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海外留学による次世代リーダー育成術 第3回
「先端技術を先端で支える」人材を海外留学で育成

注目の記事研修・人材育成[ PR ]掲載日:2009/11/13

半導体の試験装置(テスター)を開発・生産し、世界中の顧客企業へ技術、商品、サービスを提供するアドバンテスト。そのビジネスモデルを体現するためには、グローバルに通用する人材の育成が欠かせない。そのため、1990年代半ばからは、「JAIMS」への海外留学を実施し、若手人材の発掘および次世代リーダーの育成に力を入れている。今回は、自らもJAIMSへの留学経験を持つ取締役常務執行役員の栗田優一さんに、経営側からみた留学制度の狙いやその効果、さらには自らの留学体験についてお話を伺った。 (聴き手=HRMライター/プランナー・福田敦之、写真=東幹子)

プロフィール
栗田 優一さん
栗田 優一さん
株式会社アドバンテスト
取締役 常務執行役員 経営企画・管理担当

1949年生まれ。東京外国語大学を卒業した後、73年に富士通に入社。企画部門に配属される。75年10月から76年2月まで、当時JAIMSが提供していたAMP(American Management Program)の第8期生として留学する。その後、ニューヨークやロンドンなど、海外での勤務を重ね、富士通のグローバル展開の第一線で活躍。2001年にアドバンテストに入社し、07年取締役常務執行役員となる。09年より経営企画・管理を担当している。

→“変革的” リーダーに求められるものとは?(第1回)
→富士通が考えるビジネスリーダーとは?(第2回)

経営戦略からみた人材育成に関する「課題」

近年、経営を取り巻く環境は大きく変わってきました。その中で、経営課題、わけても人事における課題としてどのようなことを認識されていますか。

当社は半導体を試験する装置、いわゆるテスターを開発・製造・販売する事業を行っています。顧客は半導体メーカー。いずれの企業も世界各地に進出し、最適な場所で開発し、生産することが当たり前となっています。それに伴い、当社も顧客企業の要望に沿ったテスターを作り、サービスを提供するために、顧客の拠点がある地域へと進出することになります。このような形でグローバル化に対応していくという経営戦略は、以前から変わっていません。人材面での課題も、そうしたことのできる人材を育てるというのが基本であり、この点は全く変わっていません。

栗田優一さん

ただ、その中身はだいぶ変わってきました。昔は半導体の工場というと、アメリカやヨーロッパが多かった。ところがここ5~10年をみると、アジアなど、そのほかの国にも急速に進出しており、更なる多様化が進んでいます。このような顧客の状況の変化に対応し、サポートできる人材を育成していく必要性が高まってきています。

テスターを作るという仕事は非常に特殊な分野です。専門的な知識がなくてはいけない。ただその知識を持っていても、日本の一部だけでやっていればいいという訳ではありません。スピード感をもって国際的なビジネスの展開に対応していく、そういう場面が多々出てきます。こちらから海外の顧客のところへと出向いていく、あるいは海外の顧客が日本に来て、最新鋭のテスターの打ち合わせをするといったことが日常的にあるわけです。経営戦略的にも、そうしたことにきちんと対応できる人材を育てていかなければなりません。

当社の経営理念は「先端技術を先端で支える」です。顧客の置かれた状況を理解し、読み解く力がないと良い製品は作れません。それが、限られた場所だけで仕事をしていると、世界全体、世の中の流れを理解することは難しい。

ビジネス環境がより多様化、複雑化してきているわけですね。そのための人材育成として、「留学制度」をどのように考えていますか。

エンジニアが自分たちの専門領域に閉じこもっていては、世界の顧客に対応できません。広い目を持ち、世の中を知るためには、JAIMSのような留学経験を通して、いろいろな人の考え方を知り、そこで意見をぶつけ合い、勉強していくことは貴重な経験となるはずです。留学はグローバル化するビジネスに対応する人材のトレーニングとして、格好の場です。実務的な知識の習得はもちろんですが、その地へ行ってこそ養われる異文化経験を重要視します。多様な価値観に触れさせ、顧客が求める事を顧客の視点で理解できるようになる力を、留学を通して身につけさせたい。この経験は帰国してすぐ役に立つことはないかもしれませんが、「先端技術を先端で支える」企業にとっては、そのようなことができる人材を育て続けることが生命線だと思います。

