なテーマを設定して実行する“アクションラーニング”は理にかなっていると言えるでしょう。(5)の段階までを研修の範囲に取り入れてしまうのですから。しかしここでも注意が必要です。それはテーマ設定です。(2)の段階で設定するテーマの抽象度が高すぎる場合、顧客への提供価値や収益に悪影響を及ぼしている問題からずれてしまっている場合などは、大きな成果につながりません。
研修の講師をする時にいつも難しいと感じるのは、事業に関する情報や受講者との接点が限られる中で、適切なテーマの設定を促さなくてはならないことです。
(次回は、『現在実施している研修の成果を2倍にするためのちょっとした工夫』を紹介する予定です)
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