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【前半】レジリエンス─感情統制フレームワークによる心の回復

本記事は前後編の前編となっております。
後編となる「
【後半】レジリエンス─感情統制フレームワークによる心の回復」は、
以下のコラム一覧からお読みください。
https://jinjibu.jp/spcl/wcl-nagamine/cl/

0.本記事のまとめ

  • レジリエンスとは、単なる「我慢」や「根性」ではなく、逆境に直面しても「竹のようにしなやか」に回復し、その経験を通じて成長する力を指します。

  • 感情統制においては、感情を無理に抑え込むのではなく、「今、自分はこう感じている」とありのまま客観的に気づくこと(マインドフルネス)が重要です。この「気づく力」が感情に飲み込まれないための土台となります。

  • マインドフルネスを鍛える手法として、以下の2つの瞑想が有効です。

    1. 集中瞑想: 逸れた意識を呼吸に戻すことで、自動的な反応に流されない「脳の筋力」を養う。

    2. 観察瞑想: 思考や感情に名前をつける(ラベリング)ことで、一歩引いた視点から冷静に自分を眺める力を養う。

  • ※後編では、上記のような感情の理解が終わった後、具体的にどのような方略をとれば良いのか、ご説明します。

1.はじめに : なぜ今、ビジネスの世界でレジリエンスが求められるのか

厳しいフィードバックに落ち込み、次の挑戦が怖くなる。 プロジェクトの失敗を引きずり、パフォーマンスが上がらない。 急な組織変更や役割の変化についていけず、心が疲弊してしまう──。
こうした経験=心理的困難は、現代のビジネスパーソンにとって、決して他人事ではないのではないでしょうか。
仕事の進め方がわかっていても、心理的困難を乗り越えられなければ、成果につながっていきません。たとえば、次のような心理的困難が起きがちです。

 

 

これらは、決して一部の特別な人にだけ起こる問題ではありません。むしろ、多くのビジネスパーソンが日々の業務の中で直面している、普遍的な課題と言えるでしょう。
このような一つひとつの心理的困難は、本人のパフォーマンスや働きがいを低下させるなどの影響を及ぼします。

そして、こうした個人の課題は、今や組織全体にとって無視できないテーマとなっています。従業員の心が折れてしまえば、生産性や創造性は低下し、優秀な人材の離職にもつながりかねません。人的資本経営が重視される中、従業員一人ひとりが逆境を乗り越え、変化に適応していく力は、企業の持続的成長を支える基盤そのものとも言えるかもしれません。
その鍵を握るのが、本稿で解説する「レジリエンス」です。
レジリエンスは、単なる「我慢強さ」や「気合い・根性」といった精神論ではありません。それは、誰もが学び、高めることができる実践的なビジネススキルです。
本稿では、レジリエンスの本質を解き明かすとともに、従業員一人ひとりが自らのパフォーマンスを高める具体的な方法論を、心理学の理論に基づき体系化した方略で分かりやすくご紹介します。個人のレジリエンス向上こそが、ひいては変化に強い組織づくりの第一歩となるでしょう。

 

1. レジリエンスとは何か?―「我慢」や「気合い・根性」との決定的な違い

 

1-1. レジリエンスの定義:学術的研究から導かれた「しなやかな回復力」

 

「レジリエンス」という言葉は、近年ビジネスシーンでも注目されていますが、元々は心理学の分野で長年研究されてきた学術的な概念です。

その定義は、多くの研究者たちの知見によって形作られてきました。例えば、Masten(1990)やRutterら (2007) は、レジリエンスを「困難あるいは脅威的な状況にもかかわらず、うまく適応する過程や能力」と捉えました。これは、ハイリスクな状況下でも、人がいかにして肯定的な機能を維持するかという点に着目したものです。
さらに、日本の小塩ら(2002)や無藤ら(2004)の研究では、「一時的に心理的に不健康な状態に陥っても、それを乗り越え、回復できるという個人の心理的な弾力性」という側面が強調されています。
そして、レジリエンスの理解をさらに深める上で極めて重要なのが、Grotberg(1999) が指摘した「成長」という側面です。レジリエンスは、単に元の状態に「回復する」だけでなく、その逆境経験を通じて「強化され、変容される力」でもあるのです。
これらの学術的知見を統合すると、レジリエンスとは、心理的困難や逆境を乗り越えて回復し、さらにはその経験を通じて成長する力と言えます。さらには、後述するように、この力があると、ストレスをパフォーマンスにも変えることも可能となります。