東洋と西洋の経営知をハイブリッドしたマネジメント理論の発信を目指すJAIMS

留学制度の概要と目的・効果

経営側からすると、留学制度というのは欠かせない施策ということですか。ところで、海外留学は古くから行ってきたのでしょうか。

JAIMSに関しては、1994年から実施しています。これまで、JAIMSへ留学した人は13人。一時見送っていた時期もありますが、最近は春と秋に1人、毎年2人ずつのペースで派遣しています。また、JAIMS以外にも、不定期ですが、アメリカのビジネススクールへの留学も行っています。

JAIMSを利用するのは、どのような理由からですか。

MBAの場合、派遣する期間は2年間にもなる。かといって、1~2週間の短期プログラムでは、得られるものは少ないでしょう。その点、JAIMSの3ないし4ヵ月という期間はちょうどいいのではないでしょうか。もちろん、開発に携わっている人が、それだけの期間、職場を離れることに問題がないわけではありません。ですから人選に当たっては、本部長が選抜した上で、留学前に職場で業務の調整をしています。ただ最近の傾向として、自ら行きたいという人も出てきています。そういう場合は、本部長の推薦を経て、留学することになります。

いい意味での“留学効果”が出ていますね。そもそも人材育成の基本方針として、貴社ではどのようなことを掲げられているのですか。

ベースとなる専門技術の上に、「チャレンジスピリット」「グローバル化」「マネジメントのレベルアップ」という3つの方針を立て、グローバルな視点を持って行動できる人材を育成することを、人材育成の基本方針として定めています。

グローバルに通用するプロ人材を育成

グローバルに展開していく際、日本でやっていたやり方を、単に外国に持っていけばいいということはありません。同じようなコミュニケーションの方法が、海外でそのまま通じるということもないでしょう。当然のことながら、いろいろなトラブル、コンフリクトに遭遇します。そのときに、そうしたことに果敢にチャレンジするスピリットがなくてはなりません。実際、新しい局面に出会ったとき、今までの成功体験が通用するとは限りません。むしろ、マイナスとなることがあります。そんなとき、どう対応していけばいいのか。

そういうことを座学で教えても、その背景を理解し、納得することは難しいでしょう。そこで、留学制度が有効なのです。JAIMSの留学コースは、「チャレンジスピリット」の教育分野において、一般社員を対象としたプログラムとして位置付けられています。

どのような人たちが留学されているのですか。

事業部門の人たちが中心ですが、いろいろな部署から万遍なく参加しています。入社5~10年目、年齢では20代後半から30代前半くらい、管理職でない人たちを対象にしています。

経営側では、留学の成果をどのように評価されていますか。

栗田優一さん

留学から帰ってきても、すぐに海外で勤務するということではありません。しかし、海外に出張する、あるいは海外からお客様が来て一緒にビジネスをするといった対応は当然あります。そのような場面に出会ったときに、海外留学をしたことがあるかどうかで、かなり仕事の進め方が違うと思います。また、これまでの留学経験者13人のうち、既に数人は海外駐在に赴いて、現地にどっぷりと浸かった環境下で実務を行っています。

何より、海外留学を経験した人が、職場の中で影響力を発揮しているように思います。例えば、現在のJAIMSのプログラムでは、日本人初の「総合成績オールA」を獲得するという社員が出ました。その事が社内報などに掲載され、それが社内でも大きな刺激となっているようです。本人が書いた研修報告書を読みましたが、「そこ(留学プログラム)で得たビジネスでの実践力や国籍を超えた仲間は私の貴重な財産となりました」と感想を語ると同時に、「JAIMS留学を目指して英語力アップに励んでいる若手が実際にいる」とも言っています。

グローバルビジネスに対応する総合的知力を身につける短期ビジネス留学

話は変わりますが、近年、海外勤務を敬遠する若者が増えてきたというケースをよく聞きます。

かつての日本は貧しい状態にあり、海外に行くということは、大きなインセンティブとなっていました。しかし、今の若い人たちは生活水準も上がり、海外の情報も瞬時に知ることのできる環境にあります。彼らにとって、海外は特別なものではありません。現在は日本社会の中で生活することで、十分に満たされている状態となっています。

また、海外に行くと生活習慣も違い、コミュニケーションがうまく取れない状態に置かれます。至る所で「文化の衝突」が起こるでしょう。だから、何もそこまでして外国に行きたいと思わない人が増えているのかもしれません。しかし、実社会ではグローバル化は何も海外に行くことばかりではなく、日本にいても迫ってくるものなのです。

