海外留学による次世代リーダー育成術 第1回
これからのリーダーに求められる「要件」とは?
変化の激しい時代だからこそ、“変革的”リーダーを育成する
グローバル化に伴う競争激化、さらにはリーマンショック後の世界同時不況など、企業を取り巻く環境が厳しさを増している。まさに、先を見通せない状況が続いているが、このような混沌とした時代においては、有能なリーダーの存在が欠かせない。企業にとっても、次世代を任せられるリーダーの育成は、重要課題のひとつ。では、現在の日本企業で、次代を担うリーダーに求められる「要件」とは一体何なのか。また、そのようなリーダーを「育成」していくには、どのような取り組みを行っていけばいいのだろうか。
→富士通が考えるビジネスリーダーとは?(第2回)
→アドバンテストの展開する「経営戦略的」人材育成術とは?(第3回)
高まる次世代リーダーに対する期待
「次世代リーダーの選抜型育成」というテーマで、産業能率大学総合研究所が、興味深い実態調査を行っている。まず、その一部を紹介していこう。調査当時、次世代リーダーの選抜型育成を実施していた企業は、約4割。「課長クラス」と「部長クラス」が主たる対象層だが、「一般社員クラス」や「階層を限定しない」という企業も一定数存在しており、必ずしも役職者にはこだわっていない。その点からも、次世代リーダーに対する企業側の期待の高さが分かる。
次世代リーダーに対する教育内容で上位を占めるのは、「経営管理知識」「リーダーシップ」「トップとの対話」など。ただ、「力量の評価(アセスメント)」「人間力の向上」「異業種交流」も3割以上の企業が取り上げており、次世代リーダーの育成に関して、企業がさまざまな取り組みを考えていることがわかる。何よりも、リーダーの優秀さ如何が企業の業績と先行きを大きく左右する。そのため、より適切にリーダーとなる人材の発掘と育成を図ろうとする機運が高まっているのであろう。(出典:学校法人産業能率大学 総合研究所「次世代リーダーの選抜型育成」に関する実態調査・2006年)
次世代リーダー教育に関する取り組みが活発化していることを理解した上で、今後、留意しておくべきなのは、経営環境が激変している現代、新たなリーダー像が求められているということ。従来のような、トップダウン型で引っ張っていくリーダーではなく、企業を取り巻くさまざまな難局を乗り越え、次なる発展へと導いていく人材が求められているのである。仕事の内容が高度に専門化される中、一人ひとりができることは限られている。皆の力を合わせ、組織を動かすことができなければ、企業間競争を勝ち抜いてはいけない。たった一人で組織全体をマネジメントする「帝王」的なリーダーは、もはや時代に合わないのだ。
いま求められるのは、明確なビジョンと、社内外に強い人脈・ネットワークがあり、周辺環境に対して柔軟に対応できるリーダーシップを持っていることである。さらに、異なる価値観や考え方を理解し、コラボレートしながら相互コミュニケーションを図っていくリーダーシップも重要視される。さまざまな課題が山積する現代にあって、今後も企業が発展していくには、変化の激しい時代を乗り切ることができる、“変革的”リーダーが求められているのだ。
次世代リーダーを育成する短期ビジネス留学プログラムを、富士通の提唱により1972年に設立された非営利教育法人「JAIMS」が、野中郁次郎所長(一橋大学名誉教授)のコンセプトに基づき提供しています。
“変革的”リーダーに求められるものとは?
