「人事課題」への対応で求められるものとは?
~バンダイナムコHDの人事戦略と、IT基盤の果たす役割~
株式会社バンダイナムコホールディングス グループ管理本部 人事部ゼネラルマネージャー
林徳文さん
2005年にバンダイとナムコが経営統合を実現した後、バンダイナムコホールディングスは「中期経営計画」を策定。「世界で存在感のあるエンターテイメント企業グループ」を目指しています。そこでは人材・企業文化の融合を図り、この先のグローバル成長に向けて、戦略的な人と組織の活用を実践していく考えです。そして、主要グループ各社の管理部門を集結、総務・人事・経理・情報システムなどの業務を行うシェアードサービス部門を設立し、グループ全体の管理部門の機能集約を図っています。その際、人事業務の標準化・効率化や課題解決において、データベースやシステムは欠かせないものとなっています。同社の人事戦略と、そこにおけるIT基盤の果たす役割について、グループ管理本部人事部ゼネラルマネージャーである林徳文さんに、詳しい話を伺いました。
- 林徳文さん
- 株式会社バンダイナムコホールディングス グループ管理本部
人事部ゼネラルマネージャー
はやし・のりふみ●1969年生まれ。鹿児島県出身。93年中央大学商学部卒業後、一部上場機械メーカー入社。以後、電器メーカー人事部、人事コンサルティング会社経営企画、ベンチャー企業営業統括などを経て、2003年10月、バンダイ入社。05年9月、バンダイナムコホールディングス設立に伴い、転籍。現在、グループ管理本部人事部ゼネラルマネージャーの任にある。
経営統合後、「人事戦略」をどう描いていったのか
2005年9月にバンダイとナムコの経営統合が実現し、4年余りが経ちました。現在、人事責任者として、どのようなことをお考えになっていますか。
経営統合を機に、バンダイナムコホールディングスという持ち株会社が設立されました。その下に、4つの戦略ビジネスユニットがあって、そこに各事業会社が存在している。そして、それらをサポートする役割を持つ関連事業会社とで構成されるグループとなりました。経営管理という視点では、持ち株会社の中にシェアードサービス機能として管理本部を設け、ここには人事、総務などの間接部門が集約されています。私はグループ管理本部の人事部ゼネラルマネージャーであると同時に、事業会社であるバンダイ、バンダイナムコゲームス、ナムコの人事部ゼネラルマネージャーを兼ねています。
グループの「人事戦略」については、グローバル化を大きく見据える「中期経営計画」の下、人事部が中心となって作成しています。ただ、実際にお金を稼ぐのは各事業会社。「トイホビー」「ゲームコンテンツ」「映像音楽コンテンツ」「アミューズメント施設」の各ビジネスユニットでは、事業の特性が異なります。その特性に沿った経営戦略があるわけで、それをブレークダウンした形で、個別に人事戦略や「求める人物像」を作っています。だから、グループとして求める人物像というのは、そんなに強く持っているわけではありません。「夢・遊び・感動」というグループのミッションの中、これを体現できる人。それが、グループとしての求める人材像ということになります。
基本的に、経営戦略に役立たない人材戦略はないと思っています。経営戦略が変われば、人事戦略も変わります。事業環境が変われば、自ずと変わらざるを得ません。そこは、臨機応変に考えています。ただし、変えてはいけないのはミッションやバリューの部分。それ以外の戦略や施策に関しては、何でも変えていいと思っています。
経営を取り巻く環境が大きく変化してきました。その点を、どう認識されていますか。
経営統合した直後は、比較的良い業績を残せました。ただそれ以降、世界的な経済の冷え込みもあって、あまり状況は芳しくありません。玩具やゲームなどは不況の影響を受けにくい業界と言われてきましたが、今回はまともに受けた感じがします。加えて、各事業会社もヒット商品を出せていない現実があります。
一方、人事という意味で言うと、主要グループ会社の管理業務をシェアードサービス化しました。グループ管理本部は総勢75人、出身企業の異なる人間が集まって、同じフロアで仕事をしています。その結果、業務の効率化、標準化は徐々に進んできました。ただ、個別性の強い人事戦略においては他社を横目に見ながら、合わせる部分は合わせ、独自性のある部分は残していく、ということを行っています。いずれにしてもこの人数で、これだけの会社の戦略機能から給与計算、社会保険などアドミニ業務まで行っているケースはあまりないでしょう。実際、人事企画から採用や人材育成まで、人事に関わる業務を全て行っています。