海外で勤務することの意味づけを、しっかりと持たせなくてはいけませんね。

1980年代の半ばから90年代の頭くらいまで、日本の半導体産業は世界で50%前後のシェアを誇っていましたが、90年代半ばから多くの分野でアメリカ、韓国、台湾等にキャッチアップされ、トップの地位を失ってしまいました。また、生産拠点はコスト最適化を求めて東南アジアなどの地域にシフトしています。この流れを変えることはできません。その中で、国際化対応というものをどうしていくか、トップから従業員まで、自分のこととして考えていかなくてはなりません。

なるほど。すると留学というのは、ビジネスとの関連性でも重要なテーマとなっていますね。

外国人とコミュニケーションをして、モノを売るというだけでも大変なことなのですが、現在では生産はもちろんのこと、顧客の近くにいて、一緒になって開発を進めていくという状況が当然のようになっています。

栗田優一さん

その際、専門的な技術や知識があるというのは必要条件であって、十分条件として差別化になるのは異文化コミュニケーション能力、言い換えれば総合的な知力や人間力です。これらは、日本国内にいて日常的な業務を行っているだけでは、なかなか身に付くものではありません。しかし、身につけておかなければ、いずれ取り残されてしまうことになってしまう。

当社も本社は東京にありますが、主力となるエンジニアはR&Dセンターなどのある群馬県に集中しています。都会ではない場所に、拠点を置いて事業を行っているわけです。ただ海外企業をみると、開発ということになるとシリコンバレー、生産では東南アジアなどが中心です。群馬県の工場にいて、そうしたところの詳しい状況を知ろうと思っても、難しい面があります。フェイス・トゥ・フェイスの状況がなかなか作れないからです。

地域的に限られた状況に置かれた一方で、顧客はどんどん海外に出て行ってしまっている。また、半導体は世界中でいろいろなモノに使われています。単にテストをする装置を作るということだけでは済まなくなっており、世の中で起きている大きな状況や流れを知っている必要があります。そのような動きに対応するには、やはり、総合的な知力や人間力を高めておかなければなりません。グローバル化された社会で企業が生き残っていくためには、そのような人材を育成していくことこそ、最重要課題だと思います。

「違い」を包容できる人こそが、次代のビジネスリーダーです

自身のキャリアの原点は「留学経験」

栗田さんは、前職の富士通時代にJAIMSへの留学経験があるそうですね。そのときの様子を聞かせていただきますか。

1973年に富士通に入社し、75年10月から76年2月まで、当時JAIMSが提供していたAMP(American Management Program)の第8期生として留学しました。参加者は11ヵ国60人。日本人が30人で、残りの30人はアメリカをはじめ、インド、インドネシア、ラオス、香港、フィリピン、オーストリア、チェコスロヴァキアなど。後に国連大使になった方やある国の首相の甥など、世界各国からさまざまなバックグラウンド持った人たちが集まってきました。特に親しくなったのは、オーストリア人の方です。後に、ハワイ大学教授、ハンブルグ大学の学部長にまでなられました。

70年代はまだ、会社としてMBAなど海外留学を制度として実施している企業は少数でした。ですから、奨学金をもらいましたが授業料は自己負担で参加し、会社は休職扱いということでした。

そこまでして、留学したいと思った動機は何ですか。

この頃は、メーカーが海外に目を向け始めた時代で、富士通もコンピュータビジネスの海外展開に本腰を入れ始めていました。ビジネスの国際化の波が、日本企業に押し寄せてきたわけです。私自身、それまでに海外研修を経験したことはありましたが、グローバル展開が進む中、もう一度、学生に戻って勉強ができる機会を考えていました。まさに時代の流れと、うまくマッチしたのかもしれません。

プログラムは、英語の勉強が半分、アメリカのマネジメントの勉強が半分といった内容でした。日本人と日本人以外の人たちが、マネジメントを共に学ぶわけです。これは貴重な体験でした。マネジメントゲームなどを行うにしても、我々日本人と彼らは考え方が全く違います。それは、日常生活や行動様式でもそう。だから、コミュニケーションの行き違いや、さまざまなトラブルが生じます。また、ルームメイトも外国人でしたから、日常的な会話も日本語ではありません。思考回路、行動様式が日本にいるときと全く異なる状況に数ヵ月間、置かれたわけです。むしろ、意識的にそういう環境へと自分自身を追い込んでいったという方が正解でしょうか。言葉はよく分からない上に、常に問題が出てくる。その度に自分一人で考え判断し、行動していかなければならない。ここでは、失敗も糧になったと思っています。

