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部下のモチベーションUPの決め手、「15の欲求分類」

部下の動機づけのキモは、相手ことを理解して、その心に響く声がけをすること。モチベーション・マトリックスで部下をタイプ分けすることにより、部下の本質を理解する方法を紹介します。

部下のモチベーションの源泉を見抜け!

部下のモチベーションアップに悩む管理職の方ならば、こんな経験はないでしょうか。全く同じ言い方なのに、こっちの部下には響くけれども、あっちの部下には響かない…。その謎を解く鍵がモチベーション・マトリックスです。

人のやる気は様々あり、その類型をマトリックス、すなわち表組みで表したもので筆者が考案しました。この図を見ながら、ご自身の部下がどれにあたるかを見抜き、相手に合わせた声がけをするのがモチベーションアップに「効く」のです。たとえば右上。ある部下が、損得勘定によって動くタイプだとしましょう。その場合、「この仕事をクリアすれば、あなたの得になるよ」と伝えてあげるとやる気アップです。ちなみに、「損得」と言っても金銭面ばかりとは限りません。「やりたかったあの仕事を担当できる」、「有給休暇を優先的にとれる」、など幅広い意味での損得です。

ところが、まったく同じ事を左上のタイプ、「承認欲求」が強い人に伝えても、反応は鈍いものです。むしろこのタイプへは、「この仕事をやってもらえるとありがたい」、「この仕事が完了できるとみんなから感謝される」のような声がけの方がやる気アップにつながります。

部下を理解することがモチベーションアップの基本

筆者は企業研修の講師として、さまざまな企業の管理職の方にこのような話をします。すると、返ってくる反応が、「4タイプでは単純過ぎるのではないですか?」というもの。でも、実は筆者が伝えたいことは、違うんです。別にこのモチベーション・マトリックスが正解だと言いたいわけではなく、大事なのは部下を理解しようということなのです。そのための「入り口」として使いやすいので、モチベーション・マトリックスをお勧めしているのです。

逆に、有名なフレームワークであるにもかかわらず、部下の理解につながりにくい例を紹介しましょう。それが、マズローの欲求段階説です。

●高位の欲求
・自己実現欲求: 自分がなれるものになりたいという欲求
・自尊欲求: 達成感などの内的要因、表彰などの外的要因などを求める欲求

●低位の欲求
・社会的欲求: 愛情、帰属意識、受容、友情などを求める欲求
・安全欲求: 物理的および精神的な障害からの保護と安全を求める欲求
・生理的欲求: 空腹、渇きなどを癒す肉体的な欲求 

ご存じの方も多いと思いますが、この仮説では人間のさまざまな欲求には階層があり、下の階層が満たされてはじめて上の階層が重要になるとされます。でも、下位の欲求、生理的欲求や安全欲求が満たされていない職場は、現代日本ではまれでしょう。必然的に部下の欲求を刺激するには高位の欲求に目を向けることになりますが、一番上の「自己実現の欲求」というのが曖昧(幅が広すぎる)です。試しに部下に聞いてみましょう。

上司 あなたの自己実現の欲求は何ですか?

部下 自己実現?えーっと、何でしょうね?

という返事が返ってくることが想定されます。すなわち、マズローの欲求段階説を入り口に、部下を理解するのは難しいのです。

もちろん、マズローの仮説にも意味はありました。もともとこれが発表されたのは1943年。当時の職場、とくに製造業においては安全欲求が満たされていないところもあったと想像されます。そのような職場の経営者に対して、職場環境の向上を啓蒙するためには段階説が有効であったと筆者は考えます。

なお、心理学の知見からは、人間の心の中は階層構造になっているという仮説は否定されています。すなわち、下位の欲求が満たされなかったとしても上位の欲求が重要になることはあり得るので、この観点からも欲求段階説はお勧めしにくいのです。

部下の心を理解する15の欲求

では応用編として、モチベーション・マトリックス以外の人間の欲求を分類したフレームワークを紹介します。実は世の中にはさまざまな説があり、中には59種類の欲求に分類するという研究成果もあるくらいです。ただ、逆に細かすぎると覚えるだけでもたいへんで、現場で使いにくくなってしまいます。なので、ちょうどいい塩梅に分類したものとして、アレン・エドワーズ氏の提唱する15の欲求(EPPS)を紹介します。