 

1-2. 誤解されがちなレジリエンス:「気合い」や「根性」との違い

 

こうした学術的な背景から、レジリエンスが単なる精神論ではないことがわかります。しかし、しばしばレジリエンスとは「我慢強さ」や、「気合い・根性」でどうにかなるものであるとまだまだ思われがちな部分もあるのが事実です。


レジリエンスは、感情を押し殺して痛みに耐え忍ぶ「我慢」や、意志の力だけで困難をねじ伏せようとする「気合い・根性」とは根本的に異なります。
むしろ、自分の「つらい」「悲しい」といった感情や心身の状態を否定せず、まずはそれを適切に認識し、認めることから始まります。困難な現実から目をそむけずに、ありのままの自分を受け止めた上で、しなやかに対処する力がレジリエンスです。

その本質は、どんな衝撃にもびくともしない「鋼のような硬さ」ではありません。鋼は硬いですが、限界を超えた力がかかると、ポキリと折れてしまいます。そうではなく、研究者たちが「心理的弾力性」と呼ぶような、風に吹かれても折れずにしなり、元に戻る「竹のようなしなやかさにこそあるのです。
では、この「しなやかに乗り越える力」を育むためには、何から始めれば良いのでしょうか。その第一歩は、心理的困難の原因となっている自分自身の「感情」と、うまく付き合っていくことにあります。
ここでいう付き合い方とは、感情を無理に抑え込むことではありません。むしろ、感情が持つ本来のエネルギーを、自分にとって好ましい方向に作用させる「感情の統制力」を身につけることです。
次の章では、このレジリエンスを発揮するための土台となる「感情の統制力」について、詳しく見ていきましょう。

 

2. 感情統制の前段「感情の理解」とマインドフルネス

 

2-1 「感情の理解」とマインドフルネス

 

私たちの心は、外部からの刺激(出来事)があると、半ば自動的に何らかの反応(思考や感情)を起こします。例えば、批判されればカッとなったり、失敗すれば落ち込んだりするのは、ごく自然な心の動きです。
感情の統制の第一歩は、この「自動的な心の反応に、ありのまま気づく」こと、すなわち、「感情を理解すること」から始まります。良い・悪いの判断を加えず、「ああ、今自分は腹が立ったな」「不安を感じているな」と、ただ客観的に自分の状態を認識すること。この「気づく力」がなければ、感情に飲み込まれ、回避的な行動や衝動的な行動をとってしまいがちです。
この「気づく力=感情を理解する力」を鍛える上で、非常に有効なのがマインドフルネスです。

マインドフルネスとは、「意図的に、今この瞬間に、評価や判断を加えることなく注意を向ける」という心のトレーニングです。これを実践することで、私たちは自分の思考や感情に振り回されるのではなく、それらを一歩引いたところから冷静に観察できるようになります。
まずはマインドフルネスを通じて、自分の内側で何が起きているかに気づく練習をすること。それが、感情に溺れることなく、次の行動を選択するための安定した足場、すなわち「感情の統制力」の土台を築くことになるのです。この土台があって初めて、統制のための方略に進むことができます。
では、この自分の内側で何が起きているかに気づく練習をするマインドフルな状態はどのように作ることができるのでしょうか。ここで「マインドフルネス特性」という言葉をご紹介しましょう。これは、普段からマインドフルでいられるかどうかの傾向のことを指します。この特性を高めることが、自分の内側で何が起きているかに気づく状態(=マインドフルな状態)を作るために必要な特性になります。この特性を高めるには、マインドフルな状態を繰り返し作ることが有効であると言われています。このマインドフルな状態を繰り返し作るには、「マインドフルネス瞑想」が使えるのです。

