臨床心理士が教える不調者対応03~復職支援の成功・失敗事例~
みなさんこんにちは。
株式会社ヒューマン・タッチの代表で、臨床心理士の森川隆司と申します。
過去200社以上のメンタルヘル対策に関わり、750件以上の復職に立ち会ってきた心理士兼コンサルタントとして、
経営者や人事労務の方向けに【メンタルヘルス対策】を実際に起きやすい事例を交えてお届けいたします。
前回は復職の失敗例として、「職場要因」の「計画不足」による事例についてお伝えしましたが、
今回は、同じく「職場要因」である【フォロー不足:復帰後のフォロー面談(上司、カウンセラー)がない】についてです。
メンタル不調で何とか復帰されても、再休職に陥ってしまう方は残念ながら多くいらっしゃいます。
うつ病自体の再発率が、5年以内ですと30~50%という数字もありますので、実は病気として再発の可能性はもともと大きいのです。加えて、復帰後の職場にてフォローがなければどうでしょうか。
長く復職休職支援を行ってきましたが、再発の防止という意味では、復帰後のフォローが最も大切なように感じています。
■復職後、上司からのアプローチが全くない
・前回の上司の対応と同様です。上司が「職場復帰=不調前の業務レベルが可能」と捉えてしまうケースです。
イメージしてみてください。たとえ骨折であっても1か月会社を休んで、初めて出社の日、みなさんはケガ前と同じように働けるでしょうか。
※集中力思考力はどうですか?
※長くベッドに横になっていて体力はどうですか?1か月間の職場の変化を感じませんか、ついていけますか?
※通勤電車だけで疲れませんか?
これが、気持ちの浮き沈みを伴う半年から1年間の休養であればどうでしょうか。
やはり難しいですよね。
「職場復帰」は(各事業所で規定があると思いますが)所定労働時間の勤務が出来るような状態を
基準としている事業場が多いと思います。
ですから、原則的には「職場復帰=不調前の業務レベルが可能」ということもできるのですが、
実際的には上記示したように、ほぼすべての復職者に対して、制限勤務がかかり、
徐々に仕事に慣らしていくのが通常です。「復職プラン」ですね。
この時期、上司をはじめとした会社からの働きかけは、とても大切になります。
昔ながらのうつ病の方をイメージしていますが、復帰した当人は少なからず「周りの目」を気にしています。
「迷惑かけた」「自分のことどう思っているだろうか」「早く帰るの申し訳ないな」。
このようなときこそ、上司から、復帰直後はできれば毎日、難しければ週に1回は、声かけや簡単な面談を実施していただきたいのです。
「上司(会社)から気にかけてもらえている」
「制限勤務中は、まずは慣れることに集中すればよいのだ」
このような気持ちは、本人にとってとても大きな勇気付けになると考えます。
上司はこの面談では「傾聴」に徹して、アドバイスや改善方法を伝える前に、
受容と共感の姿勢で気持ちを聴いていただきたいと思います。
この面談での情報は「復職プラン」を柔軟に変更していくための貴重な情報源にもなります。
①「本人を支える(これでいいんだよ)」という意味合いと
②「組織としての対応を柔軟に行う(復職プランの見直し)」 ために、上司の取組はとても大きいものになります。
■復職後、専門職(社内産業保健スタッフ、カウンセラーなど)からのアプローチが全くない
社内に専門職がいる場合は、上司の面談と専門職の面談について役割分担が可能と思います。
専門職には、上記①の役割について積極的に担ってもらうことが可能でしょう。
この場合、上司は客観的な②の視点での面談に注力いただくこともできるのではないでしょうか。
専門職としてフォローアップに関わる際には、体調面症状面(治療の進行具合)、集中力思考力の回復具合、
体力面での回復具合、業務の質の状況(対外的な業務があるのかどうか)、制限勤務の内容、など一通りお聴きします。
「きちんと出勤が出来ていること」「今やるべきことをこなせていること」など、できていることをしっかりと見つめ、支持していきます。
自分はできるのだという感覚を、少しづつでも積み重ねてもらうことは、とても意味があると考えるからです。
ただ、やはり復帰に際して困りごとや、気持ちの変動も出てきます。
このような時には、勤務に際して困っていることがないか、不安感や焦燥感などの感情面についても確認しています。
ここで出た話題に関しては、具体的な対処についても話し合うようにしています。
コミュニケーション上の課題であれば、挨拶での工夫や退社時の声掛けの工夫、
また、業務量が多すぎと感じる場合の上司への伝え方など、できる限り具体的に話し合います。
その上で、次の面談までに実行できる宿題(実験)を考え、可能な範囲で宿題を行ってもらい、その結果をまた話し合います。
・「出来ていることを確認し、支持する」
・「困っていることを確認し、その解決手段を一緒に考える」
・「解決手段を実験として職場で取り組んでみる」
・「実験の結果を2人で評価し、再度必要な実験を考え実行する」
このような内容を一連の流れとしてフォローアップ面談では行っています。
どれだけ周到な準備が出来ても、復職時には予期しない状況が起こりえます。
であるからこそ、職場側での上司や専門職からのフォローは、再休職の予防には最も大切な手段の一つと思うのです。
リワークを行って、しっかり自分を見つめなおし、新たな取り組み方を学んできた方であっても、
職場に戻った途端に、学んだことが頭から抜けてしまうような方もいます。
せっかく学んだ知識やスキルは生かしてなんぼです。一人で実践するのは難しいので、
上司や専門職がサポートしてあげたいところですね。
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森川 隆司(モリカワ タカシ) 株式会社ヒューマン・タッチ 代表取締役 臨床心理士 公認心理師

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