ソクラテス式質問法
【ヒューマン・タッチ レター vol.85】
みなさんこんにちは。ヒューマン・タッチの森川です。
コロナに大雨に、災害が立て続けに発生しています。
来年の夏こそ、平穏なお盆が過ごせますように、と願うばかりです。
今回は、「ソクラテス式質問法」についてお話させてください。
聴きなれない言葉かもしれませんが
「下向き矢印法」ということばで聞いたことがある方もあるのではないでしょうか。
ウィキペディア(抜粋)によると、ソクラテス式質問法は
「この方式は問いを立て、それに答えるという対話に基づいている。
これは批判的思考を活性化させ、考えを明らかにするためである。
この方式は弁証法であり、しばしば次のような議論を伴う。
その議論においては、一方の見解を擁護することは疑問にさらされる。
この議論において、一方の参加者は、他方の参加者に、
何らかの仕方で矛盾したことを言わせることができ、
その結果、後者の探究者の見解を強化させることができる。
ソクラテス式問答法は仮説の排除という否定的な作業をする方法である。
この方法においては、矛盾につながる仮説が徐々に見定められ、
排除されることによって、より良い仮説が見つけられる。
この方法は一般的で通常受け入れられる真理、なおかつ我々の見解を定めるような真理を求める。
アリストテレスはこの定義の方法と帰納法を発見したのはソクラテスだとしている。
アリストテレスはこれらの方法を科学的方法の本質だとみなしている。」
とのことです。
物事の本質を見極めるための、本人に考えさせる「質問」の総称、という感じでしょうか。
私達の分野、特に認知行動療法の立場からは、この質問を用いることが多くあります。
認知行動療法では、ある「状況」にて生じる特有の「認知」の癖や偏りを取り扱い、
そこから生じる「感情」「身体反応」「行動」を、結果として、
より適応的なものに変化させていくことを目的としています。
「認知」(考え方)に焦点をあて、自身の非合理な「認知」に気づき、
より合理的な「柔らかい考え」を身に付けていく作業でもあります。
例えば、
「自分(夫)が仕事から疲れて帰ってきたときに、妻が玄関まで出迎えにこなかった」
(状況)場面で「怒り」(感情)が強くなり
玄関先の傘立てを蹴って倒してしまう(行動)、人がいたとします。
私達は、「感情」を最も良く感じることが出来ます。
クリニックやカウンセリングルームでも、
まずは「感情」から語られることが多くあります。
上記ケースでは「怒り」の感情ですね。
「怒り」をおさめるために、傘立てを蹴ってしまったのかもしれませんが、
家族にとっては「暴力」と捉えられても仕方がない場面です。
このような人に「傘立て蹴ってはだめですよね」「暴力ですよね」
と説教して通じるでしょうか。
表面上は理解した風に反省するかもしれませんが、
「なぜ蹴ってしまったのか」「なぜ怒りが強く出てしまったのか」について、
分析とその対応(認知の変容)が無ければ、
同じ状況になった場合には、同じ結果が生まれてきます。
このような場面で、「ソクラテス式質問法」が用いられます。
代表的な質問としては、以下のようなものがあります。
■具体化する質問
「あなたの言う○○とはどういう意味ですか?」
「あなたの言う○○を他の言葉で表現するとどうなりますか?」
「○○という言葉をもう少し詳しく説明していただけますか?」
「現場の状況をもう少し詳しく教えていただけませんか?」
「○○はあなたにとってどのような意味を持ちますか?」
■理由や根拠を問う質問
「どうしてあなたは○○と感じたのでしょうか?」
「なぜ、○○のような感情が出てきたのだと思いますか?」
「○○と考える根拠は何ですか?」
■程度や差を問う質問
「もっとも強い感情を100(この場合立ちすくんでしまうぐらいの強さ)とすると、
どれぐらいのレベルの感情でしたか?」
「いままでで最も強いと感じたときと比べて、どうでしたか?」
傘立てを蹴ってしまう人の例に戻りましょう。
彼は、怒りとその後の蹴る、行動については認識できていたとしても
その理由を認識できていません。
そんな時には、以下のように「ソクラテス式質問法」を用いていきます。
カウンセラー「どのような場面で、「怒り」が強くなるのですか?」
本人 「家に帰った時、玄関でした」
※以下、カウンセラーを「Co」とします
Co「家に帰った時にはいつも「怒る」のですか?」
本人「いいえ、違います。疲れて帰った時とか、おなかがすいた時とか、
自分が疲れて帰ってきているのに、居間から笑い声が聞こえて、妻が出迎えないときです」
Co「では、疲れたとき、おなかがすいている時は、必ず「怒り」が出てくるのですか?」
本人「いいえ、違います。それだけで怒りが出ることはないです。
これらに加えて、妻が出迎えないときに怒りが出てきてしまいます」
Co「では、どうして奥様が出迎えないと、それほど強い怒りが出てくるのでしょうか?」
本人「うーん、改めてそう聞かれても。。わかりません」
Co「奥様が出迎えない、というのは、あなたにとってどのような意味がありますか?」
本人「出迎えないのは、、うーん、、こちらは疲れて帰ってきているのに、
専業主婦の彼女がさぼっているというか、自分だけ仕事頑張って、
損しているような気持になるのかもしれません」
Co「損しているような気持ち、になるだけであれば、
「怒り」や「傘立てを蹴る」ことはないように思いますが、どうでしょうか?」
本人「確かにそうですね。。」
Co「では、これほど強い「怒り」はどのような考え方から出てきたのでしょうか?
なぜ、これほど怒ったのでしょうか??」
本人「自分の中では、妻は夫をねぎらうべきで、何よりも夫のことを優先すべきだ、
と思っているかもしれません。。」
即興で作った事例ですが、
カウンセラーからの質問には「ソクラテス式質問法」が多用されて
いることがわかりますでしょうか。
本人の中にある考え方の癖や偏りは、
自分ひとりでそこまでたどり着くことはなかなか難しいです。
そんなときには、「ソクラテス式質問法」で、
カウンセラー、または信頼できる人と、深堀していくことも意味があるかもしれません。
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森川 隆司(モリカワ タカシ) 株式会社ヒューマン・タッチ 代表取締役 臨床心理士 公認心理師

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