まず、企業の規模や業種を問わず、リーダーに求められる「要件」を整理しておこう。
【リーダーに求められる要件】
- *自分・課題に対する能力(素養・資質)
- (1)変化対応力:状況の変化に素早く対応して、課題に取り組む
- (2)冷静さ:予期せぬ事態に直面しても、落ち着いた行動ができる
- (3)感情コントロール:どのような場合でも、感情を良好に保つ
- (4)状況把握力:置かれている状況を客観的に把握し、適切な行動を取る
- (5)責任感:任されたことは、最後まで責任を持ってやり抜く
- (6)企画力:目標を達成するための方法やアイデアを考える
- (7)戦略性:綿密な分析と方法で、計画の実効性を高める
- (8)課題発見力:課題の所在を明らかにし、必要な情報分析を行う
- (9)目標指向性:自ら目標を打ち出し、周囲を巻き込んでその達成に向かう
- (10)判断力:リスクを覚悟し、状況に応じて適切な行動を取る
- *人に対する能力(コミュニケーション能力)
- (1)傾聴力:相手の話を聴き、言外の意味を汲み取る
- (2)共感:相手の話に共感し、受け止める
- (3)公平さ:先入観を持たず、偏りなく相手を理解する
- (4)多様性の受容:多様な価値観や考え方を受け入れる
- (5)ネットワーク:内外に幅広い人脈を構築することができる
- (6)信頼関係構築:他者との間に信頼関係を構築し、維持することができる
- (7)説得力:自分の考えを論理的に伝え、相手を納得させる
- (8)協働:自らの行動によって、周囲の意識を一つにまとめていく
- (9)率先垂範:自ら率先して業務に取り組み、周囲の意識を高める
これらは、厚生労働省、文部科学省、経済産業省などが公開したものをまとめたものである。しかし、これからの企業経営を考えた場合、上記の要件だけでは不十分だと思われる。なぜなら、変化の激しい現代、リーダーとして期待されるシチュエーションは、常に大きく変わっていくからだ。次世代を担うリーダーに対して、新しく求められる「要件」には次のようなものが考えられる。
(1)異文化・グローバルへの対応力
まず、「異文化」「グローバル」は外せないキーワード。生き残りをかけた企業再編の動きは活発化し、外部からの人材の登用や海外の企業との提携などが増えている。そうした状況下で企業経営を行っていくには、異質な人材を使いこなし、さらには異なるバックグラウンドを持った人材を束ね、多様性あふれる中でマネジメントを行っていかなければならない。そこでは、「和」をもってよしとなす従来のマネジメントとは、根本的に違う発想が求められてくる。これからの時代、様々なビジネス局面においてグローバルな視点で物事をとらえる能力が必要であり、そのような環境に対応できるリーダーシップが不可欠となってくる。
(2)人間力
変革型のリーダーには、職務・職責に対する知識・技能などの「ハードスキル」と共に、実際に行動レベルで人間関係や意思疎通などを効果的に進める「ソフトスキル」が強く求められる。いわゆる「人間力」と呼ばれるものだ。このようなソフトスキルとしての人間力の向上が、これからのリーダーには欠かせない。例えば、経営判断のスピードが要求される現在では、経営理念やビジョンを受け、各部門・チームの管理者がこれらを自らの言葉に置き換え、目標・方針、そしてビジョンを示していかなければならない。まさにリーダーには、自らの言葉や態度、姿勢によってメンバーを力づけ、目標を達成していく能力が求められているのだ。それを適切に実践していくために、人間力が大きくモノを言う。
(3)教養・知力
リーダーに求められる重要な機能のひとつに、「本質を見極める力」がある。何よりも、判断が適切に行われるかどうかによって、その組織の命運が決まってくるからだ。実際、リーダーには至るところで、スピーディーに判断することが求められる。ところが、それが断片的な知識やスキルによって対処療法的に行われた場合、その判断には疑問符が付く。“拠り所”となるものが、希薄だからだ。さらに、これまでのアメリカ的な経営への傾斜の弊害や、論理分析的な経営の限界が露呈してきた現在にあって、新たな拠り所が求められてきた。それは、これまで人類が築き上げてきた哲学や歴史、宗教、文化などの「知」であろうか。実際問題として、この点が今までの日本のリーダーに弱かったのも事実。洋の東西を問わず、教養を積み、知力を鍛えていかなければならない。また、そこから導かれた原理・原則、方向性に基づいて、自社の業績はもちろん、「社会をどのように良くしていくか」という視点で考え、正しい判断をしていくことも重要だ。
(4)イノベーション(革新性)
今までは、会社の方針が決まれば、ベクトルを決めて、全員が同じ方向に走っていればよかった。しかし、マーケットは細分化し、商品のライフサイクルは短くなり、政治・経済的に何が起きるか分からない環境となってきている。こうした時代を乗り切り、持続的な成長を実現していくためには、イノベーションの創出が欠かせない。言わば、「創造的な破壊」「変革」である。目の前にあるテーマやタスクを常に問い直し、新しい発想、新しい方法で果敢にチャレンジしていくこと。そのような姿勢が欠かせないのであり、だからこそ、リーダーには自ら新しいイノベーションを起こし、時代をリードしていくことが期待されている。