経営統合から数年経ちましたから、現在は自分の出身企業だけではなく、他の企業の業務も手掛けるなど、グループ内での人材のシャッフルが進んできています。またそうしていかないと、シェアード機能に求められている、効率化・標準化が進みません。バンダイ出身の人間がバンダイナムコゲームスの採用を行うといったように、意識して毎年担当を替えています。
グループ各社の人たちに、バンダイナムコホールディングスの人間だというアイデンティティが芽生えてきたのでしょうか。
採用に関しては、各事業会社が行うので100%ではないと思いますが、業務内容も含めて、意識はかなり進んできました。現在は出向者で固めていますが、ホールディングスへ転籍するなり、管理本部だけ別会社化するなど、今後、実施すれば、縄張り意識はなくなるように思います。
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「人事課題」への対応で求められるIT基盤の「役割」
人事上の「課題」としては、どのようなことを認識されていますか。
経営統合をしましたが、バンダイからするとナムコの人間はなかなか見えません。それは、逆も同じ。さらに国内、国外もそうです。例えば、海外駐在員の状況は把握していますが、その先にいる、ローカル社員のことはよく分かりません。人数が少なければ、例えば人材を登用する場合でも、比較的容易に候補者が上がってくるでしょう。しかし、規模が大きくなったり、経営統合して人材が雑多な状況になったりすると、果たしてどうか。これも、いったい誰が優秀なのか、その評価や登用の機軸がよく分からないからです。
評価は各社でやっていることですから、それを参考にすればいいかもしれません。ただ、そのデータベースを共有していないと、判断の拠り所とはならない。仮に、あるポジションにいる人が辞めたときに、その代わりとなる人をどうピックアップしていけばいいのか。そもそも、きちんとしたデータベースを管理し蓄積していかないと、的確な対応ができないでしょう。海外の場合はなおさらです。
実際、この点に関しては経営統合する前から大きな「課題」として認識していました。そこで、バンダイとナムコが導入していたシステムを比較検討した上で、当時、ナムコの利用していた電通国際情報サービスの人事・給与・就業システムパッケージ「STAFFBRAIN(スタッフブレイン)」の上位製品である「POSITIVE(ポジティブ)」を導入したわけです。
とはいえナムコは、「紙」ベースでデータを保管していました。システムの機能をほとんど活かし切れていなかったのです。一方、バンダイは他のシステムをフルに活用していました。このような状態を解消するために、まずは「POSITIVE」へとデータベースの入力作業を行い、データを一元化していきました。その上で、データベースを利用してどういうことができるのか、この1年間、人事なりに試行錯誤を続けてきたわけです。
データベースについては、どのように活用しようと考えたのですか。
データというのは「数字」の固まりです。例えば、5年後のマネジメント層にはどういう人たちがいるのか、それを知りたいとしましょう。データベースがあれば、それこそ過去3年間の活動履歴や評価の傾向を調べることで、当然、当該者のプロフィールが上がってくるだろうと。さらにその場で、細かな条件設定もできるだろうと。そういうことが簡単にできると思ったわけです。
しかし、それがなかなか難しかった。検索はできるものの、あまりうまくはいきませんでした。しかし、経営に判断してもらうためのデータを提示する場合、経営が要求してくる条件で絞り込んだ内容を、彼らが目で見て分かる形で示せないと意味がない。人事部の中でしか通用しない、管理するためだけのデータではダメなのです。経営として活用できる、経営資源としてのデータベースをどう作り上げるか、それが人事に課せられたテーマでした。この1年間、そうした経営で使える形へのデータのカスタマイズを考えていました。
経営資源である人材に関して、人事責任者として私の把握している内容は薄いものかもしれませんが、社内の誰よりも広く把握しているのは間違いないでしょう。問題は、それが私の頭の中にあるだけということ。これでは使えない。だからこそ、社内の人材をきちんとデータベース化して、誰もがよく分かる機軸で切っていくこと。経営会議などで人材をピックアップする場として、使い勝手のいい形にしていかなければならないのです。
ところが今までは、所与のデータを加工して表にしていくだけ、といった単純な作業で対応していました。これでは、見た目も悪いし、素早い判断が求められる経営の場では使い勝手が悪い。何より、経営が考える新たな条件を、素早くその場で載せることができません。客観的なデータの提供と、それを裏づけるものが瞬時に出すことができて初めて、判断の材料となるわけです。それを元に、最後は見識を持った人が判断していく。そういう形のデータベースにしていきたいのです。