1. 達成欲求:何かを達成したいという欲求
2. 追従欲求:習慣や誰かからの指示に従いたいという欲求
3. 秩序欲求:計画をしっかり立てたり、物事を整理したいという欲求
4. 顕示欲求:集団の中で中心人物になりたいという欲求
5. 自律欲求:責任や義務から逃れて自由になりたいという欲求
6. 親和欲求:他者と友情や一体感を持ちたいという欲求
7. 他者認知欲求:他者の感情や行動の背景を知りたいという欲求
8. 救護欲求:誰かに助けてもらったり、気を遣われたいという欲求
9. 支配欲求:リーダーとなり、他者に影響力を発揮したいという欲求
10. 内罰欲求:他者からの批判を受け入れたり、自らの失敗を認めたいという欲求
11. 養護欲求:誰かの世話をしたり、手助けをしたいという欲求
12. 変化欲求:新たな体験を求めて、決まり切ったやり方を避けたいという欲求
13. 持久欲求:(仕事を完了させるため)何かをやり続けたいという欲求
14. 異性愛欲求:異性と付き合ったり、魅力的に見せたいという欲求
15. 攻撃欲求:自分の意見を押し通して他者を批判したいという欲求

このリストを見ながら部下を観察することで、「なぜその行動をとるのか」が分かってより深い理解につながります。たとえば、言い訳が多い部下。期日までに仕事が出来ていないことを指摘すると、「時間が足りなくって」、「機材の使い方が分からなかったので…」などの答が返ってくるタイプです。筆者はその手の部下は苦手で、「言い逃れで責任を回避するなよ」と口には出さないけれど、いらだちを覚えていました。でも、EPPSを知ることで、その部下を理解する糸口をつかめました。

カギになるのが10番目の内罰欲求。「他者からの批判を受け入れたり、自らの失敗を認めたいという欲求」という説明を聞くと、ややわかりにくいと感じてしまうかもしれません。むしろ、内罰の逆、外罰的な人の行動を考えるとピンとくるでしょう。

外罰欲求が強い人は、何かトラブルがあったときに、その原因を自分以外の「何か」のせいにするのです。それはまさに、言い訳が多い部下の行動にマッチします。つまりその部下は、「いいわけで責任を回避している」わけではなく、「単に外的なものに理由を帰したい」という特徴があるのでしょう。

なぜそうなったかを考えてみると、幼少のみぎりからの育成過程に原因があるのかもしれません。たとえば、親の愛情が首尾一貫しておらず、気まぐれだったとしたら。子供としては親に愛されるか否かは死活問題ですから、愛情の獲得に必死になります。その過程で、思いこむのでしょう。「悪い子だと親から愛されないんだ。何かあっても私は悪い子にならないように、自分以外の『何か』のせいにしよう」、と。結果として長じてからも何かあったら他者のせいにする、外罰的な行動をとるのでしょう。

もちろん、筆者は心理学者ではないので、このような想像は仮説に過ぎません。でも、EPPSを入り口とすることで、部下のことをよく知ることができました。以前はいらだちを持って、「言い訳するヒマがあったら仕事をしろよ」としか見れなかった部下の行動が、背景を想像することで別の受け止め方をすることができるようになりました。結果としてより冷静に、その部下のモチベーションアップにつながるはたらきかけができたという実感があります。

部下のモチベーションアップは、想像以上に複雑です。でも根底に、その部下のことをよりよく理解しようというマインドがあるのは間違いありません。モチベーション・マトリックスやEPPSが、その一助になれば幸いです。

  • リーダーシップ
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  • ロジカルシンキング・課題解決

グロービス経営大学院の立ち上げを担った人材育成のプロ

ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る

木田 知廣(キダ トモヒロ) シンメトリー・ジャパン代表

木田 知廣
対応エリア 全国
所在地 港区

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2024/10/30 ID:CA-0005686 ダイバーシティ・マネジメント