 

2-2 マインドフルネス瞑想

マインドフルネス瞑想には様々な種類がありますが、ここでは「気づく力」を高める上で基本となる「集中瞑想」と「観察瞑想」の2つをご紹介します。

1.集中瞑想

集中瞑想とは、注意がそれてしまうという心の自動的な反応に、その都度「気づき」、注意を本来の対象に「そっと戻す」ことを繰り返し実践するトレーニングです。この練習を通じて、私たちは自動的な反応に飲み込まれず、意識を自分の向けたいところに向ける力を養います。

  • 姿勢:椅子に座っても、床にあぐらをかいても構いません。大切なのは、背筋を軽く伸ばし、肩や首など体の余計な力を抜いてリラックスすることです。目は軽く閉じるか、1メートルほど先の床をぼんやりと見る半眼にします。

  • 呼吸:呼吸はコントロールしようとせず、普段通りの自然な鼻呼吸を続けます。

  • :意識を、呼吸に集中させます。例えば、鼻の入り口を通る空気の感覚や、お腹が膨らんだり縮んだりする感覚など、注意を向ける対象を一つに定めます。
    しばらくすると、必ず考え事が浮かんだり、物音が気になったりして、意識が呼吸からそれてしまいます。それはごく自然なことです。意識がそれたことに気づいたら、「意識がそれてしまった自分はダメだ」というふうに自分を責めずに「あ、考え事をしていたな」と認め、そっと注意を呼吸に戻します。この「それたことに気づき、ただ戻す」という繰り返しが、自動的な反応に飲み込まれず、意識を自分の向けたいところに向ける力を鍛える脳の筋力トレーニングになるのです。

2.観察瞑想

観察瞑想は、自分の心や体に生じる様々な変化に「気づき」、それらに振り回されない力を養うトレーニングです。この練習を通じて、私たちは思考や感情に飲み込まれることなく、それらを客観的に眺めることで、心の動きに振り回されない力を養います。

  • 姿勢と呼吸:集中瞑想と同じように、背筋を伸ばし、リラックスできる状態を保ちます。呼吸も自然な鼻呼吸を続けます。

  • :集中瞑想と違うのは、意識を一つの対象に固定しない点です。ここでは、自分の心や体に浮かんでくるあらゆる感覚を、ただありのままに観察します。
    このとき有効な1つの方法として「ラベリング」という手法があります。例えば、足に痒みを感じたら、心の中で「痒み」、過去の失敗を思い出したら「過去」、未来への不安がよぎったら「不安」と、まるで実況中継のように、湧き上がってきた感覚に名前をつけていきます。
    ラベリングをすることで、私たちは思考や感情に飲み込まれるのを防ぎ、それらを客観的な観察対象として扱うことができるようになります。これが、自分の心の動きに振り回されないための重要なトレーニングとなるのです。

このように、集中瞑想と観察瞑想はアプローチこそ異なりますが、どちらも感情統制の前段として不可欠な「感情の理解」を深めるためのトレーニングであると言えます。


重要なのは、思考や感情を消し去ったり、無理に変えようとしたりするのではなく、まず「今、自分の内側で何が起きているか」を客観的に、そして正確に把握することです。この「感情の理解」があって初めて、私たちは次章で解説する具体的な方略へと、効果的に進むことができるのです。
では、その「感情の統制」の前段となる、「感情の理解」をした上で、具体的にどのような方略をとれば良いのか、次の章で詳しく見ていきましょう。

 

本記事は前後編の前編となっております。
後編となる「【後半】レジリエンス─感情統制フレームワークによる心の回復」は、
以下のコラム一覧からお読みください。
https://jinjibu.jp/spcl/wcl-nagamine/cl/

このコラムを書いたプロフェッショナル

長峰 悠介

長峰 悠介
株式会社働きごこち研究所 代表取締役

日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。

日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。

得意分野 モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決
対応エリア 全国
所在地 千代田区

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