【後編】衝突を恐れないアサーティブなフィードバックとは
本記事は前後編の後編となっております。
前編となる「【前編】衝突を恐れないアサーティブなフィードバックとは」は、
以下のコラム一覧からお読みください。
https://jinjibu.jp/spcl/wcl-nagamine/cl/
0.本記事のまとめ
- ※前半では、フィードバックの定義とその難しさ、一般的なアサーションの定義について解説しました
- ビジネスにおいては、単に率直に伝えるだけでなく、目的達成のために「何を・いつ・どう伝えるか(あるいは伝えないか)」を戦略的に選択する機能的アサーションが必要である
- その実践のための3つのアプローチは以下のようなものである。
- マインドフルネス: 刺激に対して自動的に反応せず、一呼吸置いて冷静に言葉を選ぶ。
- ジャーナリング: 感情を紙に書き出して不安を具体化し、フィードバックの内容を客観的に整理する。
- Will + Must: 「自分の意志(Will)」と「役割としての責任(Must)」を両立させた、目指すべきゴールを設定する。
- これらによって、個人の成長が促されるだけでなく、組織の心理的安全性を高め、双方向のフィードバックが当たり前になる文化が醸成されることが期待できる。
1. 新時代のアサーションスキル
新しいアサーションのあり方:機能的アサーション
従来のアサーションは、「自分の意見を率直に伝えること」に重点を置いていました。しかし、新しいアサーションでは、「伝えるかどうか」も含めて、機能的に選択すること が重要になります。これが「機能的アサーション」と呼ばれる考え方です。
「伝える」か「伝えない」かの二択ではなく、「何を、どのように、どのタイミングで伝えるのが最も効果的か?」 を考えることこそが、本当の意味でのアサーティブなフィードバックにつながります。
この機能的アサーションを効果的に実践する方法が下図の3つをポイントとしたアサーティブフィードバックスキルです。
曖昧かつ自動的な思考から脱却する→マインドフルネスの活用
アサーティブなフィードバックを実践するうえで、自分自身の感情を適切に扱うことは極めて重要です。特に、感情的になっているときにフィードバックを行うと、攻撃的になったり、必要以上に配慮しすぎたりしてしまうことがあります。
私たちは普段、無意識のうちに目の前の出来事や相手の言動に反応し、自動的に思考や感情を巡らせています。「相手がこんなことを言ったから、きっと○○に違いない」と決めつけたり、「こう言わなければならない」と焦ったりすることもあるでしょう。こうした曖昧で自動的な思考に流されると、適切なフィードバックが難しくなります。
そこで役立つのがマインドフルネスです。マインドフルネスとは、「今この瞬間に意識を向け、評価や判断をせずに、あるがままを受け止めること」です。これをフィードバックの場面に活用すると、相手の言葉や態度によって即座に感情的になったり、無意識のバイアスで判断したりせず、一度立ち止まって適切な言葉を選ぶことができます。つまり、「刺激に対して自動的に反応する」のではなく、「刺激に気づき、意識的にアクションを選ぶ」ことができるのです。
例えば、マインドフルネスを活用したフィードバックの実践には、次のようなポイントがあります。
-
相手の言葉を途中で遮らず、最後まで聞く(マインドフル・リスニング)
「次に何を言うか」を考えながら聞くのではなく、「今、相手が何を伝えようとしているのか」に集中することで、的確なフィードバックにつながります。 -
自分の言葉を選びながら、意識的に伝える(マインドフル・スピーキング)
感情に流されるのではなく、「今、何を伝えるべきか」に注意を向けることで、冷静かつ適切な表現を選ぶことができます。例えば、相手に対して不満を伝える際も、感情的にならず、「私はこう感じている」と事実と感情を整理して伝えることができるようになります。 -
「今、この場にいる」ことを意識する
フィードバック中に別のタスクを考えたり、過去の出来事にとらわれたりせず、「今、この対話に集中する」ことで、より建設的なコミュニケーションが可能になります。
このように、マインドフルネスを活用することで、フィードバックの質が向上し、相手との信頼関係も深まります。
不安を適切に具現化する→ジャーナリング
感情に流されず、冷静にフィードバックを行うためには、「一呼吸置く」習慣を持つことが効果的です。特に、フィードバックの場面では、不安や緊張から必要以上に遠慮したり、逆に感情的になったりすることがあります。こうした状況では、自分の気持ちや考えを整理することが重要ですが、それを助ける手法の一つがジャーナリングです。
ジャーナリングとは?
