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”農園型”障害者雇用の急増の背景 批判の声があがる理由

企業に対して貸農園などの働く場を提供し障害者雇用を創出する、いわゆる「農園型障害者雇用」を利用する企業が急増しています。共同通信の記事によると、サービスを提供する事業者は十数社あり、利用企業は全国で約800社、働く障害者は約5千人に上るとのことです。

引用元:障害者雇用「代行」急増 法定率目的、800社利用(共同通信)

 

農園型障害者雇用とは

 

一般的に「農園型障害者雇用」というと、企業が障害者雇用義務を達成することを目的としたビジネスモデルを指しています。農園型障害者雇用モデルを提供する専門業者は、障害者を雇用する企業向けに働く場所として農園を提供することに加え、そこではたらく障害者を紹介することで一定の利益を得ています。

利用する企業にとってみると、障害者雇用にかかる様々な課題や人的コストの負担を解消することができるメリットがあります。また、農園で働く障害者の方にとっても、オフィスワークなどの雇用はハードルが高いと感じている方にとって、安心して自分のペースで働ける職場となっているようです。

 

農園型が広がっている背景

農園型の雇用がこれほどまでに多くの企業に受け入れられている背景には、企業側の「業務の切り出し」の課題があるものと想定しています。法定雇用率は原則5年ごとに引き上げられる一方で、DX推進による間接業務の削減やコロナ対応による出社制限により、これまで多くの企業で障害者雇用のメンバーに任せていたオフィス内軽作業や清掃業務の業務量が減少しました。既存の業務で人数を増やせないなかで、多くの企業が障害のある方にやってもらう業務内容を確保することに困難を感じています。

それに加えて、大手企業の障害者向け求人の勤務地が集中する都内23区内は、雇用の売り手市場です。仮に業務があり募集したとしても、受け入れ側の希望にあう人材を採用することは難しくなっています。

社内理解の醸成や、安定的な障害者雇用の体制を整備するためにはそれなりの時間と労力が必要です。雇用率が一定の基準よりも下回ると企業名公表など大きな経営リスクに繋がります。そのような状況に置かれ、藁にも縋る思いで農園型のサービスを利用する、というケースも少なくないものと想像します。

 

自治体にもメリット、連携協定を締結し積極的に誘致するケースも

農園型で働く障害者の方々にも、経済的な面で大きなメリットがあります。

農園での作業にやりがいを感じて様々な選択肢から積極的に選んで働いている人もいる一方で、前述したように、農園型の雇用で働く方は、障害の状況や各々の事情により、通常のオフィス勤務に困難を感じている方が多くいます。

企業での就労が叶わない場合には、就労継続支援などの福祉就労で働くケースがあります。多くの方が働くB型という種別の施設では月1万円から2万円程度の工賃となります。農園型障害者雇用が存在しなければ、企業で雇用される機会が得られなかった方にとっては、願ってもない雇用機会といえるでしょう。

これは障害者の方々が居住している地方自治体にとっても、大きなメリットとなります。生活保護や福祉サービスの提供の対象となっていた住民が、企業に雇用され納税者となるのです。農園型障害者雇用を運営する専門業者と連携して積極的に農園を誘致する地方自治体もあるようです。

 

 

農園型障害者雇用に対して指摘される3つの疑問点

ここまで聞くと、雇用主、労働者、行政にそれぞれメリットがある「三方よし」のビジネスモデルのようにも思えます。しかしKindAgent株式会社のアンケート調査によると、障害者手帳をお持ちの方の約7割が農園型障害者雇用に対して良くないイメージを持っているというデータもあります。なぜ一部に農園型障害者雇用を批判する声も出ているのでしょうか。

引用元:「農園型障害者雇用」に7割の障害者が否定的意見(KindAgent株式会社)

 

指摘されている問題点は主に以下の3点です。

➀ 障害者が能力を発揮できる機会を奪っているのではないか

国が定めた障害者雇用の基本方針では、全ての国民が障害の有無にかかわらず共生する社会を掲げ、事業主に対し、障害者のキャリア形成への配慮や、障害者についての職場の理解を深めることとされています。
しかし企業が安易に農園型の雇用を選び、障害のある方と共に働く環境を整えることを怠ってしまうことがあれば本来の障害者雇用の方針に反するものです。急激な拡大はインクルーシブな雇用機会を損なうことにつながるのではないか、という懸念の声が上がっています。

