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「自走式部下」の落とし穴~行動変容のカギは自己効力感UP

自律的に行動できる「自走式」の部下育成に取り組む上司が陥りがちなのが「個人攻撃の罠」。これを乗り越え、部下に指示待ちからの脱却を促す「行動アプローチ」を紹介します。

●自走式部下育成の悩み

「自走式人材」、つまり自律的に行動できる部下が求められています。背景にあるのは管理職の多忙化。部下のマネジメントに時間が割けない中、自分で考え行動してくれる部下が欲しいというニーズです。

ところが、自走式部下を育成すべく、どれだけ上司がはたらきかけても、いつまでたっても指示待ちから脱却しない人はいます。そのような部下に直面したとき上司が陥るのが「個人攻撃の罠」。口には出さないものの、「こっちがこれだけ手を尽くしているのに、なぜお前は変わらないんだ!」と部下に対して個人的な怒りを感じるもので、お心当たりがある人も多いのでは?

でも、個人攻撃の罠にいいところは一つもありません。部下は萎縮してしまいますし、上司だってストレスをため込んでしまうでしょう。そんなときに試していただきたいのが「行動アプローチ」。その名の通り、目に見える行動をベースに部下を指導・育成する方法です。

その際のコツは、部下に期待する行動をできるだけ細かく・具体的に説明すること。一見すると「当たり前」に聞こえるかもしれませんが、できていない上司は多いものです。典型的な悪い例が下記のような指導です。

<社内でお客様とすれ違ったら、ちゃんと挨拶してください>

言われた部下の方にしてみれば、「ちゃんと」の範囲が広すぎて、具体的にどのような行動をとったらよいか、ピンときません。結果として行動は変わらず、上司からまた、「こないだお客様がいらしたとき、ちゃんと挨拶してなかったよ」という無駄な指導につながります。

そうではなく、

<社内でお客様とすれ違ったら、会釈(身体を15度前に倒して頭を下げる)して下さい>

というのであれば、部下も迷うことなく行動を改めてくれるでしょう。

●一見遠回りだが実は近道の部下育成法

筆者は企業研修の講師として、このような説明を管理職の方々にさせていただきます。そうすると、決まっていただく質問があります。

<それっていわゆるマイクロマネジメント。細かすぎる指示はよくないのでは?>

と。

ところが、一見遠回りのように見えて、実はこちらの方が部下から自律的な行動を引き出すことができのです。

あるいは、割り切って考えるならば、単純に個人攻撃の罠を避けるためだけでも、行動アプローチを試す価値は十分あります。部下に対して怒りを抱えていると、思わずパワハラ的な言動をとってしまいかねません。今の時代はパワハラ速アウトですから、部下が自律的に動いてくれることはいったん諦めて、行動をベースに淡々と接する方がよい場面があると筆者は考えています。

とはいえ、うまく活用すれば行動アプローチは自走式部下育成に役立つので紹介しましょう。その際のヒントが、ハーバード・ビジネススクール教授のテレサ・アマビール氏が提唱する「進捗の法則」です。端的に言えば、部下がもっともモチベーションを高めてくれるのは、「やりがいがある仕事の進捗を感じる」ときである、というものです。

これを行動アプローチで活かすとするならば、部下が期待した行動をとってくれたとき、上司がそれを認めて感謝の言葉を口にするのです。結果として部下は進捗を、ひいては自身の成長を感じられるようになります。たとえば先ほどのお客様への挨拶の事例ならば、下記のような言葉になるでしょう。

<先日お客様がいらしたときに、会釈をしてくれていたね。私も見ていてさわやかな気持ちになったよ>

そして、次の指導として、ややハードルを上げた行動を言葉にします。

<では今度は、お客様の目を見ながら「いらっしゃいません」と挨拶するようにして下さい>

それができたらまたハードルを上げた次の指示を…と繰り返していくうちに、部下自身が気づきます。

自分は、上司から指示された行動をできている。しかも、ハードルを次から次へとクリアしている!

と。結果として、部下の中では自己効力感、すなわち、「私はやればできる人間だ」という感覚が高まるのです。

 

●自己効力感が生み出す自走式部下

もともとの問題意識に戻りましょう。上司がどれだけはたらきかけても自律的な行動をしない部下は、自己効力感が欠けていたと考えられないでしょうか?その心の内面を推し量ると、「上司の言っていることは分かる。でも、できないんだよなぁ…」という状態でしょう。そのような心理状態では上司が「もっと積極的に」とハッパをかけられても、「これができたらボーナスが上がる」とニンジンをぶら下げられても行動を変えることはありません。むしろ、行動アプローチによる自己効力感の蓄積が、内発的な動機づけとなり行動変容のきっかけになるのです。

もちろん、全ての部下にこのアプローチが効くわけではありません。ただ、筆者の見るところ、日本人の管理職はおしなべて「部下指導の方法論の幅が狭い」傾向にあります。つまり、昔ながらのやり方や、自身の経験に基づく指導しかできていないということです。

「進捗の法則」のような最新理論にもとづいた指導のテクニックを習得することが、自走式部下の育成はもちろん、職場をよくするカギであると筆者は信じています。

  • リーダーシップ
  • マネジメント
  • チームビルディング
  • コミュニケーション
  • ロジカルシンキング・課題解決

グロービス経営大学院の立ち上げを担った人材育成のプロ

ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る

木田 知廣(キダ トモヒロ) シンメトリー・ジャパン代表

木田 知廣
対応エリア 全国
所在地 港区

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