第二回:社員満足度_エンゲージメント調査の落とし穴
ホワイトカラーの生産性向上と要員計画を両立させる、といった取り組みは各社各様で取り組んでおられるかと思う。
その取り組み効果を十分に回収できないまさに「落とし穴」がある。その落とし穴について紹介したい(第二回)。
ホワイトカラーの生産性向上、要員計画の両立をわれわれはPOP(ポップ)(peak organizational performance)とネーミングし、取り組んでいる(POPは、㈱エイチ・ピィ・ピィ・ティと、EYアドバイザリー㈱の共同で開発された、「ホワイトカラーの高いエンゲージメントを実現する要員計画・運用技術」)
今回の第二回では、満足度やエンゲージメントに触れつつ、そもそもホワイトカラーとは?という観点にも言及
した内容となっている。
【第二回:社員満足度_エンゲージメント調査の落とし穴】
※日本の人事部サービス紹介ページ (http://jinjibu.jp/service/detl/11716/)にPDFとして掲示中
1.会社・組織の「定期健康診断」
会社・組織の「定期健康診断」という位置付けで、人事部もしくは労働組合にて「社員の満足度調査」を実施している企業も多いのではないでしょうか。
一般的には、会社の各種施策(評価制度や福利厚生等)や、労働環境等に対する社員の理解度や満足度を社員の意識調査として定期的に実施し、諸施策の有効性の検証などに用います。また、定期的に「診断」することで時系列による比較が可能ということから継続的に調査を行うことも多いのではないでしょうか。
以下ではまず、この定期的な健康診断を「社員満足度調査」で実施することが、果たして本当に知りたい(特に人事部、会社として)ことを導き出す手段となっているのか、という点について述べていきます。
2.社員の「満足度」を調査すべきなのだろうか
誤解を与えるかもしれませんが、「満足度」が高いことが果たして組織や会社にとっても良いことなのでしょうか。
一見「社員が満足しているという状態は、組織や会社に対して好意的な状態であり、社員の定着などに効果的なのではないか」という見方があることは想像に難くありません。しかし、以下のような考え方もできます。
例えば、ある企業の組織責任者とのディスカッションの事例をあげさせていただきます。社員の満足度調査の結果として、社員の満足度は高いという結果が得られました。しかし、組織責任者としては、「事業の成長が芳しくない、社員に活気が無い」といった実態との乖離に問題意識をもっていました。そこにはいったいどのような要因が考えられるのでしょうか。
「満足度」の実態について見えてきたことは、社員が「自分の慣れた仕事、自分のコントロールできる範囲で仕事ができている」ことに満足している、という状況でした。そのような仕事に従事していると自分へのストレスなどは大きく無く、融通も利きやすいため満足している、ということです。
実態という意味では、組織・会社として対象組織の社員に、事業成長に資するような期待している役割や仕事が正しく認識されていない、付与できていない、という側面もあったと推察されますが、結果的に社員の「自分本位の満足度」となってしまっていたのです。
本来、組織や会社としては、社員が期待する役割や仕事に従事し期待する成果を発揮している状態で、「満足度」を高めていきたいはずです。
満足度調査の目的にもよるかもしれませんが、上記のような「社員満足度調査」の調査結果と実態の認識の誤差に意外にも気付くことなく、会社や人事部として「現状で大きな問題がない」という認識をしてしまったとすると、本来組織や会社として検討すべき課題が見過ごされてしまっている、ということもあるのではないでしょうか。
3.「エンゲージメント調査」とは
「社員の満足度を向上させる」という観点からより業績向上に資するものとしてエンゲージメント調査が注目されるようになりました。エンゲージメントを高めることが企業の業績向上につながる、というデータ[1]も複数みられることから「エンゲージメントを高める」ということに興味関心はシフトしているようです。
エンゲージメントは、「仕事に対してポジティブで充実した精神状態、仕事に没頭している状態」と表現されることがあります。
そしてここにも前述の「満足度」と同様、留意が必要なポイントがあります。つまり、「仕事に没頭している」という状態についても二つのパターンがある点です。
ひとつは、「仕事にポジティブで充実している、没頭している状態」が、「自分ができる範囲、やりたい仕事のみに従事している」ということから実現されている場合があげられます。もうひとつは、「組織のビジョンや使命に共感しており、会社・組織から自分に対する期待役割を認識した上で、その仕事にポジティブで充実している、没頭している状態」があげられます。
前述の社員の満足度について述べたように、前者は「自分本位」という点において、会社や組織が高めたいエンゲージメントではないのではないでしょうか。
4.これからの「エンゲージメント調査」への提言