ジャーナリングとは、自分の考えや感情を紙に書き出すことで、頭の中の混乱を整理し、自己理解を深める手法です。特に、不安やモヤモヤとした感情を言語化することで、客観的に自分の状態を見つめ直し、冷静な判断がしやすくなります。
私たちは、不安を感じると頭の中でぐるぐると同じことを考え続けてしまうことがあります。これは「反芻思考(rumination)」と呼ばれ、ネガティブな感情を増幅させる要因になります。しかし、ジャーナリングを行うことで、漠然とした不安を具体的な言葉にすることができ、その結果、「何に不安を感じているのか」「実際に起こりうる問題は何か」といった点を整理できます。
フィードバックの場面でのジャーナリングの活用
フィードバックを行う前に、次のようなステップでジャーナリングを行うと、より建設的なコミュニケーションが可能になります。
-
今感じていることをそのまま書き出す
例:「このフィードバックを伝えることで、相手が嫌な気持ちにならないか心配だ」「このまま伝えると、強く言いすぎてしまうかもしれない」 -
その不安がどこから来ているのかを探る
例:「前回フィードバックをしたときに、相手が落ち込んでいた」「自分が厳しく言いすぎた経験がある」 -
フィードバックの目的を明確にする
例:「相手を傷つけることが目的ではなく、成長を促すために伝えるのだ」 -
どんな言葉を使うか整理する
例:「『○○ができている点はとても良い。ただ、△△の部分を改善するとさらに良くなると思う』のように、肯定的な要素も含めて伝えよう」
このように書き出すことで、不安に流されるのではなく、「伝えるべきことは何か」に意識を向けることができます。
ジャーナリングの科学的エビデンス
ジャーナリングの効果は、心理学の研究でも証明されています。たとえば、心理学者のジェームズ・ペネベーカー(James Pennebaker)の研究によると、感情を紙に書き出すことはストレス軽減や自己調整能力の向上につながることが明らかになっています。さらに、ジャーナリングはワーキングメモリの負担を減らし、問題解決能力を高める効果があるとも言われています 5)。
また、ジャーナリングはメンタルヘルスの改善にも寄与します。認知行動療法(CBT)のアプローチでは、「自動思考(無意識に浮かぶ思考)」を可視化し、より合理的な考え方へと変えていく手法が用いられます。ジャーナリングを通じて「私はこう思っているが、本当にそうだろうか?」と自分に問いかけることで、より客観的で建設的なフィードバックが可能になります。
フィードバックの質を向上させるために、次のような習慣を取り入れると効果的です。
-
フィードバック前に3分間、感じていることをノートに書き出す
-
「なぜこのフィードバックを伝えたいのか?」と問いかけながら整理する
-
実際に伝える言葉を紙に書き、口に出して読んでみる
このようにジャーナリングを活用することで、不安や感情に流されず、相手にとって意味のあるフィードバックを行うことができるようになります。
目指すべき状態を考える→Will+Must
フィードバックを行う際、「どう伝えるか」だけでなく、「何を目指して伝えるのか」を明確にすることが重要です。言うべきかどうか迷ったとき、あるいは感情的になりそうなときには、一度立ち止まり、自分がどのような状態を目指しているのかを整理することで、より効果的な選択ができるようになります。そのためのフレームワークとして有効なのが Will + Must です。
Will とは、「自分がどうありたいか」「どんな価値観を持っているか」という個人的な意志を指します。一方、Must は、「自分の役割として求められていること」「果たすべき責任や義務」を意味します。
