臨床心理士が教える不調者対応~復職支援の成功・失敗事例~
■その1 「失敗事例:職場で受け入れ準備が出来ていない場合」
・みなさんこんにちは。株式会社ヒューマン・タッチの代表で、臨床心理士の森川隆司と申します。過去200社以上のメンタルヘル対策に関わり、750件以上の復職に立ち会ってきた心理士兼コンサルタントとして、これから、複数回のシリーズで、経営者や人事労務ご担当者の方向けに、「メンタルヘルス対策 虎の巻!」をお届けいたします。記念すべき「虎の巻その1」は、『臨床心理士が教えるメンタルヘルス不調者対応 ~復職支援の成功・失敗事例~』です。
・まず、本稿で「復職の成功・失敗」と銘打っておりますが、「復職の成功・失敗」とは、そもそも何を指すのでしょうか。長く休職復職支援に携わる中で、いろいろと考えさせられる問題です。後の回で詳しく述べる予定ですが、「元のパフォーマンスが戻らない」「結局配置転換となった」「退職してしまった」「休職を繰り返す」、これらは一般的に(企業の側から)考えて、「復職の失敗」となるのでしょう。しかし、見方を変えてみましょう。(従業員の側から)これらを考えてみますと、「新たな仕事の進め方を身に着けた(8割主義)」「馬が合わない上司と離れることが出来た」「新しい生き方を実現するステップとなった」「しっかりと病気を治す時間を得ることが出来た」。ともとらえることが出来ます。ここでは「復職の成功」を、ひとまず「職場復帰して2年間再度の休職に入らず、勤務を継続できた事例」とさせてください。失敗事例、都はこれら以外の事例といたします。
・本日は、失敗事例のポイントとして、「職場で受け入れ準備が出来ていない場合」、に焦点を当ててみたいと思います。失敗事例を注意深く見てみますと、「職場要因」と「本人要因」の2つが大きくかかわっていると考えられます。「職場の受け入れ準備」とは、まさに前者のことですね。どのような失敗要因があるのか。以下のようなものが考えられます。
①復帰プログラムやプランがない、もしくは適宜見直されない
②復帰直後に、業務の質的量的負担を元に戻す
③復帰後のフォロー面談(上司、カウンセラー)がない
④「休んだ分取り戻させる」という周囲の認識
⑤「面倒な奴が返ってきた」という周囲の認識
⑥社内産業保健スタッフとの連携が出来ていない
・それぞれ見ていきましょう。まず①について。このコラムをご覧の皆さんであれば、「復職プログラム」や「復職プラン」の意味するところはご存知だと思いますが、改めて整理しますと、「復職プログラム」とは、厚生労働省から出ている「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-1.pdf の中にもある「5つのステップ」を中心とした復職までの大きな道筋を示した文書です。それぞれのステップでどのような担当者がどのような役割を担うのか、会社としての業務フローや手引書のように理解してもらえれば分かりやすいですね。まずは、厚労省から出ているひな型を参考に、会社の実情に合わせて作成してみましょう。詳細は、徐々に加えていくイメージで大丈夫です。最初から詳細なものを作ろうとするよりは、まずは「5つのステップ」や「当社の担当者」また「当社の実情に合わせた内容」等のポイントを押さえて、作成してみて下さい。
他方、ここでいう「復職プラン」とは、復職する従業員が、復帰場所でどのように業務の負荷を上げていくのか、具体的に示した文書と理解してください。例えば、「復帰直後の1週間は、午前中のみの勤務とする」とか「復帰第3週から15時までの勤務に伸ばす」また、「復帰第5週から、所定労働時間の勤務に戻す」さらに、「残業については、定例のカウンセラーもしくは産業医面談の内容を鑑みて、本人や上長と相談の上、決定する」などといった、業務負荷を段階的に上げていくためのロードマップです。復職プランは、あまり詳しく書きすぎないことが肝要です。メンタルヘルス不調による休職は、職場の要因(環境要因)だけでなく、本人の要因も大きく作用します。そのため復帰の際も、個別的に様々な状況が発生する可能性があります。今までの私の経験の中でも、復職プランに従い、ゆっくりと徐々に業務の負荷を上げるために勤務時間の制限をかけていた従業員から「早く帰ることで、仕事の時間的な切迫感を感じて、余計業務を詰め込んでしまいます。勤務時間を早く延ばしてほしい」との話が出たことがありました。この方が、「○○ねばならない」「○○すべきである」といった思考の癖が強く、脅迫的な考えが強い方であれば、申出にこたえることをせずに、なぜそのように考えてしまうのか、認知面での問いかけや新たな業務の取り組み方の実験がまだ必要かもしれません。けれども、例えば「適応障害」などの診断で、事実特定の上司との関係で抑うつ状態が強かった方で、職場でその上司が異動になり、その後元職に復帰された方であれば、どうでしょう。プランよりも早めに所定労働時間の勤務許可を出すことがあるかもしれません。いずれのケースでもこのような場合には、その都度、正確な情報収集がカギになります。本人への面談も上司からだけでなく、定期的にカウンセラーや産業医からも行うことが肝要です。一般的には復職直後は、直属の上司は最低でも1週間に1度は面談したいところです。カウンセラーや産業医がいる事業所では、少なくとも復帰後3か月は月に1度のペースで面談をしたいところです。これらの情報をもとにしたプランの柔軟な運用や変更がとても大切になるのは、いうまでもありませんね。
いずれの文書に関しても、大切なのは「担当者」の存在になります。「担当者」1人ですべての復職支援を実施するわけではありませんが、全体の指揮者として、社内産業保健スタッフや社外の専門家をうまく「使って」、支援を行っていくことが大切です。復職プログラムや復帰プランがない、もしくは柔軟な運用が出来ないことには、復職支援が場当たり的になってしまうでしょう。場当たり的な職場復帰は、当人だけでなく、その復職を見ている他の全従業員にも、良い影響を与えません。また、社外のサービスを使って多くのお金をかけた復職支援を行っていても、社内の担当者がおらず、また担当者がいても自分の仕事として取り組めていない場合には、大切なお金の無駄遣いになるでしょう。(お金のある官公庁(地方自治体含む)でよくあるケースです(笑))。復職プログラムや復職プランの作成、またその柔軟な運用がどれだけ大切か、おわかりいただけたでしょうか。
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森川 隆司(モリカワ タカシ) 株式会社ヒューマン・タッチ 代表取締役 臨床心理士 公認心理師
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