➁ 雇用が労働の実体を伴っていないのではないか

農園型の雇用を「実体的には障害者雇用代行ビジネス」ではないのか?という指摘もあります。

労働とは、一般的には生産活動を行い価値提供を通じて継続するものです。しかし農園型障害者雇用を利用する大半のケースでは生産した農作物が市場に出回ることはなく、社員に無料で配布することが多いようです。それでは単に障害者雇用のためにあてがわれた仕事をさせているだけで、本当に雇用といえるのか?という指摘が各所でみられています。

➂ 一部の専門業者が過大な利益を得ているのではないか

企業が農園で数名雇用を始める場合の初期費用は、数百万円から一千万円程度かかるようです。それに加えて農園利用料として毎月数十万円のランニングコストが発生するようです。

この数年で十数社が農園型を提供するビジネスに参入していることを見ても、率直に言って農園型のモデルは儲かるビジネスとなっていることは事実なようです。業者がサービスを提供し利益を得ることはごく自然なことですが、障害者雇用という制度を利用して、過度に儲けすぎているのではないか?という意識が、批判の対象となる要因の一つになっていることが推察されます。

 

利用する企業や、業者によっても取り組み方は様々

これらの声を受け、国も動き始めました。障害者団体からの「やりがいのある働き方ではないのでは」との指摘を受け、厚労省は対応策を打ち出す方針です。

しかし上記に挙げた問題点が当てはまらないケースも多く存在しています。農園型障害者雇用を、様々な雇用の枠組みの一つと捉え有効活用し、真面目に取り組もうとする企業も少なくありません。農園型雇用を実際に利用する、ある企業の担当者様は以下のように話します。

 

「当社では4年前から屋内型の貸農園を利用し、5名のメンバーにハーブ栽培と加工をお願いしています。出来上がったハーブティーは社内のカフェテリアで提供され、オフィスで働く従業員の福利厚生として役立てています。今後は食品会社と提携し生産したハーブを加工食品の原材料として活用してもらうよう販路を調整中です。農園へは少なくとも週に1回、管理スタッフが農園に出向き、農園で働くメンバーと一対一の面談を行っています。メンバーはそれぞれ誇りとやりがいを感じて仕事に取り組んでくれているので、農園型雇用を十把一絡げに批判する風潮は残念に感じています。」(情報通信業 人事部障害者雇用担当 Aさん)

 

同社では、農園型雇用のほかに、本社でのインクルーシブな雇用や、特例子会社でのオフィスサポートなど、様々な業務内容・雇用モデルを併用した複合的な障害者雇用を実践しています。同社は幅広い人材を雇い入れるための雇用の受け皿の一つとして、農園型を有効活用している事例といえるでしょう。

また、専門業者のなかには、実際の農家と連携し本格的な農業の生産活動に寄与するビジネスモデルも存在します。農協観光では、各地域のJAを通じて、植え付けや収穫、野菜の加工などの工程で障害のあるメンバーが労働力を提供するモデルを構築し、参画する企業を募っています。

農協観光の障害者雇用支援事業については、働きたい障害者と、人手不足の農業につなげていく本来の「農福連携」のあり方を実現している雇用モデルの一つとして、肯定的に捉える声が多いようです。

 

多様な働き方のニーズに合わせて、雇用の受入れ方も多様であるべき

前述したとおり、農園型雇用だからこそ企業に雇用される機会を得られた人もたくさんいるので、農園型雇用を「代行ビジネス」として全般的に批判するのはあまり得策ではないように思えます。

障害と一言にいっても、その有り様はその人それぞれに多様な障害があります。またそれに合わせて働き方のニーズも多種多様です。雇用する企業側も同様にオフィスや現場で共に働く雇用を広げるとともに、多様な働き方の受け皿のひとつとして、農園型のような雇用モデルを検討する「バランス」が重要なのではないでしょうか。

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精神・発達障害人材の活用に関する企業コンサルティングのプロフェッショナル

これまで30社を超える国内大手・外資系企業の精神・発達障害人材の雇用推進プロジェクトに参画しています。

大野 順平(オオノ ジュンペイ) 株式会社Kaien 就労支援事業部 法人向けサービス担当 ゼネラルマネージャー

大野 順平
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所在地 新宿区

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