【前編】ジョブ型人事制度:政府促進の背景や企業の向き合い方
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政府も導入を後押しするジョブ型人事制度ですが、各企業での捉え方は異なり、様々な形のジョブ型人事制度が出てきています。
本記事では、現時点で日本企業が導入しているジョブ型人事制度とはどのようなものか、その特徴を整理しつつ、政府が目指す方向性や企業がジョブ型人事制度への向き合い方について前後編で解説します。
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前編目次
・政府が促進するジョブ型人事制度の導入とは
・ジョブ型人事制度を促進する背景で政府が目指すもの
・日本企業のジョブ型人事制度の特徴
後編目次
・ジョブ型人事制度の「採用・異動・配置」への影響
・ジョブ型人事制度と賃上げ・キャリア自律の関係
・日本企業のジョブ型人事制度導入への向き合い方
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政府が促進するジョブ型人事制度の導入とは
2024年6月21日「経済財政運営と改革の基本方針2024(以下、骨太方針20242024)」が閣議決定されました。この骨太方針2024の中で、ジョブ型人事制度導入促進に関しては以下のように書かれています。
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三位一体の労働市場改革を進め、全世代を対象とするリ・スキリングの強化に取り組む。個々の企業の実態に応じたジョブ型人事制度(職務給)の導入を促進するとともに、雇用政策の方向性を、雇用維持から成長分野への労働移動の円滑化へとシフトしていく。
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(出典)内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2024
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/decision0621.html
2024年夏には、政府から、ジョブ型人事制度導入企業の多様な事例を掲載した「ジョブ型人事制度指針」が公表されました。企業のジョブ型人事制度導入を政府としてもさらに進める狙いです。
(参考)内閣府ホームページ 「ジョブ型人事制度指針」 令和6年8月28日
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/jobgatajinji.pdf
ジョブ型人事制度を促進する背景で政府が目指すもの
ジョブ型人事制度の導入促進で政府が目指すものは主に「賃上げ」と「従業員の自律的なキャリア形成」です。
1.賃上げ
ジョブ型人事制度の導入促進は、政府が提唱する三位一体の労働市場改革の一つです。三位一体の労働市場改革に含まれる「労働移動の円滑化」、「リスキリングによる能力向上支援」とあわせてジョブ型人事制度を推し進めることにより、構造的な賃上げを目指しています。
政府としては、個々の企業の人事制度ではなく、職務によって給与水準が決まることにより、どの企業に行っても、その職務に見合った給料が得られる社会を作ろうとしています。
このような社会が実現すれば、スキルを身に付け高度な職務を遂行できるようになった人材は、転職や社内異動により賃金のアップが目指せる、というのが政府の考え方です。
ジョブ型人事制度の導入、労働移動の円滑化、リ・スキリングによる能力向上支援から成る三位一体の労働市場改革を進めることで、同じ職務であるにもかかわらず、日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差を、国ごとの経済事情の差を勘案しつつ、縮小することを目指す。
(出典)内閣府ホームページ 経済財政運営と改革の基本方針2024
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/decision0621.html
2.従業員の自律的なキャリア形成
日本では、新卒採用時に職務を限定しない形での採用や、職能給によって給与を支払う企業が一般的でした。そのため、職務内容や必要なスキルを記載した職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成は広く普及していませんでした。
政府としては、職務記述書を作成し、職務ごとに要求されるスキルが明らかになることで、従業員が自律的に希望の職務を目指し、リスキリングを行うようになることを期待しています。
働き方は大きく変化している。「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきた。職務(ジョブ)ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である。
(出典)内閣府ホームページ 経済財政運営と改革の基本方針2024
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/decision0621.html
日本企業のジョブ型人事制度の特徴
現在、ジョブ型人事制度には統一的な運用があるわけではなく、各企業によってその解釈は異なるため、日本企業におけるジョブ型人事制度を明確に定義することは困難です。
次の表では、日本企業のジョブ型人事制度を2つにタイプ分けしました。
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*ジョブサイズ・・・職務ごとに、一定の基準に基づいてその役割、責任を点数化したもの
※本表は内閣府が発表した「ジョブ型人事制度指針」掲載の20社を調査し、ジョブ型人事制度を掲げる企業に多く見られる特徴を筆者が抽出したもの。ジョブ型人事制度は各企業で解釈や制度が異なり、上表の分類が必ずしもジョブ型人事制度を掲げる企業のすべてにあてはまるものではない(「ジョブ型人事制度指針」に掲載されている企業にもあてはまらないケースもある)。
※職務記述書を全ポジションで作成し、各ポジションにジョブサイズを設定している(何らかの基準で数値を設定している)場合はタイプBに分類。職務記述書があってもポジションごとに作成していない、またはジョブサイズの設定がない場合はタイプAに分類。
●非ジョブ型人事制度
非ジョブ型人事制度では、職務記述書がありません。中途採用の求人票や社内公募制を実施するうえで、一部の職務について、職務記述書に近いものを作成していることもありますが、それ以外の目的で職務記述書は作成されていません。
そのため、給与制度の基準となるものは、人に対して設定された能力や役割であり、これが現在も日本企業で広く導入されている職能給や役割給です。
●ジョブ型人事制度(タイプA)
ジョブ型人事制度(タイプA)では、職務記述書の作成が行われています。ただし、ジョブ型人事制度の導入・職務記述書の作成を管理職層に限定しているケースもあります。
職務記述書の粒度は、職種単位、部署単位、課単位と企業によって様々ですが、中途採用や社内公募制以外の目的をもって、職務記述書が作成されます。職務記述書は主に異動、配置や昇降格の基準として使用されたり、キャリア自律や人材育成施策において活用されたりしています。
そして給与制度については、職務に対して格付けをした役割等級によって決められます。この役割等級はジョブグレードとも呼ばれます。
このジョブグレードを設定する際の基準になるのが職務記述書であり、あくまで職務に対して格付けをするというのが、日本企業のジョブ型人事制度における職務基準の役割等級の考え方です。
給与制度はこの等級が基準となるので役割給と言えますが、職務基準で等級が設定されているため職務給と呼ばれることもあります。役割給と職務給を明確に区別するのは難しいのが現状です。
非ジョブ型人事制度との違いは、職務記述書が網羅的に作成されていること、職務の役割に応じた等級を基準に給与が決められることです。
●ジョブ型人事制度(タイプB)
ジョブ型人事制度(タイプB)は、日本以外の諸外国とかなり近い形と言えます。タイプAとの違いは、全ポジションで職務記述書を作成していること、ジョブサイズによって職務を数値化していることです。
ジョブサイズとは、職務ごとに一定の基準に基づいてその役割や責任を点数化したものを指します。
(職務の点数化の例)
・知識・・・200
・経験・・・300
・問題解決力・・・300
・成果達成責任・・・200
ジョブサイズ・・・計1,000
このジョブサイズにレンジを設けて等級化したものが、給与を決める基準となります。
後編に続きます。
- 経営戦略・経営管理
- モチベーション・組織活性化
- 人事考課・目標管理
- キャリア開発
- マネジメント
WHI総研
政府系金融機関にて財務分析や融資相談、調査会社にて市場調査・企業誘致調査を行い、様々な企業を見てきた経験を活かし、Works Human Intelligenceにて経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決する研究活動を行っている。
井上 翔平(イノウエ ショウヘイ) 株式会社Works Human Intelligence / WHI総研
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