私のキャリアでは、海外関係の仕事をする機会が多くあったわけですが、JAIMSでの経験が大きく役立ちました。何かトラブルがあったときでも、なんとかして対応していこうという度胸がつきました。

そうした「人間の器」のようなものは、やはり実地経験を積まないと身に付かないものなのですね。その後、どのようなキャリアを積まれたのですか。

本社の企画部門に戻った後、ニューヨークに3年半駐在しました。帰国後、今度は財務部門に配属され、ロンドンやチューリッヒ、フランクフルトなどへ出かけて海外での資金調達を行う業務を担当しました。80年代半ばから90年代の初めにかけて、IR、当時はそのような言葉は一般化していませんでしたが、そのハシリのような仕事をしたわけです。そして、91年に半導体部門に移り、そこで3年半を過ごしましたが、日本の半導体産業がものすごく元気で、海外にどんどん進出していた時期であり、それを日本からサポートしていました。そして、富士通がイギリスとオランダにファイナンスの子会社を設立し、94年から2001年にかけては、その会社で仕事をしていました。

2001年、アドバンテストがニューヨーク証券取引所への上場を計画している時期に、ロンドン駐在から帰任し、アドバンテストへの転社へとつながりました。元々9月14日の上場を計画していたのですが、その直前に9.11テロがありました。結局、上場は9月17日に延期されたのですが、当社はニューヨーク証券取引所が再開した後の上場第1号ということになります。

富士通時代にニューヨークへ駐在した経験と、その後、海外で財務の実務に携わったグローバルなキャリアが、アドバンテストへの転社へとつながっているわけですね。

そうですね。JAIMSでの留学経験がなければ、ニューヨークへ駐在することはなかったと思います。そのように考えると、私のキャリアの原点はJAIMSにあるわけで、それが、海外で仕事をするきっかけとなったと言えるかもしれません。また、日本企業がグローバルに展開していった道筋と重なっていたのも幸運でした。そうした意味でも、JAIMSでの経験は非常に大きかったように思います。

JAIMS講師の声「JAIMSは皆さんにとってのターニングポイントになるはずです」

今後の展開について

貴社では留学経験者に何を期待されているのかについて、お聞かせください。

栗田優一さん

JAIMSへの留学派遣をグローバル化対応に向けての第一段階とすると、その次のフェーズを考えていく時期に来ています。現在、実際のビジネスで海外駐在に赴いている人が数人います。ある意味で選ばれた人たちですから、他の従業員をグローバルの方向へと引っ張っていく「ロールモデル」となることを期待しています。

90年代半ばから始めたわけですが、海外に駐在して責任を負ったポジションになりつつある人たちも多くなってきました。まさに、次世代を担うリーダーへとなりかかっている人たちです。その意味で、10数年前から投資した教育効果が一部に出ています。グローバルな人材育成という教育面でのROI(費用対効果)が、よりいっそう現れてくることを期待しています。

今後、経営戦略的には留学制度をどのような形にしていきたいと考えていますか。

現在、半導体関連産業を取り巻く経営環境には厳しいものがあります。しかし当社に限らず、企業において人材は一番の宝です。人材の育成は、力を抜くわけにはいきません。何より、国際化への対応が命題である当社ですから、JAIMSへの春・秋の留学については、今後とも続けていきたいと考えています。

また、JAIMSには世界中からいろいろなバックボーンを持った人たちを集めて、お互いに刺激し合い、勉強できる場を提供し続けてほしいと思っています。留学経験者が社内の人たちに与える波及効果が大きいし、何より、会社としての大きな「資産」となります。

当社でも年に1~2回、留学経験者が集まってコミュニケーションを図ったり、意見交換をしたりする場を設けていきたいと考えています。また、JAIMSの留学生は世界中に広がっているわけですから、そのネットワークをもっと活用することもあっていいのではないでしょうか。

私自身、若い時期に海外留学させてもらったことが、その後のキャリアに大きな影響を与えてくれました。そのときに知り合えた人たちが、一生の友人となっています。だからこそ、若い人に対してなるべく多くそういう機会を提供していきたいと考えています。

栗田優一さん

(取材は2009年10月15日、丸の内のアドバンテスト本社にて)

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この記事ジャンル 経営者育成

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