これまでは、経営判断できるデータベースとなっていなかったわけですね。
というより、経営に上がってくる前に、いろいろな人の「思惑」が入ってしまっていました。これでは、正しい判断ができません。まず定量的なものが提示できた後に、定性的なものを追っていく。これが順序としては正しいと思います。多くの会社では、あまりにも定性的な情報に振り回されてしまい、政治的な色合いが濃くなり、適切な判断ができなくなっているのではないでしょうか。そういう思惑を排除したいのです。
この1年間、私のこうした考えを電通国際情報サービスの方には十分に理解していただき、何とかそれを反映した形へとこぎつけることができたように思います。
具体的に、どういう点を要求されたのでしょう。
経営を実現するのは人ですが、それを誰がやるかで結果が大きく違ってきます。誰がやるべきか、それは、自分が思い浮かんだ人以外にもいるはずなのです。だから、経営者や事業部長などがそういう判断に迫られたとき、どういうデータがあればいいのか、それをあれこれと想像していきました。電通国際情報サービスの方にはそのための要件やスペックを細かく伝えていき、見せ方としてもセンスがあり、色や字体なども含め、使い勝手のよいものをお願いした次第です。言うまでもなく、「見た目」は大事ですから、データベースが単に人事のものだけではなく、経営を含めた社内の人たちが使うことを想定して、いろいろと注文を出しました。
グローバル展開に向けての対応
中期経営計画に、グローバル成長への基盤の整備を謳われています。具体的に、どのような対応をお考えですか。
例えば、外国人の採用です。既にバンダイでは2回実施し、今度、バンダイナムコゲームスがトライします。というのも、北米・欧州はこれから攻めていく地域ですから、留学生ではなくアメリカの大学生をインターンシップで採用しています。アメリカのカルチャーの中で育った彼らに、バンダイやバンダイナムコゲームス、ナムコなど我々のグループのDNAを吸収してもらい、その後、北米や欧州に赴任していく、という展開を想定しています。また、彼らにバリューやミッションを伝えるために、年に何回か集まってもらう機会を設けています。ディスカッションする中で、バリュー・ミッションの意味を伝え、日本語しかなかったドキュメントを英訳して配布しています。地域ドメインの攻め方の戦略の一つとして、このような採用を行っているわけです。
その際の副次的な効果として、外国人と働くことで内なるグローバル化を期待しています。日本人社員にとって、コミュニケーションやカルチャーギャップを経験することになるでしょうが、これはグローバルに展開していくときの糧となるはずです。
ただ、こういう施策レベルに関しては、事業会社に任せる、地域のことは地域に任せるという風土があります。あまりガチガチにこの制度はこうしなさい、といったことはほとんどしません。例えば、報酬の支払い方は業績連動にしてくださいと言いますが、後のやり方はお任せしますと。福利厚生についてはあまりやらないほうがいいけれど、地域の特性において考えてくださいと。北米、欧州、アジアで地域統括の拠点はありますが、管理面はゆるくやっています。
この他に課題として認識しているのはミドルマネジメントの弱体化です。研修については我々で企画をして、海外に出向いて行うことを始めています。
正直、グローバル化ということではまだまだ道半ばですが、一足飛びにやっても意味がないので、地域の特性を尊重しながら、2015年を目標として徐々に進めていっています。その場合、システムを司る「POSITIVE」についても、将来的にマルチリンガル対応として拠点で活用していく方針です。
ワールドワイドを意識したデータベースを構築していく考えですか。
「POSITIVE」に関しては、各社で運用していく中でいろいろな課題が見えてくると思っています。2012年までの間に修正を行い、そのプロセスと結果を踏まえた上で、海外展開していく考えです。おそらく、中期経営計画の最終年である2015年には、それなりに洗練したシステムとなっていることでしょう。
IT基盤は、戦略決定ツールである
林さんはこれからの人事に求められる役割を、どのようにとらえていますか。
究極的に人事の役割というのは、10年後のボードメンバーをどう作るか。もしくは、5年後のボードメンバー候補をいかに作っていくか、に尽きると思っています。少なくとも、私の戦略・施策は全てそこに行き着くつもりで、日々行っています。