(5)修羅場体験
いろいろな経験を積んでいなければ、周囲に対して説得力を持つことはできないし、応用も利かない。なぜなら、多くの「修羅場経験」を通じて、新たな知識や経験を身につけることができ、実際にそれを使っていくことで、自分の力になるからだ。それこそが、これからのリーダー像を考えた場合、より相応しい要件となってくる。マネジメント能力とは、数々の修羅場経験を積むことによって、より確かなものとなってくるのだから。
非日常的な環境下で、新しい価値観や習慣と触れる
ここまで記してきた要件を持つリーダーを育てていくには、今までのような研修スタイルやOJTのままでは、やや難しいと思われる。それこそ、修羅場経験に代表されるような高度な経験を積むプロジェクトを、意図的に作っていく必要があるだろう。
例えば、自社の社員を一定期間、普段とは全く異なる環境の中で、集中して学ばせることを考えてみてはどうか。日常から離れて自己開示を促し、異業種の参加者と共に研修生活に身を投じてもらうのだ。非日常的な環境に追い込むことで、精神がリセットされ、よりオープンでポジティブな態度をもって学習することができる。自らの課題に照らし合わせながら、新たな経営やリーダーのあり方を考えていく。普段忙しい人たちだからこそ、新しい環境に身を投じることで、短期間で集中的に効果を上げることができるのだ。
社員が学びを通じて、さまざまなものを身に付け、将来的にはリーダーとして活躍することは、企業にとって大きなメリット。そのためには、企業として、社員が研修にじっくりと取り組めるような環境や制度を作っていくことが重要だ。例えば、社員が海外へ留学する場合、当然、ある程度の期間職場を離れることになる。しかし、それが理由で社員が帰国後の仕事復帰や社内でのポジションなどについて不安になり、留学を思いとどまっているとしたら、企業にとっては大きな損失だろう。休職制度をしっかりと定めたり、帰国後もスムーズに元の職場環境に溶け込めるようにしたりするなど、さまざまな施策を設けていかなければならない。
社員が本格的に学んでいくためには、外部のリソースを活用するのも有効だ。現在では、多くの選択肢があるが、効果的なプログラムのひとつとして特に注目したいのが、JAIMSが提供する、「EWKLP(East-West Knowledge Leaders Program)」。グローバルな知の競争時代を生き抜くビジネスリーダーに求められる“イノベーション”を生み出す総合的な知力とリーダーシップ、その基盤となる広い教養と人間力を磨く、3ヵ月間の国際マネジメントプログラムだ。東洋と西洋の文化が融合したハワイという場所で、仕事とは全く切り離された状況に身を置きながら、集中的に学習できる、良質な学習環境。リーダーには欠かせないさまざまな「知識」を身につけ、物事の関係性を見抜くための「教養」を養うことができる。まさに、理想的な環境での知識創造プログラムといえるだろう。
グローバル、ダイバーシティが当たり前となっている昨今、リーダーとして一皮むけるためには、異なる価値観や習慣を持つ人との出会いが重要だ。その中で、社員は自らの使命に気づき、考え、行動し、責任を取れる、“変革的”なリーダーへと成長していく…。そして、将来的には、自社にとって欠かせない、中心的な人材となっていくはずだ。「EWKLP」の卒業生が職場に復帰した後は、その成長ぶりや活躍の姿をたびたび目にすることだろう。企業・人事部としても、その重要性や意義をぜひ実感して欲しい。
東洋の知と西洋の知が凝縮したハワイにあるJAIMSでは、様々な国の学生が経営と共に互いの文化や価値観を学び、研鑽を積んでいます。
- 第1回 MBAが全てじゃない! キャリアアップのための短期ビジネス留学
- 『日本の人事部』との連動企画として、「Daijob.com 」でも、EWKLP に関する記事を掲載中!キャリアアップのための手段であるMBAとEWKLPを比較しながら、企業の人材育成における最適なビジネス留学について、検証していきます。リーダー育成のためのヒントとして、ぜひご一読ください!
JAIMS(日米経営科学研究所)は、富士通株式会社の提唱によって、1972年にハワイに設立された非営利の教育法人。そのミッションは、相互依存が高まっているグローバル経済社会で能力を発揮できるビジネスリーダーの育成を通じて、アジア太平洋地域の人材開発と知の共創による新たなコミュニティ開発に貢献することにあります。国際的に通用する企業人の育成を目的に、経営という実践的な専門の知、グローバルな視座と広い教養、異文化間コミュニケーションスキル、そして、今日の知識社会で求められるリーダーシップを総合的に鍛える国際マネジメントプログラムを提供します。