【対象者について】
昨今、多くの企業が企業のライフサイクルにおける「成熟ステージ」にある中、企業の持続的成長に向けた一段階上位のステージへの飛躍が求められています。(そのスピード感も増すばかりです)
そのような環境下において、「より競争優位性にエッジをたてる」ということに焦点を絞るという観点から、エンゲージメントを高める対象を「全社員」という見方から、より絞り込むという考え方もあります。いわゆる総合職の中でも、「より会社・組織として高い役割を期待している(つまり、前述の一段階上位ステージに押し上げていくことを期待)、自分としても意識が高い、パフォーマンス水準も高い上位層(ここでは「アドバンスドホワイトカラー」という)」のエンゲージメントを高めるということです。
そのためにはまずは会社・組織にアドバンスドホワイトカラーと言える(少なくともそのような期待を意識している)社員がどれくらいいるのか、を把握した上で、会社・組織として彼・彼女らのエンゲージメントを高める、それが企業としての競争優位性をより高めていく、ということになります。
以下はアドバンスドホワイトカラーとしての熟度を高めるとともにエンゲージメントを高めることを図示したものです。横軸を成長の時間軸、縦軸を会社・組織から期待する役割としています。二つに分かれていますが、下側のエンゲージメントが前述の「自分本位」、会社・組織として高めていきたいエンゲージメントではありません。会社・組織としては、やはり上側のアドバンスドホワイトカラーとしての熟度を高め、かつエンゲージメントを高めていくことが求められます。
また、留意いただきたい点は、二つの分岐点が成長の時間軸の早い段階にあるのではないかということです。アドバンスドホワイトカラーとしての仕事を付与し、役割としても認識し、その上でエンゲージメントが高い状態にもっていくことが重要です。
Figure1:アドバンスドホワイトカラーと二つのエンゲージメント
(参照)日本の人事部サービス紹介ページ(http://jinjibu.jp/service/detl/11716/)
【これからの調査設計について】
一般的なアンケート調査は、質問及びその回答を問うにあたっての時点が「現在」になっているものが多数です。実はこれでは現状に対する社員の考えを表出するにとどまり、社員が描くあるべき姿までは見ることができません。われわれPOPとしては、そこのギャップこそが課題であり、そのギャップを埋める方法を検討して施策を打つことが会社として効果的な取り組みにつながるものと考えています。
つまり、そのギャップが見えない中で組織・会社が取り組もうとしている施策については効果性・効率性が十分では無いといえるのではないでしょうか。また、今組織・会社が抱えているギャップを埋めるために有効性があるものであるかどうか、それをステークホルダーに示すためには、ギャップを基準とする必要があるのではないでしょうか。
「これからの調査設計」という観点で、調査という表現から一歩踏み込むとするならば、「調査」を行うのではなく、「監査」(※)を行うことを提案します。
※ここでは監査を、「遵守すべき法令などの規準に照らして、業務や成果物がそれらに則っているかどうかの証拠を収集し、その証拠に基づいて、監査対象の有効性を利害関係者に合理的に保証すること」と定義する。
上記を踏まえて、言い換えるならば、「ギャップを基準として、施策・取り組みがそれらに則っているかどうかを確認。その有効性を各種組織責任者や社員に合理的に保証する」。
5.まとめ
「エンゲージメントを高める」といっても二通りある点に留意が必要です。また、昨今の企業の事業環境から、「より競争優位性にエッジをたてる」ということに焦点を絞るという観点から、アドバンスドホワイトカラーのエンゲージメントを高めるという考え方があります。また、これまでのような「調査」ではなく、施策や取り組みの有効性をステークホルダーに合理的に保証する「監査」として、「エンゲージメント調査」ではなく「エンゲージメント監査」を実施するという提案をさせていただきました。
以上、読者からの御叱正を乞う所存であります。
※本詳細説明資料は、http://jinjibu.jp/service/detl/11715/からダウンロード(無料)してください。
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事業会社人事の経験も踏まえ、表面的な仕組みではなく、機能する仕組みの導入、定着をご支援します。
大手総合電機メーカーの人事業務に従事した後、シンクタンク系コンサルティングファームを経て現職。
人事制度の設計・運用支援を専門とし、タレントマネジメント、チェンジマネジメント等人事領域全般におけるコンサルティングに従事している。
上野 晃(ウエノ アキラ) EYアドバイザリー株式会社 マネージャー
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