その意味で言うと、課題は人材の質をいかに上げていくか。実際問題、部長クラスでも人材の質に差が生じています。だから、能力やスキルの足りない人に対しては、その差を引き上げるためのプロセスを作ろうと考えています。
また経営統合すると、特定の出身企業の人たちが昇進・昇格していく、ということがありがちです。これはある意味、簡単なことなのです。しかし、経営統合のシナジーが失われてしまう。そうではなく、バンダイとナムコが経営統合したから、以前はバンダイやナムコで埋もれていた人材が、これによって引き上げられていく。評価を高めて、登用されていく。これはと思った人材を、積極的に抜擢していく。そういうストーリーが実現されていないと、経営統合が成功したとは言えません。
そうした人材活用、人材登用を行う面でも、データベースの構築は非常に大きなカギを持っています。定量化されたデータを、定性的な部分とくっつけて人材を抜擢していく、という仕組みがほしいわけです。まさに抜擢する「裏づけ」となるものがどれだけあるのか、これがとても重要となってきます。
人事としては、そのようなIT基盤をどのように活用していくお考えですか。
人事を全て「数値化」したいと思っています。比較検討するための、定量化、見える化です。例えば、採用担当で十数年ものキャリアがあり、独特の「人を見抜く目」を持っているという人がいたとしても、私から言えば、独特でも何でもありません。単に、その人の好みなのです。でも、採用のベテランだからと社内では通説となり、誰も文句を言わないとなったら、これはおかしいでしょう。本来なら、その人が過去に採用した人材について、その後どういう評価を受け、どういうプロモーションをしていったのか、それらのデータを取って判断していくべきなのに、ほとんどの会社ではそういうことができていない。評価のデータを取って、採用戦略を見直していくわけです。
例えば、ある人が評価を下した後、被評価者に対する何年かの行動評価の軸を見ていけば、その評価者に見る目があったかどうか、すぐに分かる。これも、データベースがあればこそ可能なことなのです。人は10年、20年と長い期間会社で働いて、経営に貢献してもらう経営資源です。だからこそ、その投資に見合う効果が得られるかどうか、採用面でも慎重に考えるのは当然のことでしょう。
改めて言いますが、経営戦略に合致する人事戦略でないといけない。そして、経営戦略の先を考えた場合、それは世の中です。世の中が目まぐるしく動いていて、経営者はそれにキャッチアップしなくてはなりません。ただ、経営者も最初は新入社員であり、それを採用したのはまさに人事に他なりません。
人事でも、毎年同じ内容を繰り返すことでよしとする人がいますが、それはあり得ない。採用計画にしても、獏とした経営環境から予定数を言ってくる。そうではなく、経営戦略を実行するためにどれだけの人員が必要であり、それに対して自社の人員構成はどうなっていて、現在の入社と退職の状況はこうなっている。その間、中途採用に関してはこういう状況だから、人件費コストを考えた上で、これだけの人員を採用したいと。そういう拠り所となるデータベースをしっかりと踏まえた上で、採用目標数を言っていかなくてはダメでしょう。
まさに、IT基盤が有効なツールとなってきますね。
これからはIT基盤を使っていかないと無理でしょう。IT基盤をツールやインフラだと言いますが、活用する先にあるのは会社の経営そのものです。今さら、電話やファックスの世界には戻れません。IT基盤に求められるのは、経営戦略スタッフ機能と一緒です。まさに経営を実現する戦略的なツールなのです。そこで示されるデータによって、重要な意思決定がされるわけです。
その意味からも、電通国際情報サービスの方には期待しています。我々の言うことを体現してくれるだけではなく、我々の思考を超えたもっといいプロットを提案してほしいと思っています。なぜなら、ITはまさに経営戦略ツールであり、意思決定ツールだからです。
本店所在地 | 東京都品川区東品川4-5-15 バンダイナムコ未来研究所 |
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代表者 | 代表取締役社長 石川 祝男 |
URL | http://www.bandainamco.co.jp/ |
設立 | 2005年9月29日 |
市場名 | 東証1部 |
資本金 | 100億円 |
事業内容 | バンダイナムコグループの中長期経営戦略の立案・遂行 グループ会社の事業戦略実行支援・事業活動の管理 |
従業員数 | [連結]7,330名 [単独]250名 (2009年6月30日現在) |
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