1 on 1で部下がイキイキと話してくれるマジックワード
1 on 1で部下が話してくれないという悩みをよく聞きます。これを解消するのが、上司の「聞く力」向上。部下から意見を引き出し、ひいては信頼関係を構築できる、「マジック」のような簡単な手法を紹介します。
1 on 1で部下が話してくれない
「1 on 1で、部下が話してくれないんです…」。筆者は企業研修で管理職向けに指導することが多いのですが、最近よく聞く悩みです。せっかく時間をとって会議室も押さえているのに、沈黙が続いて盛り上がらない。予定した時間より早めに切り上げるけれど、徒労感だけが残る…。
実はそのような管理職を観察していると、会話のときに「相手の話を受け止めていない」という特徴が見えてきます。おそらく、1 on 1でも「心ここにあらず」という雰囲気だったり、自分が話すことで頭がいっぱいで、真剣に部下の話を聞こうという態度が見えないのでしょう。ましてや、部下は上司のことをよく見ています。たとえ外面を取りつくろっても、「この上司は、本当のところは人の話を聞きたくないんだな」と思われたら、進んで発言してくれるはずはありません。
…という話を上司にすると、たいてい反論が返ってきます。「いや、そうは言っても、部下の言うことを何でもハイハイって聞くわけにもいかないですよね。間違ったことを言ったら指導もしなければならないし」、と。でも、それは誤解。
「部下の話を受け止める」というのは、賛意を示すと言うことではありません。発言内容の当否は別にして、「あなたはそう思っているんだ」と理解を示すのです。さらに踏み込んで考えるならば、部下の存在を承認することにつながり、最近流行のキーワードで言えば心理的安全性を確立する」と言いかえてもいいでしょう。
そして、承認行動の中でも真っ先に試していただきたいのが、「あいづち」です。それも、「ふんふん」、「ほうほう」と他人行儀なものではなく、部下の発言の語尾を繰り返すあいづちを打つのです。これだけで1 on 1の会話がガラッと変わります。
1 on 1での承認行動の例
実際の例で考えてみましょう。1 on 1の場で上司から問いかけたとします。「一歩引いた視点から見て、最近何か問題意識ある?」。答えて部下が、「いえ、とくには。…あえて言えば、ちょっとやる気が出ないときがあります」、と発言したとしましょう。
上司は、どのように返すのが正解でしょうか?まずは悪い例から。
「お金をもらっている以上プロなんだから、自分の心身の管理も仕事のうちだぞ」
こんなふうに正論で返されては、「承認」どころではありません。部下にしてみたら、話を続ける気にもならないでしょう。「はい、分かりました」と言葉では言いますが、(早くこの時間終わってくれないかな)と思うばかり。
では、正解の会話例も見てみましょう。
部下 「いえ、とくには。…あえて言えば、ちょっとやる気が出ないときがあります」
上司 「『やる気が出ない』かぁ。原因は心当たりある?」
部下 「いえ。いつもこんな感じなんで」
上司 「『いつもこんな感じ』かぁ。そうは言っても、今回のやる気のなさっていつ頃から?」
部下 「…そうですねぇ。言われてみれば、2週間ぐらい前ですかね…」
上司 「『2週間前』ね…。そのころ何か、キッカケになることあったっけ?」
語尾を繰り返す相槌を打つことで、指導するわけでもなく、反論するわけでもなく、「あなたはそう思っているのね」と承認を示しています。結果として会話が続いていきますし、なんとなく解決につながるような気配も感じていただけるでしょう。
「聞く力」が弱い日本人
実は管理職にとって、「相手の話を聞く力」は大きな武器になります。1 on 1は当然として、日常の部下とのコミュニケーションでも、あるいはお客様や地域住民など、ステークホルダーとの関係構築に役立ちます。
逆に言うと、「聞く力」が弱い上司は部下から適切に意見を引き出せず、判断を誤ってしまうことにもつながりかねません。たとえば、トラブル対応のような緊迫した状況を想定してみましょう。上司にしてみると状況を把握するために事実を知りたいだけなのに、部下は言い訳ばっかりで肝心のことを言ってくれない、そんな体験をしたことがある方も多いのではないでしょうか?部下にしてみると、(また上司に正論で返されたらイヤだな)との想いが先に立ち、ついつい「私は悪くない」というアピールをしてしまうのでしょう。すなわち、上司の「聞く力」の弱さを表すと考えられます。
ところが、世の中の多くの管理職が、「聞く力」を伸ばせていません。というか、そもそもとして、「聞く力」を向上させるノウハウがあることすら知らないのが現状でしょう。たとえば先ほども紹介した語尾を繰り返すあいづち以外にも、承認行動はさまざまあります。うなづきのシンクロ、本物の笑顔、相手との座る位置関係など、欧米を中心に社会心理学者の研究によって検証された方法論が確立されているのです。
冒頭の悩みに戻りましょう。「1 on 1で部下が話してくれない」という状況は、上司の自分の「聞く力」不足が露呈してしまっただけなのかもしれません。だとしたら、逆に1 on 1を、自分にとっても「聞く力」を鍛える場と捉えることができるのではないでしょうか。幸い、1 on 1は継続的に続けていきますから、「場数」を踏むことができます。しかも、成果は1 on 1にとどまりません。「聞く力」を武器にできるようになったとき、普段の職場でもイキイキとしたコミュニケーションで、部下からの信頼度アップも実感できるはずです。
問題意識を持つ管理職の方は、ぜひ試してみてください。
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グロービス経営大学院の立ち上げを担った人材育成のプロ
ワトソンワイアットで人事制度の構築に携わり、その後ロンドン・ビジネススクールに留学し、グローバルリーダー育成の大家スマントラ・ゴシャールに師事(MBA取得)。2012年より米マサチューセッツ大学MBAの教鞭も執る
木田 知廣(キダ トモヒロ) シンメトリー・ジャパン代表
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