「I = f(SIN)」の法則 ~主体性を引き出すには~
仕事をする時に1人よりも、多くの人がいた方が本当にいいのか?
みなさん考えてみたことがあるでしょうか。
「一人よりも多人数の方が、成果が大きいから」
チームワークを大事にする人からは、こんな答えが思い浮かびそうです。
しかし、キティ・ジェノヴィーズ事件を知っている人は、簡単にそうとも言えないと考えるのではないでしょうか。
1964年3月13日、当時28才だった女性、キャサリン・ジェノヴィーズが暴漢に襲われ、殺されてしまった事件です。
これだけであれば、数多くの暴行殺人事件のひとつですが、この事件には異様な点がひとつありました。
それは、目撃者が38人もいたことです。
目撃者が38人もいたにもかかわらず、警察に通報したり、助けようとしたりする人は一人もいませんでした。
この中の誰か一人が、警察に通報したり、助けに入ったりすればキャサリンは殺されなかったはずです。
なぜ、誰も助けなかったのでしょうか?
事件が起きたニューヨークのキューガーデンに住んでいる人たちは、冷たい人たちばかりだったのでしょうか?
そんなはずはありません。
ジョーン・ダーリー(John M. Darley)とビブ・ラタネ(Bibb Latan´e)がアメリカ心理学会機関誌である「Journal of Personality and Social Psychology」で研究結果を発表しました。
その研究結果は、多くの人たちが集まると個人にかかる責任が分散されるため、苦しんでいる人を助けるよりも傍観者の一人になることを選ぶ、というものでした。
その後、この現象は「社会的手抜き(Social Loafing)」という言葉と共に研究が重ねられてきました。
1974年のアラン・イングハム(Alan Ingham)の綱引きの実験や、前述のビブ・ラタネによる拍手と大声に関する実験が有名です。
※アラン・イングハムの綱引きの実験は、1913年のマクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)綱引きの実験を元にしています
ビブ・ラタネは、個人が受ける社会的インパクトを以下のような数式で表しています。
I = f(SIN)
こういう数式が出てくると、くしゃみが出たり、じんましんが出たり、急激に眠くなったり、私は世界を変えるんだぐらいのやる気が「テレビ見て寝よ」くらいになってしまうという、アレルギー反応を起こしてしまう人が多いと思います。
なので、ちゃんと解説しますね。
人が受ける社会的な影響(I:Impact)は、
・対象から受ける力や重要性(S:Strength)
・空間的・時間的な距離の近さ(I:Immediacy)
・そこにいる人数(N:Number)
によって決まるということです。
「よくわからん。とりあえずこのページを閉じて、ヤフーニュースでも見ようか」と思った人は、ちょっとだけ待ってください。
もっとわかりやすく説明します。
何かまずそうな状況に直面したときに、これは何とかしなければと思うかどうかは、
・それがどれほど重要なのか
・自分に関係があるのか
・かわりになる人がいるのか
によって左右されるのです。
ちょっとはわかり易いでしょうか?
例を出して説明してみましょう。
みなさんだったら、以下のケースの場合、何か行動を起こしますか?
ケース1.金曜日の深夜、渋谷駅付近の沢山の人たちであふれかえっている繁華街で、倒れている人を見かけた
ケース2.金曜日の深夜、渋谷駅付近の沢山の人たちであふれかえっている繁華街で、血だらけで倒れている人が助けてくれと叫んでいるのを見かけた
ケース3.金曜日の深夜、渋谷駅付近の沢山の人たちであふれかえっている繁華街で、倒れている仲のいい友人を見かけた
ケース4.金曜日の深夜、周りに誰もいない地元駅からの帰宅途中の道で、倒れている人を見かけた
ケース5.金曜日の深夜、周りに誰もいない地元駅からの帰宅途中の道で、血だらけで倒れている仲のいい友人が助けてくれと叫んでいるのを見かけた
さて、どうでしょう?
おそらく「ケース1」であれば、酔っ払ってるんだろうとか、自分とは関係ないし、何かあったら誰かが対応するだろうなどと考えて、行動を起こす人は少ないのではないでしょうか。
「ケース2、3、4」であれば、人によって、もしくは時と場合によって変わってくるかもしれません。
「ケース5」でも助けない人は、自分には多少問題があることを認識できたいい機会と捉えてもらい、一人旅にでも出て自分の人生を見直してもらうと良いでしょう。
さて、話は最初に戻りますが、「事をする時に1人よりも、多くの人がいた方がいいのか」という話でした。
今までの話をまとめると、ただ単純に人数が増えても効果的ではない。
先程の3つ、
・それがどれほど重要なのか
・自分に関係があるのか
・かわりになる人がいるのか
これらをメンバーに対して意識してもらえれば、主体的に行動を起こす可能性が高いのです。
重要じゃなければやらないし、自分に関係がなければやらないし、他の人ができるんだったらやらない。
こう書いてみると当たり前のことですが、リーダーの立場にいる方々は、メンバーにこのような意識を持たせていますでしょうか?
メンバーがいい働きをしないのは、全てリーダーの責任。
私が、研修講師をする時に毎回言っています。
それは、リーダーとしてやるべきことを怠っていることがあるからなのです。
メンバーがいい働きをするための工夫の参考にしてみてください。
【追記】
キティ・ジェノヴィーズ事件は、それなりに有名なので知っている人もいたかと思いますが、日本語の記事だとそんなに詳しい記事がなかったので、書いてみました。
ちなみに、「キティ・ジェノヴィーズ」の「キティ」は「キャサリン」の愛称だということは、日本だとほとんど知られていない話ですね。
【参考文献】
Ringelmann, M. (1913) “Recherches sur les moteurs animes: Travail de l’homme” [Research on animate sources of power: The work of man], Annales de l’Institut National Agronomique, 2nd series, vol.12, pages 1-40.
Ingham, Alan G.; Levinger, George; Graves, James; Peckham, Vaughn (1974). “The Ringelmann effect: Studies of group size and group performance”. Journal of Experimental Social Psychology 10 (4): 371-384.
Bibb Latan´e.(1981) “The Psychology of Social Impact”, American Psychologist, April 1981, pages 343-356.
Festinger, L. 1954. A theory of social comparison processes. Human Relations, 7: 117-140.
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青木満(アオキミチル) 人財開発コンサルティング事業部 部長
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