フィードバックの場面では、この二つの視点がしばしば対立します。たとえば、部下に厳しいフィードバックをするべきかどうか迷ったとき、次のようなジレンマが生じることがあります。
-
Will(個人的な意志):「部下と対立したくない」「できれば関係を悪化させたくない」
-
Must(求められる役割):「部下には成長してもらう必要がある」「適切なフィードバックをしなければならない」
このとき、どちらか一方に偏るのではなく、WillとMustの両方を満たす形で目指すべき状態を考える ことが大切です。
たとえば、
「相手と対立を避けながら指摘をして、部下が成長する」
という状態を目指すことで、感情的になって攻撃的なフィードバックをしてしまったり、逆に遠慮しすぎて言うべきことを言えなかったりすることを防げます。
Will+Mustを考えた結果、「今回はあえて言わない」という選択をすることもあります。ただし、重要なのは、回避ではなく意図的な選択であること です。
例えば、
× 「面倒だから、言うのをやめよう」(回避的な選択)
○ 「今は言わないほうが相手の成長につながるから、あえて伝えない」(意図的な選択)
同じ「言わない」でも、前者はただの回避であり、後者は状況を冷静に判断したうえでの決断です。後者のような「意図的に言わない選択」ができるようになることで、自分の価値観と役割のバランスを取りながら、長期的に良いフィードバックを行うことが可能になります。
Will+Mustを実践するためのポイント
-
まず自分のWillを明確にする
-
「私はどうしたいのか?」
-
「この状況で大切にしたい価値観は何か?」
-
-
次にMustを考える
-
「自分の役割として何が求められているのか?」
-
「チームや相手の成長のために、本当に必要なことは何か?」
-
-
WillとMustを両立できる目指すべき状態を考える
-
「どのように伝えれば、対立を避けながらも効果的にフィードバックできるか?」
-
「言うべきかどうか迷ったとき、何を基準に判断すればよいか?」
-
2. フィードバックスキルが組織文化を醸成する
ここまで見てきたように、フィードバックは単なるテクニックではなく、「伝え方」ひとつで相手の受け止め方や行動が大きく変わります。特にアサーションの視点を取り入れることで、伝える側と受け取る側の双方が前向きな関係を築き、成長につながるフィードバックが可能になります。
では、この「アサーティブなフィードバック」が職場に根付くと、組織全体にどのような影響をもたらすのでしょうか?
フィードバックが適切に行われる環境では、個人の成長が加速するだけでなく、チームの心理的安全性が高まり、意見を言いやすい風土が生まれます。すると、問題解決が早まり、チームの生産性が向上します。さらに、こうした文化が根付いた組織では、上司から部下への一方的なフィードバックにとどまらず、同僚同士、さらには部下から上司へのフィードバックも活発になり、双方向のコミュニケーションが当たり前になります。
これは単なる人材育成にとどまらず、組織開発そのものです。アサーティブなフィードバックを継続することで、意見が言いやすく、学び合いのある企業文化が醸成されていきます。結果として、組織全体が柔軟かつ適応力の高いものへと進化し、個人の成長と組織の成長が相互に促進される状態が生まれるのです。
フィードバックを「スキル」として習得することは大切ですが、それを「文化」として根付かせることこそ、強い組織をつくる鍵となります。だからこそ、今こそアサーションを活かしたフィードバックを実践し、組織の未来をより良いものにしていきませんか?
