世界的規模調査から導き出されたリーダーシップの未来予測第2回
◆優れた人材供給体制の作り方
本コラムでは、世界的な規模で展開された調査、「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト(GLF)」により導き出されたリーダーシップに関する未来予測の中から、特に重要な所見を取り上げて紹介します。
これは、株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)と米国DDI社との協力で実施した大規模なリーダーシップ調査であり、世界50カ国以上、13,695名のリーダーと1,827名の人事担当者の回答を検証したものです。日本からは2,158名のリーダーと161名の人事担当者が参加しています。
前回は、CEOが抱えている課題について解説しました。
今回は、優れた人材供給体制をもつ企業が得ているメリットと、その構築方法にフォーカスします。
◆人材供給体制は低下傾向にあるが、その課題を克服した組織は大きなメリットを享受している
過去10年間のMSC/DDIの調査によれば、人材供給体制は年々低下の傾向にあります(図1)。特に、重要ポジションのリーダーが不足していることへの懸念が指摘され、これに対処するための施策が求められています。一方、この課題を克服し、優れた人材供給体制をもつ企業は大きな利益を享受しているのも明白です。
現在、最も懸念される傾向の一つは、業界内で重要な役割を果たすリーダーが不足していることです。ビジネスに求められる能力が変化している中で、企業戦略の実行に直結する要職の人材不足や、離職によるリソースの減少が深刻な問題となっています。これに対処するため、組織は外部からの採用や慣例にとらわれない施策を模索していますが、対策は難航しています。特に、リーダーの不足は深刻な状況です。
人材の供給体制に優れていると評価した組織は、グローバルで12%に過ぎません。さらに、日本ではこの割合はわずか5%にとどまりました。図2は日本のビジネスリーダーが選んだビジネスの優先事項ですが、「組織の人材力強化」が最も高い値を示しています。前回紹介した世界のCEOのトップアジェンダ「優秀な人材の獲得と定着」「次世代リーダーの育成」と、調査に参加した日本の事業部のビジネスリーダー(ラインの事業部長、部長など)の意識は一致しています。
人材供給体制の整備には予想以上の労力を要しますが、一度その体制を整えた組織には以下のような大きなメリットがあると報告されています。
・ 従業員がリーダーを高く評価する確率が10倍高い。
・ 優秀な人材を引き寄せ、定着させる確率が6倍高い。
・ 従業員の燃え尽き症候群を防ぐ確率が5倍高い。
・ 業績上位の組織になる確率が3倍高い。
◆優れた人材供給体制の構築方法
優れた人材の供給体制を有する組織は、多様なハイポテンシャル人材の特定と育成に多額の投資を行い、組織がより機敏にビジネス課題に対応できるようにしていることが明らかになっています。
ひっ迫した労働市場においては、組織はリーダー候補者を社内で確保する必要があります。しかし、人材の供給体制が低下しているため、それはますます困難になっています。人事担当者も同様にこの問題を認識しており、グローバルでは33%が社内の人材を育成する必要性が大幅に高まると回答しています。長期的な成功を収めるためには、社内でリーダーとしてのポテンシャルがある人材を見出し、育成について熟慮し、創造性を発揮する必要があります。
ここでは、優秀な人材の供給体制が整った組織が行っている施策として、社内でポテンシャルのあるリーダーをいかに発見し、早く育成していくかについて解説します。
1. 将来のために、より強力で多様なパイプラインを構築する計画を立てる
組織が将来の人材ニーズに対して積極的に計画を立てている場合、多様なリーダーを有する確率が高くなります。優れた人材の供給体制をもつ組織は、そうでない組織に比べて、女性リーダーが22%、多様な背景をもつリーダーが36%多くなっています(グローバル)。しかし、多くの組織は未だに重要な人材を見落としており、「多様な候補者を採用し、昇進させている」と回答した組織は、わずか21%でした。
2. より早く、より広く、ポテンシャルを顕在化させる
発掘されていないポテンシャル人材の多くは、組織の最下層にいるとされています。しかし、その人材が従来のリーダー像に合致しない場合、リーダーはポテンシャルに気づかない可能性があります。また、リモートワークやハイブリッド型勤務では、従業員のプロフィールや努力、貢献、ワークスタイルが見えにくくなるため、この問題はさらに深刻化するかもしれません。このような状況では、オンライン・アセスメントを活用することにより、ポテンシャルの高い人材の発掘が可能となります。
3. リモートやハイブリッド型勤務で働くチームを率いるリーダーの能力を開発し、人材を育成する
幅広いリーダーシップ・スキルの中で、リーダーは、人材を特定し、育成するスキルに最も自信がないと回答しています。また、リモートワークやハイブリッド型勤務で働くチームを率いるスキルにも自信がないようです。バーチャル環境で人を率いるスキルの開発を重視している組織は、バーチャル環境下でポテンシャル人材を見落としている組織に対して、競争優位に立つことができる可能性を秘めています。
4. 重要な役割に求められる人材像(サクセス・プロフィール)を作成する
特定の職務に必要なリーダーシップ・スキルを定義することは、リーダーが現職での成功や昇進に必要な能力開発に焦点を当てるのに役立つ。
参考文献:グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2023日本特集
- 経営戦略・経営管理
- 人材採用
- グローバル
- リーダーシップ
- マネジメント
26年余のリーダーシップ開発、組織開発、サクセッション マネジメントなどの経験を有し、日系、外資系企業にコンサルテーションを展開。
外資系コンサルティングの経営職、および外資系半導体企業のHRBPとしての豊富な経験を強みとし、日系、外資系企業にリーダーシップ開発、組織開発、サクセッション マネジメントなどのコンサルテーションを展開。
福田俊夫(フクダトシオ) 株式会社マネジメントサービスセンター 取締役
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