【コラム】教養としての人材開発(第2回)
弊社の人材・組織開発コンサルティング事業のパートナーで、グローバル企業のCHOを歴任されてきた木本正之氏のコラムの連載、2回目です。
【著者プロフィール】木本正之氏 部室HRplus 代表
テルモ、メドトロニック、フィリップス、パーカー・ハネフィンなど日系・外資系双方のグローバル企業において人材・組織開発の責任者を歴任。キャリア40年、一貫して「事業成果を必ず出す人材・組織開発」を実践。『闘う覚悟と現場の”ザラザラ感”なくして成功はない』が信条。
1956年生 熊本市出身。東京在住。
性格: 熱願冷諦
趣味: ゴルフ、サッカー、飲酒
語録:
「キャリアと人生は共にリニアではない」
「世界で勝つにはWar for Talent!」
「チャンスはストックでない、フローだ」
キャリア概要:
1980年千葉大学卒(経済学専攻)
2004年ミシガン大学ビジネススクール、エグゼクティブコース終了
1980年に4月日系メーカー入社以来キャリア40年。
内容は以下の通り
・日系企業9年間: テルモ株式会社
人事組織6年、マーケティング3年(米国勤務)
・米系企業2社16年間: 日本ミリポアと日本メドトロニック(株)
人事組織14年、ビジネスマネジメント2年
・欧州企業9年間: (株)フィリップス・エレクトロニクス・ジャパン
人事組織9年
・米系企業8年間:パーカー・ハネフィン日本グループ取締役人事部長
セミナー、講演、講義実績:
・日経ビジネスセミナー
「挑戦・変革・創造を実践できる人材の開発〜グローバル企業の視点で考える人事・人材開発のイノベーション〜」
・秋田国際教養大学(AIU)をはじめ大学での講義経験も多数
【コラム】教養としての人材開発(第2回)
今回は人材マネジメントについて、考えてみたいと思います。
グローバル・カンパニーで、タレントマネジメントと呼ばれているHRMの主要領域の一つです。日本では古くから、” 企業は人なり“と言われています。欧米企業では、People are the most valuable assetsとも言われます。
ご存知と思いますが、Talent Managementを議論する時のストラクチャーとして次の3つの柱があります。
1. 人材獲得 ( Talent Acquisition )
2. 人材開発 ( Talent Development )
3. 人材保持 ( Talent Retention )
1. 人材獲得 ( Talent Acquisition )
War for Talent! ですね。
私の経験から言えば、景気が良い時も悪い時も、経営環境の良し悪しに関わらず、いつの時代もグローバル・レベルで人材は間違いなく不足しています。
Talent PoolやTalent Benchと称される社内人材の層を充実させていくことに人事部はOwnershipを持って会社をドライブしていくことが期待されています。
では、人材獲得のプロセスはどこから始まるのでしょうか?それは、次のような流れであり、ビジネス全体を俯瞰してプランすることが重要です。Business orientationです。
①事業戦略 → ② 組織戦略・デザイン → ③ 部門戦略・機能設定 → ④ 部門貢献内容の定義 → ⑤部門内各ポジション・プロファイル設定
②,③,④においては、KARというものを書き出します。
Key Areas of Responsibilitiesです。
⑤においては、基本的にはJob Descriptionですが、私は同じくそのポジションのKARを設定することを勧めています。
また全体プロセスが人材を探し、面接その他で評価するステージでは次の2側面の評価項目の設定とフォーマット化が必要です。
- SKE: Skills, Knowledge and Experiences
- Competencies
SKEはそのポジションに求められる、スキル、知識、それらを使って仕事をした経験の幅と量です。Competenciesは前回のコラムでお話しした Cultureに関連する会社が大切にしているValuesを実践する為に社員に求める要件です。例えば、次のようなことです。
-Strategic perspectives(戦略性、戦略的視点)
-Creativity (創造性、独創性)
-Result orientation(結果重視、結果に拘り仕事を貫く姿勢)
-Flexibility/ Adaptability (柔軟性、対応性)
-Integrity ( 誠実性)
-Communication skill(コミュニケーション能力)など。
2. 人材開発 ( Talent Development )
皆さんの会社にも、社員能力開発についてのポリシー、体系、プログラムの類をお持ちかと思います。一方、真の人材(またはそれを目指している人達)は、会社のプログラムが自身のキャリア・デベロップメントに有効であると判断すれば、積極的に会社を利用します。ですが、基本は自分の時間とお金を使って活動しています。自己の能力開発とキャリア・デベロップメントのOwnershipは自分にあるのだと理屈抜きに理解しているのです。
特に米国では(私がいた時代の米国では、というべきかもしれませんが)仕事をして学費を貯めて、ある期間大学の授業や高等教育を受ける、そしてまた学費を貯める、それを何度か繰り返すという人達が多くいます。ある一定以上の年収の親を持つ若者は例外であり、また米国の社会構造がそれを強いている、または、それができる社会構造や価値観があるのも事実です。
さて、皆さん方の会社には、自分自身のキャリア・デベロップメントにしっかりOwnershipを持っている社員はどの程度いらっしゃいますか?そして、あなた自身はどうなのですか?