3. エビデンス : アサーション研修の効果
アサーションを取り入れたフィードバックが、個人の成長だけでなく組織全体の文化へとつながることを見てきました。しかし、「理論として理解する」だけではなく、「実践できる」ようになることが重要です。
研究データでも、アサーティブなフィードバックの効果は明らかになっています。例えば、Rogelberg(2016)の組織心理学研究では、アサーティブなフィードバックを受けた従業員の職場満足度が向上し、離職率が低下することが示されています 6)。また、Grant & Ashford(2008)は、アサーティブなフィードバックを受けた従業員がより積極的な行動を取る傾向にあることを発見しました 7)。
さらに、弊社のアサーション研修を受講された方々の声として、以下のような変化が報告されています。
-
「なんとなく考えていたことが言語化され、自己認識が深まる良い機会になった」
-
「マインドフルネスやコミュニケーションの実践練習もあり、とても有意義だった」
-
「難しいテーマだったが、フレームワークが整理されており、思考プロセスを体感的に理解できた」
-
「グループディスカッションや個人ワーク、瞑想タイムなど演習が豊富で、3時間があっという間だった」
-
「指摘を受けた際に『自分への否定ではなく、事象への指摘』であるとフラットに受け止める難しさを実感した」
-
「ジャーナリングの演習を通じて、自分の思考パターンに気づき、適切なフィードバックを考えられるようになった」
-
「日常の中で学んだスキルを意識せずに活かせる場面が増えたと実感した」
このように、アサーション研修は単なるスキル習得にとどまらず、受講者の内面的な変化を促し、結果的に職場のコミュニケーションや組織の文化を変革していく効果が期待できます。
4. まとめ
この記事では、以下のような重要なポイントを学びました。
フィードバックの重要性
-
フィードバックは単なる評価ではなく、相手の成長を促すための重要な要素。
-
フィードバックの適切なプロセスと心理的影響を理解することが不可欠
効果的なフィードバックの手法
-
フィードバックを成功させるための5つのステップ(事前準備、信頼感の確保、事実通知、問題行動の腹落ちし、事後フォロー)。
-
6つの代表的なフィードバックフレームワーク(サンドイッチ型、ペンドルトン型、SBI型、KPT型、FEED型、DESC法)。
フィードバックが難しい理由
-
フィードバックには心理的なバリアが存在し、適切な方法を知らないと相手が防衛的になってしまう。
-
日本の文化的背景では、対立を避ける傾向があり、フィードバックをためらうことが多い。
アサーションの活用
-
アサーションとは「自分の意見を率直に伝えつつ、相手の意見も尊重する」コミュニケーションスキル。
-
フィードバックをアサーティブに行うことで、相手が受け入れやすく、信頼関係を損なわずに成長を促すことができる。
-
フィードバックの「伝え方」を工夫することで、単なる指摘ではなく、相手のモチベーション向上につながる。
-
自動思考に流されず、「伝える」「伝えない」を選択したり、伝えるならば、「いつ、どのように伝えるべきか」を考えるためには、マインドフルネスやジャーナリングの活用も有効。
このコラムを書いたプロフェッショナル
長峰 悠介
株式会社働きごこち研究所 代表取締役
日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。
長峰 悠介
株式会社働きごこち研究所 代表取締役
日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。
日本電気株式会社を経て、株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズやメンタルヘルス関連サービス企業でのマインドフルネス講師、法人研修開発に従事。
現職でも、大手メーカーなどに向けたレジリエンス/アサーション研修に多く登壇。
| 得意分野 | モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション、ロジカルシンキング・課題解決 |
|---|---|
| 対応エリア | 全国 |
| 所在地 | 千代田区 |
このプロフェッショナルの関連情報
- 無料
- WEBセミナー(オンライン)
「アサーション研修」体験講座 ~言いづらい心理への向き合い方から体系的に学び、実践力を身につける~
開催日:2026/01/28(水) 13:00 ~ 16:00
- 参考になった0
- 共感できる0
- 実践したい0
- 考えさせられる0
- 理解しやすい0
無料会員登録
記事のオススメには『日本の人事部』への会員登録が必要です。