会社が用意する人材開発の軸は何であるべきでしょうか?答えはAssignmentとExperienceの機会提供だと私は考えます。
- OJT, セミナー、研修、図書からの学び: 30%
- 実際の職務のアサインメント、経験: 70%
現在MNCs ( Multinational Companies )の多くはそのように考え、実践努力をしています。もちろん、その日本法人も同様です。何故か? その一つの理由は次の人材保持(Talent retention)にも大きく関係します。
3. 人材保持 ( Talent Retention )
真の人材(またはその予備軍)は、常に上昇意欲、学習意欲、経験意欲が高い。会社はAssignment/ Experienceの機会の提供を以って組織内で活躍し続けてもらうことにより、会社の競争力を高め、維持することができます。経営側にとっては、その機会提供創出はチャレンジを意味し、別の言い方をすれば、タレント社員と経営側との勝負とも言えるのです。年功序列系中心の制度、パワー・マネジメントは論外で、また形ばかりの留学制度なども上述の文脈では機能しません。
会社の競争力強化、ビジネスの成功・拡大への貢献は低いということです。そして、そのような機会が中長期的に見ても今の会社では実現可能性が低いと見れば、Talent達は現在所属している会社の外にそれを求め、人材市場に目を向けます。自然ですよね。
ダイバーシティとインクルージョン ( Diversity & Inclusion )に関して
Talent Managementについて、ここまで3つの柱で考えてみました。
それらに加えて D&Iという戦略的な要素についても考えてみましょう。ご存知の Diversity & Inclusionです。経営戦略、組織・人事戦略の
一つとして登場したものです。日本でも15年位になると思います。
当初は日本語にすると狭義な印象を与える(限定的な自己解釈を持つ可能性がある)内容でした。
多種多様な価値観(文化・宗教)、境遇、教育経験(学歴)、性的差異、国籍、年齢などをバイアスなどによって単純にはじき出すのではなく、受け入れる、含み込む。という視座だと私は考えています。
そして、事業会社、組織においては、D&Iを経営に取り入れることが競争優位に働き、継続的な事業の成長と成功のドライバーになるという戦略的思考なのです。もとより、例えば日本と米国では国の成り立ち、歴史による社会的構造、背景、または法体制の違いにより、D&Iに対する関わり方そのものが違っていた事情はあると思います。社会的認知度の程度とも言えます。
日本では、これまではD&Iといえば女性と就業のあり方、女性管理職比率、などが議論の主役であったのではないでしょうか。国の政策的アジェンダでもあり、これはこれで重要であると思います。同時に、私は少子高齢化、人口減少などを考えれば、日本においては定年退職者の社会貢献、事業参加についての幅広い施策が重要と考えます。そして、外国人の積極採用に向けても国家やビジネスサイドにもまだまだできることは多くあると思います。
今回はTalent Managementの3つの柱とD&Iについて考えてみました。お伝えした内容はそのエッセンスです。実際には、それらを進めていく上での、ポリシー作成、各種のドキュメンテーション、フロー、そして重要なものとして責任役割マトリックス表 (Role & Responsibilities Matrix)を実務的に作成、準備することになります。
そして、それらについての社員へのコミュニケーションとトレーニング、特にマネージャー・トレーニングがより重要になります。そして、それはEmployee Engagement向上にも繋がるものです。
今回はタレント・マネジメントの基本的アウトラインをレビューしてみました。多くの読者の皆さんにとっては、既知のことであったかもしれません。次回はこのアウトラインを軸に私の実体験や歴史からの学びにも触れながら、タレント・マネジメントとリーダーシップの森に踏み込みたいと思います。
読者の皆さんからの多くのフィードバックを頂ければ幸いです。
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冨田晋作(トミタシンサク) tag&associates 代表取締役
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